連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜
第七話
「……何故、だ」
聖兎くんがたじろぐ。
僕が無傷で平然と佇んでいた事が要因だろう。
聖兎くんの技が炸裂し、周りにあった支柱やカーペット、天井もが吹き飛んであたりは瓦礫ばかりになっている。
しかし、僕は部屋の中央に立っていた。
怪我の一つもなく、平然と。
「……どうやって防いだ?」
「聖兎くんの無効化能力を無効化した。それだけだよ」
「――ッ」
聖兎くんが奥歯を噛み締める。
無効化能力さえなければどれだけ強力な技だろうと僕は防げる。
それだけのことなのだ。
だから、こんな戦いももう終わり。
決着はとうに着いた。
僕が一方的に攻勢に回ることになって聖兎くんを倒す。
それで全てが終わるんだ。
「“Arrest”」
呟くと聖兎くんは銀色の鎖に拘束され、鎖の先は四方の地面に突き刺さる。
無効化はされない、ならこれで終わりか――。
「……ッ」
終わった――そう感じると共に、とてつもない脱力感と悲しみが同時にやってきて、僕は膝から崩れる。
両手をついて、ピタッ、ピタッと涙を零した。
「……どうして友達なのに戦わなきゃいけないの?」
「…………」
「僕、嫌だよ……。沙羅は渡したくない。けど、なんで戦うような形で取り合わなきゃいけないの? ……聖兎くん……ねぇ、なんで……?」
「…………」
聖兎くんは答えない。
彼に目を向けると、申し訳なさそうに顔を伏せていた。
僕の知る彼は、明るくて優しい人。
こんな事する人じゃないはずなんだ……。
「……神様が望んでるんだ」
「……神様?」
彼の言葉に、僕は自然と聞き返す。
聖兎くんは頷くでもなく、そっぽを向いて答える。
「瑞揶、神様はお前に恋愛をして欲しくないんだ。それがなぜかは俺も知らない。けど……俺はどっちにしたって、沙羅と出会っていたら好きになったかもしれない。だからこの戦いは、間違いじゃねぇよ」
「……。……そう」
返す言葉が見当たらず、一言だけ返す。
けど、これでいいや。
戦いは終わったんだ。
もう、何も……。
「……なに晴れ晴れとした顔してんだ。早く俺を殺せ」
「……え、なんで……」
意味がわからない。
殺せって、自分で言うの……?
なんでそんなこと、僕が……。
「俺は天使として失脚した。もう生きてられない。ここで殺されなければ自由律司神に殺されるだけだ」
「そんな……」
「嘘じゃない。だから、できるだけ楽に頼む」
「――――」
微笑む聖兎くんが嫌だった。
まるで楽になれる事を喜ぶような顔で、そんな風にお願いしないで。
なんで僕が殺さなくちゃいけないの――?
僕は円満に解決して欲しいと願うだけなのに、どうしてそれが叶わないの――?
「……さぁ、瑞揶!」
「……やだ。僕は、みんなで穏やかに暮らしたい! 人を殺すなんて悲しい事は絶対にしない!! 聖兎くん、君が欠けてもダメなんだ! 自由律司神がどうだろうと知らない! 僕が守るから!! だから――!!」
――そんなこと言わないで。
心の底から発した言葉だった。
君と生きたのは数日かもしれない。
けれど友達として仲良くしていたんだから――。
それなのに、目の前の彼は口から血を流し、安心したように事切れていた――。
◇
なんでだろーな。
お前は最初に会った時からそうだった。
初めは今回の任務が面倒くさいと思ってやる気がなかった。
八つ当たりにお前を睨んだもんだが、授業が終わってお前は学校の案内をしてくれた。
優しい奴だなぁ、って思ったよ。
いつも朗らかで、まったりしてて、女みたいな奴だって思ってた。
けど時間が経って、こんな友達も悪くないって思えた。
それなのに、俺はお前の邪魔をした。
沙羅に興味を惹かれ、こうして戦いまで挑んだ。
無効化の能力があれば最強だった俺も、能力を無効化されたら叶わねぇよ。
勝者はお前だ。
俺は裏切り者みたいなもの。
殺されたっておかしくないと思ったんだがなぁ――
なのに、お前は俺を守るなんて言うんだ。
そんな優しい奴の足枷になりたくなんかねぇよ……
だからさ――
そうして、俺は舌を噛み切った。
元はと言えば俺が悪いけど、友達のために舌を噛み切るなんて、中々出来たことじゃねぇだろ――?
なぁ、瑞揶――?
お前の邪魔になる前に、俺は眠るとするよ――。
「バカッ!!!」
バチンッ!!!
「…………?」
痛い。
頬に痛みを感じた。
そんなバカな、俺は舌を噛み切った筈だ――。
「バカバカッ! 死なないでって言ってるのに自殺しようだなんてやめてよっ!!!」
「……瑞揶?」
ぎゅっと瑞揶に抱きしめられる。
肩のあたりに落ちる雫は瑞揶の涙だろうか。
あったかい、そう感じるということは、俺は生きてるのか――。
どういうことか、それについて考える必要はない。
瑞揶の能力は神の力、全てを実現させる力を持っているのだから。
「……生き返らせたのか」
「当たり前だよっ!! 目の前で友達が死んで、そんな、そんなのっ……!」
「…………」
痛いぐらいに強い抱擁は止まりそうにない。
死んで欲しくない、コイツがそう思ってくれる限り、俺は死ねないのだろう。
まったく、さ――。
まだ出会って1ヶ月も経ってないのに……。
「……悪かったよ、瑞揶。ここまで想ってくれてるなんて、思わなかった」
「まったくもぅー!!! 次やったら、にゃーにしちゃうからねっ!!! ゆるさ、許さないからっ!!」
「……ああ。存分に俺を守ってくれ、瑞揶」
自由律司神が俺を殺しに来るかもしれない。
いや、ここまできたら俺のことなんて放置するか、あるいは……。
どちらでも良い、襲ってくるなら瑞揶は俺を守ってくれるのだろう。
……いや。
これで自由律司神が瑞揶と戦う理由が、増えてしまった――。
◇
同刻――。
「【羽衣天技】ィィイイイ!!!」
「【龍下剣】――!!」
怒りに震える沙羅とナエトが刀を振り上げる。
互いに生み出した刀には黒い光が収束していった。
とうに日は暮れ、闇の広がる空に邪悪な光の塊が2つ顕現した。
距離にして20m、2つの光は交わりそうなほど肥大化し、刀を軸にして唸る。
2人は同時に刀を――
『【一千衝華】ァァアアアア!!!!!』
振り抜いた――。
ぶつかり合う黒と黒は突風を生み出し、2人の振袖を激しくなびかせる。
逆立つ髪、顔にも掛かる衝撃、しかし奥歯を噛み締め、相手を殺すことのみを考える――。
(よくも姉さんを――――!!)
(レリの仇は取る――――!!)
互いの魔力と魔力をぶつけ合う。
こんな事ではラチがあかないと、沙羅は【空転移】を用いて闇の中に突っ込んだ。
夜の中光る流星のごとく速さで闇を抜け、彼女はナエトの背後を取る。
しかし、ナエトも即座に振り返って刀に対応する。
鉄と鉄が打ち合う。
力において差はなく、これもまた沙羅が剣を引き、また新たに斬撃を放つ。
「チッ――!」
剣技では沙羅に及ばないことがわかっているナエトは後方に飛んだ。
しかし――
「待てェェエエエエ!!!」
沙羅は狂気を含んだ瞳で特攻する。
空の追いかけっこが始まり、縦横無尽に2人は飛び交う。
徐々に距離が縮む、その度にナエトは魔力弾で牽制する。
しかし、沙羅は最小限の動きで全て躱し、ナエトに迫る――。
「ラアッ――!!!」
投げやりに振るった沙羅の一撃。
それはナエトの左腕を捉え、肘から先が宙を舞った。
「ツッ――――!!!?」
鮮血が舞い、水が吹き出る音を立てる。
ナエトはこの時点で敗北を確信した。
今の沙羅は、魔根の魔法を使う余暇すら与えてくれないだろう痛みをこらえながらもまた逃げる。
その一瞬あとには沙羅の刃が空を斬った。
「ちょこまかとぉお――――!!!」
沙羅は再び追うも距離は離れてしまっている。
ナエトはとうに結界の最端部に唐突していた。
【無法結界】を剣に魔力を乗せた斬撃で打ち破る。
【無法結界】自体は存在を否認させるだけのものであり、防御力はないのだ、
「転移――」
「逃げるつもりッ!!?」
沙羅は叫ぶ。
しかしその直後には、ナエトの姿は夜の彼方へ消えていた――。
残された憤りはお互い、まだ胸の中に――。
聖兎くんがたじろぐ。
僕が無傷で平然と佇んでいた事が要因だろう。
聖兎くんの技が炸裂し、周りにあった支柱やカーペット、天井もが吹き飛んであたりは瓦礫ばかりになっている。
しかし、僕は部屋の中央に立っていた。
怪我の一つもなく、平然と。
「……どうやって防いだ?」
「聖兎くんの無効化能力を無効化した。それだけだよ」
「――ッ」
聖兎くんが奥歯を噛み締める。
無効化能力さえなければどれだけ強力な技だろうと僕は防げる。
それだけのことなのだ。
だから、こんな戦いももう終わり。
決着はとうに着いた。
僕が一方的に攻勢に回ることになって聖兎くんを倒す。
それで全てが終わるんだ。
「“Arrest”」
呟くと聖兎くんは銀色の鎖に拘束され、鎖の先は四方の地面に突き刺さる。
無効化はされない、ならこれで終わりか――。
「……ッ」
終わった――そう感じると共に、とてつもない脱力感と悲しみが同時にやってきて、僕は膝から崩れる。
両手をついて、ピタッ、ピタッと涙を零した。
「……どうして友達なのに戦わなきゃいけないの?」
「…………」
「僕、嫌だよ……。沙羅は渡したくない。けど、なんで戦うような形で取り合わなきゃいけないの? ……聖兎くん……ねぇ、なんで……?」
「…………」
聖兎くんは答えない。
彼に目を向けると、申し訳なさそうに顔を伏せていた。
僕の知る彼は、明るくて優しい人。
こんな事する人じゃないはずなんだ……。
「……神様が望んでるんだ」
「……神様?」
彼の言葉に、僕は自然と聞き返す。
聖兎くんは頷くでもなく、そっぽを向いて答える。
「瑞揶、神様はお前に恋愛をして欲しくないんだ。それがなぜかは俺も知らない。けど……俺はどっちにしたって、沙羅と出会っていたら好きになったかもしれない。だからこの戦いは、間違いじゃねぇよ」
「……。……そう」
返す言葉が見当たらず、一言だけ返す。
けど、これでいいや。
戦いは終わったんだ。
もう、何も……。
「……なに晴れ晴れとした顔してんだ。早く俺を殺せ」
「……え、なんで……」
意味がわからない。
殺せって、自分で言うの……?
なんでそんなこと、僕が……。
「俺は天使として失脚した。もう生きてられない。ここで殺されなければ自由律司神に殺されるだけだ」
「そんな……」
「嘘じゃない。だから、できるだけ楽に頼む」
「――――」
微笑む聖兎くんが嫌だった。
まるで楽になれる事を喜ぶような顔で、そんな風にお願いしないで。
なんで僕が殺さなくちゃいけないの――?
僕は円満に解決して欲しいと願うだけなのに、どうしてそれが叶わないの――?
「……さぁ、瑞揶!」
「……やだ。僕は、みんなで穏やかに暮らしたい! 人を殺すなんて悲しい事は絶対にしない!! 聖兎くん、君が欠けてもダメなんだ! 自由律司神がどうだろうと知らない! 僕が守るから!! だから――!!」
――そんなこと言わないで。
心の底から発した言葉だった。
君と生きたのは数日かもしれない。
けれど友達として仲良くしていたんだから――。
それなのに、目の前の彼は口から血を流し、安心したように事切れていた――。
◇
なんでだろーな。
お前は最初に会った時からそうだった。
初めは今回の任務が面倒くさいと思ってやる気がなかった。
八つ当たりにお前を睨んだもんだが、授業が終わってお前は学校の案内をしてくれた。
優しい奴だなぁ、って思ったよ。
いつも朗らかで、まったりしてて、女みたいな奴だって思ってた。
けど時間が経って、こんな友達も悪くないって思えた。
それなのに、俺はお前の邪魔をした。
沙羅に興味を惹かれ、こうして戦いまで挑んだ。
無効化の能力があれば最強だった俺も、能力を無効化されたら叶わねぇよ。
勝者はお前だ。
俺は裏切り者みたいなもの。
殺されたっておかしくないと思ったんだがなぁ――
なのに、お前は俺を守るなんて言うんだ。
そんな優しい奴の足枷になりたくなんかねぇよ……
だからさ――
そうして、俺は舌を噛み切った。
元はと言えば俺が悪いけど、友達のために舌を噛み切るなんて、中々出来たことじゃねぇだろ――?
なぁ、瑞揶――?
お前の邪魔になる前に、俺は眠るとするよ――。
「バカッ!!!」
バチンッ!!!
「…………?」
痛い。
頬に痛みを感じた。
そんなバカな、俺は舌を噛み切った筈だ――。
「バカバカッ! 死なないでって言ってるのに自殺しようだなんてやめてよっ!!!」
「……瑞揶?」
ぎゅっと瑞揶に抱きしめられる。
肩のあたりに落ちる雫は瑞揶の涙だろうか。
あったかい、そう感じるということは、俺は生きてるのか――。
どういうことか、それについて考える必要はない。
瑞揶の能力は神の力、全てを実現させる力を持っているのだから。
「……生き返らせたのか」
「当たり前だよっ!! 目の前で友達が死んで、そんな、そんなのっ……!」
「…………」
痛いぐらいに強い抱擁は止まりそうにない。
死んで欲しくない、コイツがそう思ってくれる限り、俺は死ねないのだろう。
まったく、さ――。
まだ出会って1ヶ月も経ってないのに……。
「……悪かったよ、瑞揶。ここまで想ってくれてるなんて、思わなかった」
「まったくもぅー!!! 次やったら、にゃーにしちゃうからねっ!!! ゆるさ、許さないからっ!!」
「……ああ。存分に俺を守ってくれ、瑞揶」
自由律司神が俺を殺しに来るかもしれない。
いや、ここまできたら俺のことなんて放置するか、あるいは……。
どちらでも良い、襲ってくるなら瑞揶は俺を守ってくれるのだろう。
……いや。
これで自由律司神が瑞揶と戦う理由が、増えてしまった――。
◇
同刻――。
「【羽衣天技】ィィイイイ!!!」
「【龍下剣】――!!」
怒りに震える沙羅とナエトが刀を振り上げる。
互いに生み出した刀には黒い光が収束していった。
とうに日は暮れ、闇の広がる空に邪悪な光の塊が2つ顕現した。
距離にして20m、2つの光は交わりそうなほど肥大化し、刀を軸にして唸る。
2人は同時に刀を――
『【一千衝華】ァァアアアア!!!!!』
振り抜いた――。
ぶつかり合う黒と黒は突風を生み出し、2人の振袖を激しくなびかせる。
逆立つ髪、顔にも掛かる衝撃、しかし奥歯を噛み締め、相手を殺すことのみを考える――。
(よくも姉さんを――――!!)
(レリの仇は取る――――!!)
互いの魔力と魔力をぶつけ合う。
こんな事ではラチがあかないと、沙羅は【空転移】を用いて闇の中に突っ込んだ。
夜の中光る流星のごとく速さで闇を抜け、彼女はナエトの背後を取る。
しかし、ナエトも即座に振り返って刀に対応する。
鉄と鉄が打ち合う。
力において差はなく、これもまた沙羅が剣を引き、また新たに斬撃を放つ。
「チッ――!」
剣技では沙羅に及ばないことがわかっているナエトは後方に飛んだ。
しかし――
「待てェェエエエエ!!!」
沙羅は狂気を含んだ瞳で特攻する。
空の追いかけっこが始まり、縦横無尽に2人は飛び交う。
徐々に距離が縮む、その度にナエトは魔力弾で牽制する。
しかし、沙羅は最小限の動きで全て躱し、ナエトに迫る――。
「ラアッ――!!!」
投げやりに振るった沙羅の一撃。
それはナエトの左腕を捉え、肘から先が宙を舞った。
「ツッ――――!!!?」
鮮血が舞い、水が吹き出る音を立てる。
ナエトはこの時点で敗北を確信した。
今の沙羅は、魔根の魔法を使う余暇すら与えてくれないだろう痛みをこらえながらもまた逃げる。
その一瞬あとには沙羅の刃が空を斬った。
「ちょこまかとぉお――――!!!」
沙羅は再び追うも距離は離れてしまっている。
ナエトはとうに結界の最端部に唐突していた。
【無法結界】を剣に魔力を乗せた斬撃で打ち破る。
【無法結界】自体は存在を否認させるだけのものであり、防御力はないのだ、
「転移――」
「逃げるつもりッ!!?」
沙羅は叫ぶ。
しかしその直後には、ナエトの姿は夜の彼方へ消えていた――。
残された憤りはお互い、まだ胸の中に――。
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