連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜
第六話
それから先はいろいろなことがあった。
セイの親父さんにはぶん殴られ、研究所に連れ戻され、虚脱感を紛らわせるためだけに研究をした。
だいぶ長く開けられなかった不死への扉を開き、何かの賞を取って帰国しても、僕は研究を続けた。
自分のクローンの体を生産し、凍結させておいて記憶はバックアップを作り、今の自分が死んでも安心できるようにした。
しかし、これからの人生に何の意味があるのだろう。
挫折、立ち直り、失恋……これらの意味を考えて数日潰すこともあった。
それから半年が経っただろうか。
結論として、恋愛はするものじゃないと思った。
僕が1人で生きてさえいれば、セイが死ぬ必要だってなかった。
僕がこんなに嫌な気持ちを持つこともなかった。
だから、恋愛なんてするものじゃない。
いい経験になったと、僕はこれからも生きていくことにした。
自分が“自由”だからこんな立ち直りをしたのかと、嫌に思うことはある。
だが、僕は人生を自由に謳歌し、これからも生きていこうと思った。
それからどれほど知識を貪り、どんな研究をしてきただろう。
僕は神と呼べるほど、凄い人間になっていた。
出来ない事がない、神に近しい存在になったと言って良いだろう。
ちょっと試す気持ちで、僕は世界に居る2人の神――龍と戦ってみた。
【確立結果】――望んだ結果を作り出すこの絶対の力を用いれば龍ごとき造作もなく、龍共はあっさり死んでしまった。
龍の体を解剖して少しだけ発見をして、それからは僕が代わりに世界の神になった。
だがその次の日、“管理”という存在がテレパシーを掛けてきた。
神になってみないか、と。
面白い、大変興味のそそられる話だった。
僕は大神という存在になり、体長8mぐらいある化け物、愛律司神の弟子となった。
化け物と会話をする不思議を超え、色々な技術を学び、世界を作るということがどういうことか学んだ。
僕が生きていた世界【クオトラーガ】というのはパソコンの中の実行ファイルの1つに過ぎないのだ。
実体のない電脳空間を実体があるように作るということを知り、僕も世界を作れるようになった。
ただ、愛律司神――師匠は僕にこう言った。
「君は、自分の生み出した世界を愛することも無いのでしょう。君の想いは愛というよりも、好奇心なのだから」
言われなくともよくわかっている言葉だった。
何十年、何百年経とうとも、僕はもう愛するということをする気はないし、好奇心に身を任せて生きてきたのだから。
「きゅーくん、これから貴方は自由を研究しなさい。研究熱心な貴方なら、数千年で自由律司神になれるかもしれない」
その言葉を聞いて、僕は自由の研究を始めた。
自分の心と向き合うような作業、現在の自由律司神の文献を読み漁り、記録していく。
気が遠くなるほど、莫大な時間をかけた。
自由という1つの言葉を取ってしても、奥が深すぎるのだから。
6千年ぐらいが経った頃だったか、自由律司神が降板し、僕が新たな自由律司神となった。
それは僕が生まれてから、約4億年が経った頃のこと。
よく生きた――人間でここまで生きる存在は少ないらしい。
だが、それからは律司神としてあらゆる世界の自由について、様々な律司神と交信したり、自分の世界の研究に励むようになった。
もう僕は神だ。
人間として生きてきた時間が僕の中で小さくなり、セイとの出来事も微小なものになって行った――。
だが10億年ほど経って、セイと思わしき人物が世界を跨いで“僕と似た顔の人間を殺している”と報告を受けるようになった。
どうやってか、“探知”の名を冠する律司神でも見つけられなかったらしい。
なぜ今になってセイが――?
僕のように、人を超えた生命体になったのだろうか。
わからない、わからない。
ただ、面白い――。
◇
アキューの物語りはここで終わっていた。
どれほどの時間を生き、どれほど大変な事があったのか、僕にはわからない。
だけど、彼の過去を見た今なら、彼が僕にやっかむ理由がわかった。
彼の記憶の塊、図書館から出る。
目を開けば、驚愕の表情をしたアキューが目の前に映っていた。
「何故だ――? 何故僕がしていた脳の浸食が止まった?」
彼の驚く理由がわかった。
そういえば、頭が痛いのが治っていた。
それもそうだろう、僕は彼よりも……
意志が強いから――。
「アキュー、君は僕が恋をするのが嫌で手を出してるんだろう?」
「ほう、よくわかったな」
「わかるさ。君が天使でちょっかい出してきたのは、僕と沙羅が付き合い始めてからだもの」
淡々と会話を進めていく。
今見た記憶だと、彼は同じ顔を持つ僕が恋愛をしていることが許せないのだろう。
そんなのただの八つ当たりだ。
僕としても許せない。
でもね、僕は愛ちゃんの後世だもの。
だから――
「君の間違いを正す。恋は素敵なものなんだ」
かつての僕も、霧代との別離で恋を嫌いになった。
でも、それでも
霧代と分かり合うことができて
沙羅が本気で僕を好きになってくれたから
今こうして、僕はここに立っている。
「教えてあげる。恋愛すると幸せになれるってことを。そして、君の心を塗り替える!」
夜明けに映る曙光のように暖かな、白い光が世界を満たす。
アキューという存在も含め、全てを包み込んだ。
◇
かつて師匠――愛律司神が僕にこう尋ねた。
「貴方の記憶は知ってるけど、もう一度恋人さんに会いたいとは思わないの?」
この問いに対して、僕は答えることができなかった。
会うべきなのかもしれない。
会わなければならないのかもしれない。
だけど、僕はセイを助けることができたのに、アイツが死んでる事に気付きもしなかった。
どうやってアイツが今、世界を回っているのかは知らない。
ただ、僕に憎いと言った。
殺したのは彼女だけじゃない。
生まれてくるはずだった赤子は戻ってこないんだ。
だからだろうか、彼女が僕を恨んでいるのは。
僕はあの世界でかなりの権力を持っていたと思う、一声かければセイの死は止められたはず。
僕は2人の命を奪った。
ものすごく重い、2人の命を。
長き星霜を渡り歩き、歳月を得て、いろいろなものを殺してきたけれど、あの2人より重たい命はなかった。
それで死んだ恋人に恨まれて、僕は――瑞揶、君に姿を重ねた。
君も恋人と死に別れた人間だったから。
僕と同じ顔で恋愛をするのは許せない!
僕が苦しんだ事で、同じ顔を持つ貴様が笑うのは許せない!
だから僕は、君を止めたかった。
死に別れた恋人の気持ちは、僕達と君達では違った。
だから恋人と向き合う君が許せなかった。
今更僕は、自分の恋人だったセイに話すことなどない。
だけど、もし、話ができたなら……そうだな――
しっかり、彼女と話し合いたいと思う――。
セイの親父さんにはぶん殴られ、研究所に連れ戻され、虚脱感を紛らわせるためだけに研究をした。
だいぶ長く開けられなかった不死への扉を開き、何かの賞を取って帰国しても、僕は研究を続けた。
自分のクローンの体を生産し、凍結させておいて記憶はバックアップを作り、今の自分が死んでも安心できるようにした。
しかし、これからの人生に何の意味があるのだろう。
挫折、立ち直り、失恋……これらの意味を考えて数日潰すこともあった。
それから半年が経っただろうか。
結論として、恋愛はするものじゃないと思った。
僕が1人で生きてさえいれば、セイが死ぬ必要だってなかった。
僕がこんなに嫌な気持ちを持つこともなかった。
だから、恋愛なんてするものじゃない。
いい経験になったと、僕はこれからも生きていくことにした。
自分が“自由”だからこんな立ち直りをしたのかと、嫌に思うことはある。
だが、僕は人生を自由に謳歌し、これからも生きていこうと思った。
それからどれほど知識を貪り、どんな研究をしてきただろう。
僕は神と呼べるほど、凄い人間になっていた。
出来ない事がない、神に近しい存在になったと言って良いだろう。
ちょっと試す気持ちで、僕は世界に居る2人の神――龍と戦ってみた。
【確立結果】――望んだ結果を作り出すこの絶対の力を用いれば龍ごとき造作もなく、龍共はあっさり死んでしまった。
龍の体を解剖して少しだけ発見をして、それからは僕が代わりに世界の神になった。
だがその次の日、“管理”という存在がテレパシーを掛けてきた。
神になってみないか、と。
面白い、大変興味のそそられる話だった。
僕は大神という存在になり、体長8mぐらいある化け物、愛律司神の弟子となった。
化け物と会話をする不思議を超え、色々な技術を学び、世界を作るということがどういうことか学んだ。
僕が生きていた世界【クオトラーガ】というのはパソコンの中の実行ファイルの1つに過ぎないのだ。
実体のない電脳空間を実体があるように作るということを知り、僕も世界を作れるようになった。
ただ、愛律司神――師匠は僕にこう言った。
「君は、自分の生み出した世界を愛することも無いのでしょう。君の想いは愛というよりも、好奇心なのだから」
言われなくともよくわかっている言葉だった。
何十年、何百年経とうとも、僕はもう愛するということをする気はないし、好奇心に身を任せて生きてきたのだから。
「きゅーくん、これから貴方は自由を研究しなさい。研究熱心な貴方なら、数千年で自由律司神になれるかもしれない」
その言葉を聞いて、僕は自由の研究を始めた。
自分の心と向き合うような作業、現在の自由律司神の文献を読み漁り、記録していく。
気が遠くなるほど、莫大な時間をかけた。
自由という1つの言葉を取ってしても、奥が深すぎるのだから。
6千年ぐらいが経った頃だったか、自由律司神が降板し、僕が新たな自由律司神となった。
それは僕が生まれてから、約4億年が経った頃のこと。
よく生きた――人間でここまで生きる存在は少ないらしい。
だが、それからは律司神としてあらゆる世界の自由について、様々な律司神と交信したり、自分の世界の研究に励むようになった。
もう僕は神だ。
人間として生きてきた時間が僕の中で小さくなり、セイとの出来事も微小なものになって行った――。
だが10億年ほど経って、セイと思わしき人物が世界を跨いで“僕と似た顔の人間を殺している”と報告を受けるようになった。
どうやってか、“探知”の名を冠する律司神でも見つけられなかったらしい。
なぜ今になってセイが――?
僕のように、人を超えた生命体になったのだろうか。
わからない、わからない。
ただ、面白い――。
◇
アキューの物語りはここで終わっていた。
どれほどの時間を生き、どれほど大変な事があったのか、僕にはわからない。
だけど、彼の過去を見た今なら、彼が僕にやっかむ理由がわかった。
彼の記憶の塊、図書館から出る。
目を開けば、驚愕の表情をしたアキューが目の前に映っていた。
「何故だ――? 何故僕がしていた脳の浸食が止まった?」
彼の驚く理由がわかった。
そういえば、頭が痛いのが治っていた。
それもそうだろう、僕は彼よりも……
意志が強いから――。
「アキュー、君は僕が恋をするのが嫌で手を出してるんだろう?」
「ほう、よくわかったな」
「わかるさ。君が天使でちょっかい出してきたのは、僕と沙羅が付き合い始めてからだもの」
淡々と会話を進めていく。
今見た記憶だと、彼は同じ顔を持つ僕が恋愛をしていることが許せないのだろう。
そんなのただの八つ当たりだ。
僕としても許せない。
でもね、僕は愛ちゃんの後世だもの。
だから――
「君の間違いを正す。恋は素敵なものなんだ」
かつての僕も、霧代との別離で恋を嫌いになった。
でも、それでも
霧代と分かり合うことができて
沙羅が本気で僕を好きになってくれたから
今こうして、僕はここに立っている。
「教えてあげる。恋愛すると幸せになれるってことを。そして、君の心を塗り替える!」
夜明けに映る曙光のように暖かな、白い光が世界を満たす。
アキューという存在も含め、全てを包み込んだ。
◇
かつて師匠――愛律司神が僕にこう尋ねた。
「貴方の記憶は知ってるけど、もう一度恋人さんに会いたいとは思わないの?」
この問いに対して、僕は答えることができなかった。
会うべきなのかもしれない。
会わなければならないのかもしれない。
だけど、僕はセイを助けることができたのに、アイツが死んでる事に気付きもしなかった。
どうやってアイツが今、世界を回っているのかは知らない。
ただ、僕に憎いと言った。
殺したのは彼女だけじゃない。
生まれてくるはずだった赤子は戻ってこないんだ。
だからだろうか、彼女が僕を恨んでいるのは。
僕はあの世界でかなりの権力を持っていたと思う、一声かければセイの死は止められたはず。
僕は2人の命を奪った。
ものすごく重い、2人の命を。
長き星霜を渡り歩き、歳月を得て、いろいろなものを殺してきたけれど、あの2人より重たい命はなかった。
それで死んだ恋人に恨まれて、僕は――瑞揶、君に姿を重ねた。
君も恋人と死に別れた人間だったから。
僕と同じ顔で恋愛をするのは許せない!
僕が苦しんだ事で、同じ顔を持つ貴様が笑うのは許せない!
だから僕は、君を止めたかった。
死に別れた恋人の気持ちは、僕達と君達では違った。
だから恋人と向き合う君が許せなかった。
今更僕は、自分の恋人だったセイに話すことなどない。
だけど、もし、話ができたなら……そうだな――
しっかり、彼女と話し合いたいと思う――。
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