連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜
第十一話
わかっている――。
僕だって、みんなが幸せであるならそれでいいんだ。
サイファルが居て部活が成り立ち、1組は活性化して、悪い事はなかった。
理優の件にも響川の2人が首を突っ込んで解決した。
でも、サイファルが居なければレリは涙を流さなくてよかった。
死ななくてよかった。
そして、復活させるにはサイファルを殺せばいい。
もしくは、瑞揶を無力化――。
「……仲直り、か」
瑞揶の言葉を復唱する。
便利な言葉だ、拒めば悪い人になってしまうのだから。
だがあえて僕は蛇の道を行こう――。
「ダメだ、君を排除する。音楽の楽しみを教えてくれた君を何度も殺すのは忍びないが、戦わせてもらう」
「……どうしても?」
「レリを取り戻すためだ。お前はかつて、僕に言っただろう。1人の女の子が自由になるのを遮る理由を聞かせて、と。今ならその理由が明確にある! 貴様を排除しなくては、僕は、レリは……!」
「ッ――」
風をまといて僕は飛んだ。
残像が残るほどの速さで瑞揶に刀を突きつける。
見えない何かに阻まれて制止するも、殆ど僕らの距離は無くなった。
「ナエトくんっ! なんとかできる方法があるはずなんだ! 戦ったって仕方ないじゃないか!!」
「ああそうだ。なんとかする方法がある。それが貴様を討つ事だ、瑞揶!!」
「クッ――!」
刀が突き進む。
瑞揶の能力に対して僕は無効化できる可能性がある。
このまま殺すことが叶わなくとも――僕は!
「うぉぉぉおおおおお!!!」
「やめてよっ……」
「死ねぇ!! 【魔根の神斬】!!!!」
「やめてよぉおおお!!!!!」
僕は瑞揶を貫くために魔根の技を使った。
しかし、僕の発動と同時に僕の体は急速に地面に落ちた。
「なっ――!?」
風を切る音が耳にうるさい、それほどのスピード。
地面への衝突を防ぐ暇はない、僕は両手で頭を抱えた。
ガインッ、という聞いたことのない音と共に僕はコンクリートの地面に落ち、そのまま転がって壁にぶつかった。
「グッ……!」
魔人といえど無事では済まなかった。
両腕が肩から変な方向に曲がり、いたるところから血が吹き出している。
人間なら即死なものを、この程度で済んで良かった。
「ガッ……クッ……!」
とはいえ、痛みは抑えられない。
激痛に顔を歪ませ、僕は地に這いつくばった。
「ハァ……ハァ…………ハァ……」
上空で瑞揶が息を切らしている。
力を使ったため――違う、奴は神と言っていい。
疲れることなどないだろう。
これは隙か――?
わからない、だが僕が近付くことはもうできないだろう。
実力差があり過ぎる。
僕は瑞揶の攻撃を無効化できる可能性があるといっても、相手は瞬間移動を容易に使える人間。
僕は1撃も食らわすことはできない――?
「……ごめん、ナエトくん。僕は僕の家族を守らなくちゃいけない。お願いだから、帰って……」
「……負けられないんだ! 僕は、絶対に!!」
立ち上がる。
なんとしてでも僕は勝ちたい。
それだけレリの事を好いているのだから――!
「【魔根の魔絶】ッ!!!!」
最大最強の魔法を発動する。
周りがどうなろうと知ったところではない、僕はすぐに黒い光に包まれた。
じわじわと世界を黒く侵食していき、破壊する魔法。
全てを喰らい尽くし、滅ぼせ――!!!
「……“reject”」
瑞揶の呟く声が聞こえた。
刹那、僕の視界はハッと明瞭になる。
【魔根の魔絶】を使ったというのに代わり映えのない住宅街に僕は絶望する。
たった一言、それだけで僕は魔法を無効にされてしまった。
……終わりか。
僕はどうされるのだろう、瑞揶はどうもしないにしてもサイファルは殺すだろうか。
20人の王血影隊にも全員バツがつくか、それも災難だ。
レリ済まない。
僕はダメな男だったようだ。
…………。
「――【無効化】」
その時、ある男の声が聞こえた。
この世界の発音とは違う、さらには聞きなれない言葉での声。
ふと僕は上を見た。
声が聞こえたのも上空からだったから。
「――聖、兎くん?」
「悪いな瑞揶。お前は俺を、助けてくれたのにっ……」
そこでは神下聖兎が大剣で瑞揶の胸、そして、名も知らぬ王血影隊の少女を貫いていた――。
なぜ奴がこの場に?
いや、そんなことはどうでもいい、とにかく援軍だ。
しかも、瑞揶に攻撃を当てている。
超能力を無効化する力?
ならば彼は有効だ――。
「ぅ、なんで……聖兎、く……?」
「俺だってしたくねぇよ、こんなこと! けど、体が勝手に動くんだよ!!」
「……そ……んな……」
剣が引き抜かれる。
瑞揶の体はゆらりと倒れ、そのまま地上へと落下していった。
僕の真上から降ってくるそれを魔法で作った網で受け止める。
瑞揶は人間だ、500mの高さから落ちれば血が飛び散る。
最後まで僕に遠慮をしていた友人が無残な姿を晒すのはよろしくない。
「……瑞揶」
網越しの彼は絶命していた。
彼の抱きかかえていた少女も同様に死んでいる。
お互い悲しみに顔を歪ませ、胸からはびちゃりと血が垂れていて……。
…………。
「ナエト! 大丈夫か!?」
「……聖兎、これが無事に見えるのか?」
「……いや、見えないけ、ど?」
そういえば痛みが消えていたが、腕はあらぬ方向に曲がっている。
「治せないか?」
「ん、多分できる。【聖快復】」
聖兎が僕の両腕に手をかざす。
すると魔法の力か、僕の腕は傷が癒えて形も戻っていった。
何回か握ってみて正常に動くか確認し、礼を述べる。
「助かった。感謝するぞ」
「……いや、いい。俺がしたくてしたんじゃねーんだ……」
彼の表情は悲壮に暮れ、くるりと後ろを向いてしまった。
詳しい事情は知らないが、彼と瑞揶の仲にはなにかあるのだろう。
とはいえ、僕には目標が見えた。
振り返れば2階建ての響川家がある。
再び静寂に包まれた住宅街にポツンと建つ家は瑞揶なしだと、崩すのが比較的容易だ。
「おい、王血影隊ども。起きろ」
連れてきた兵員達を魔法で宙に浮かし、そして落とす。
いろいろと音を立てて落ちた彼らは目が覚めたのかむくりと立ち上がり、辺りを見渡した。
もうたった1人の敵は死んでいる。
いや、後で生き返るであろうが――。
「おい、瑞揶は死んだ。起きないよう毒を盛れ」
「あっ、はっ、はいっ!!」
毒を渡していた少年が急いでネットに掛かった瑞揶の元へ行く。
何も対策がされていなければ、これで瑞揶は二度と起きないであろう。
後は――
「サイファル……」
憎らしい奴の名を呟く。
あと少しで奴を殺せる……。
……いや、捕らえるか?
わからない、どちらにせよ戦闘にはなるだろう。
決着を付けなくては……。
「おいっ! 俺はナエトを助けたんだぞ! 離せ、離しやがれって!」
「ナムラ様、天使を捕らえましたが、コイツは……?」
「……離してやれ。ソイツは僕の知人だ」
いつの間にやら捕まっていた聖兎を離してもらい、ため息を吐いている彼に1つお願いをしてみる。
「聖兎、響川家の結界を解いてくれ。できないか?」
「……おい。俺は沙羅の味方だ。瑞揶を討ったのだって故意じゃない。沙羅を殺ろうって言うなら俺が――」
「そうか。なら死んでいいぞ」
刹那、聖兎の首が飛んだ。
今回の件は当然犯罪なのだから目撃者は残せない。
首を跳ねたのは誰だ、緑色の髪をした王血影隊の少女か。
合図もなしによくやってくれたものだ。
聖兎の胴体が倒れて血が溢れる。
しかし、見向きする暇はない。
次なる目標は、目前の家なのだから。
「全員で家を壊す。結界など吹き飛ばして仕舞えばいい」
「しかし、それは派手過ぎるのでは? いつここに人が通るかもわからないゆえに……」
「ならばまず、死体を消せ。そうだな、5人ぐらい掛けろ。残った14人と僕で破壊する。やるぞ!」
『御意』
皆が口を揃えて応じ、家の包囲を開始した。
これでもう逃げられないぞ、サイファル――。
僕だって、みんなが幸せであるならそれでいいんだ。
サイファルが居て部活が成り立ち、1組は活性化して、悪い事はなかった。
理優の件にも響川の2人が首を突っ込んで解決した。
でも、サイファルが居なければレリは涙を流さなくてよかった。
死ななくてよかった。
そして、復活させるにはサイファルを殺せばいい。
もしくは、瑞揶を無力化――。
「……仲直り、か」
瑞揶の言葉を復唱する。
便利な言葉だ、拒めば悪い人になってしまうのだから。
だがあえて僕は蛇の道を行こう――。
「ダメだ、君を排除する。音楽の楽しみを教えてくれた君を何度も殺すのは忍びないが、戦わせてもらう」
「……どうしても?」
「レリを取り戻すためだ。お前はかつて、僕に言っただろう。1人の女の子が自由になるのを遮る理由を聞かせて、と。今ならその理由が明確にある! 貴様を排除しなくては、僕は、レリは……!」
「ッ――」
風をまといて僕は飛んだ。
残像が残るほどの速さで瑞揶に刀を突きつける。
見えない何かに阻まれて制止するも、殆ど僕らの距離は無くなった。
「ナエトくんっ! なんとかできる方法があるはずなんだ! 戦ったって仕方ないじゃないか!!」
「ああそうだ。なんとかする方法がある。それが貴様を討つ事だ、瑞揶!!」
「クッ――!」
刀が突き進む。
瑞揶の能力に対して僕は無効化できる可能性がある。
このまま殺すことが叶わなくとも――僕は!
「うぉぉぉおおおおお!!!」
「やめてよっ……」
「死ねぇ!! 【魔根の神斬】!!!!」
「やめてよぉおおお!!!!!」
僕は瑞揶を貫くために魔根の技を使った。
しかし、僕の発動と同時に僕の体は急速に地面に落ちた。
「なっ――!?」
風を切る音が耳にうるさい、それほどのスピード。
地面への衝突を防ぐ暇はない、僕は両手で頭を抱えた。
ガインッ、という聞いたことのない音と共に僕はコンクリートの地面に落ち、そのまま転がって壁にぶつかった。
「グッ……!」
魔人といえど無事では済まなかった。
両腕が肩から変な方向に曲がり、いたるところから血が吹き出している。
人間なら即死なものを、この程度で済んで良かった。
「ガッ……クッ……!」
とはいえ、痛みは抑えられない。
激痛に顔を歪ませ、僕は地に這いつくばった。
「ハァ……ハァ…………ハァ……」
上空で瑞揶が息を切らしている。
力を使ったため――違う、奴は神と言っていい。
疲れることなどないだろう。
これは隙か――?
わからない、だが僕が近付くことはもうできないだろう。
実力差があり過ぎる。
僕は瑞揶の攻撃を無効化できる可能性があるといっても、相手は瞬間移動を容易に使える人間。
僕は1撃も食らわすことはできない――?
「……ごめん、ナエトくん。僕は僕の家族を守らなくちゃいけない。お願いだから、帰って……」
「……負けられないんだ! 僕は、絶対に!!」
立ち上がる。
なんとしてでも僕は勝ちたい。
それだけレリの事を好いているのだから――!
「【魔根の魔絶】ッ!!!!」
最大最強の魔法を発動する。
周りがどうなろうと知ったところではない、僕はすぐに黒い光に包まれた。
じわじわと世界を黒く侵食していき、破壊する魔法。
全てを喰らい尽くし、滅ぼせ――!!!
「……“reject”」
瑞揶の呟く声が聞こえた。
刹那、僕の視界はハッと明瞭になる。
【魔根の魔絶】を使ったというのに代わり映えのない住宅街に僕は絶望する。
たった一言、それだけで僕は魔法を無効にされてしまった。
……終わりか。
僕はどうされるのだろう、瑞揶はどうもしないにしてもサイファルは殺すだろうか。
20人の王血影隊にも全員バツがつくか、それも災難だ。
レリ済まない。
僕はダメな男だったようだ。
…………。
「――【無効化】」
その時、ある男の声が聞こえた。
この世界の発音とは違う、さらには聞きなれない言葉での声。
ふと僕は上を見た。
声が聞こえたのも上空からだったから。
「――聖、兎くん?」
「悪いな瑞揶。お前は俺を、助けてくれたのにっ……」
そこでは神下聖兎が大剣で瑞揶の胸、そして、名も知らぬ王血影隊の少女を貫いていた――。
なぜ奴がこの場に?
いや、そんなことはどうでもいい、とにかく援軍だ。
しかも、瑞揶に攻撃を当てている。
超能力を無効化する力?
ならば彼は有効だ――。
「ぅ、なんで……聖兎、く……?」
「俺だってしたくねぇよ、こんなこと! けど、体が勝手に動くんだよ!!」
「……そ……んな……」
剣が引き抜かれる。
瑞揶の体はゆらりと倒れ、そのまま地上へと落下していった。
僕の真上から降ってくるそれを魔法で作った網で受け止める。
瑞揶は人間だ、500mの高さから落ちれば血が飛び散る。
最後まで僕に遠慮をしていた友人が無残な姿を晒すのはよろしくない。
「……瑞揶」
網越しの彼は絶命していた。
彼の抱きかかえていた少女も同様に死んでいる。
お互い悲しみに顔を歪ませ、胸からはびちゃりと血が垂れていて……。
…………。
「ナエト! 大丈夫か!?」
「……聖兎、これが無事に見えるのか?」
「……いや、見えないけ、ど?」
そういえば痛みが消えていたが、腕はあらぬ方向に曲がっている。
「治せないか?」
「ん、多分できる。【聖快復】」
聖兎が僕の両腕に手をかざす。
すると魔法の力か、僕の腕は傷が癒えて形も戻っていった。
何回か握ってみて正常に動くか確認し、礼を述べる。
「助かった。感謝するぞ」
「……いや、いい。俺がしたくてしたんじゃねーんだ……」
彼の表情は悲壮に暮れ、くるりと後ろを向いてしまった。
詳しい事情は知らないが、彼と瑞揶の仲にはなにかあるのだろう。
とはいえ、僕には目標が見えた。
振り返れば2階建ての響川家がある。
再び静寂に包まれた住宅街にポツンと建つ家は瑞揶なしだと、崩すのが比較的容易だ。
「おい、王血影隊ども。起きろ」
連れてきた兵員達を魔法で宙に浮かし、そして落とす。
いろいろと音を立てて落ちた彼らは目が覚めたのかむくりと立ち上がり、辺りを見渡した。
もうたった1人の敵は死んでいる。
いや、後で生き返るであろうが――。
「おい、瑞揶は死んだ。起きないよう毒を盛れ」
「あっ、はっ、はいっ!!」
毒を渡していた少年が急いでネットに掛かった瑞揶の元へ行く。
何も対策がされていなければ、これで瑞揶は二度と起きないであろう。
後は――
「サイファル……」
憎らしい奴の名を呟く。
あと少しで奴を殺せる……。
……いや、捕らえるか?
わからない、どちらにせよ戦闘にはなるだろう。
決着を付けなくては……。
「おいっ! 俺はナエトを助けたんだぞ! 離せ、離しやがれって!」
「ナムラ様、天使を捕らえましたが、コイツは……?」
「……離してやれ。ソイツは僕の知人だ」
いつの間にやら捕まっていた聖兎を離してもらい、ため息を吐いている彼に1つお願いをしてみる。
「聖兎、響川家の結界を解いてくれ。できないか?」
「……おい。俺は沙羅の味方だ。瑞揶を討ったのだって故意じゃない。沙羅を殺ろうって言うなら俺が――」
「そうか。なら死んでいいぞ」
刹那、聖兎の首が飛んだ。
今回の件は当然犯罪なのだから目撃者は残せない。
首を跳ねたのは誰だ、緑色の髪をした王血影隊の少女か。
合図もなしによくやってくれたものだ。
聖兎の胴体が倒れて血が溢れる。
しかし、見向きする暇はない。
次なる目標は、目前の家なのだから。
「全員で家を壊す。結界など吹き飛ばして仕舞えばいい」
「しかし、それは派手過ぎるのでは? いつここに人が通るかもわからないゆえに……」
「ならばまず、死体を消せ。そうだな、5人ぐらい掛けろ。残った14人と僕で破壊する。やるぞ!」
『御意』
皆が口を揃えて応じ、家の包囲を開始した。
これでもう逃げられないぞ、サイファル――。
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