連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜

川島晴斗

第十八話

 僕は瑛彦の家に帰り、家事を片付けて瑛彦の弟達と遊び、妹達と雑談して床に着いた。
 寝て眼が覚めると、そこはきりんさんの楽園だった!

「きりんさん……う、後ろ乗せてぇえ!!」
「超能力で脚力鍛えといたから、乗っても崩れないよ。瑞揶くん、遊ぶのだー!」
「ありがと愛ちゃんー!!」

 きりんさんの後ろにまたがって長い首に頬を付ける。
 きりんさんだきりんさん……わーっ。

「瑞揶くんって、きりんさん好きだね?なんでなのかな?」
「大きいからだよ〜っ。よしよしっ、このきりんさんはいい子だな〜っ」
「……そっか〜」

 愛ちゃんがどこか遠い目をしているのも気にせず、僕はきりんさんの首を撫でる。
 ちょっと硬質だけど、きりんさんはいいな〜。
 大きいなぁ、大きいなぁ。

「……幸せそうだね、瑞揶くん」
「幸せだよ〜っ。わーい! きりんさんきりんさん〜!」

 のっそのっそときりんさんが歩く。
 揺れる揺れる、きゃー! なのです!

 子供のようにはしゃぎ、きりんさんに乗って撫でて、抱きしめて、いっぱい遊んだ。
 癒され過ぎてほっこりする……。

「僕、きりんさんだーい好き。きりんさんは? きりんさんは?」

 きりんさんに正面から問いかけると、首を下ろして僕の顔を舐めてくれた。
 感激のあまり、失神しそう……。

「きりんさん、今日から僕たちは友達だよっ。場所が取れれば、いっぱい召喚するからね!」

 というわけで、きりんさんとも仲良くなった。
 僕が笑っているのを愛ちゃんが微笑んで見ていて、それを発見した僕はあいと一緒にきりんさんに乗ったのだった。







「……休めてる、かな?」

 瑞揶くんがこの空間から去った後、私はきりんさん達ともお別れして1人になる。
 ハートばかり浮かんだこの空間で1人呟くと、その言葉は瞬く間に霧散した。

 瑞揶くんは現実だと忙し過ぎる。
 彼を癒してあげられるものは沙羅ちゃんなのに、彼女は今のままだと瑞揶くんを疲れさせてしまう。
 他に癒せるもの、か……。
 瑞揶くんを、癒せるもの――。

「……あ、そっか」

 癒せるものがわかると、私は間抜けな声を出した。
 とっても簡単なことだ、彼を癒すなんて。
 彼が最も好きだったものはアレじゃないか、なんで忘れていたんだろう。

「瑞揶くん……貴方最近、聴いてないものね」

 演奏はしているけど、それは違う。
 聴いて、耳から脳を、体を癒す。
 だったら――そうね。

「一回、沙羅ちゃんを呼ぼうかな」

 あの子が奏でるものを聴いたら、きっと瑞揶くんは喜ぶだろう。
 ……私としては、霧代ちゃんに任せたかったけどね。
 彼女はもう、輪廻の輪の中だ。
 瑞揶くんが力を掛けたおかげで転生までまだ時間がかかるけど、どうなるだろう。

 閑話休題、とにかく沙羅ちゃんを呼ぼう。
 私は心に1つ決め、また瑞揶くんの心から彼の見る世界の観測を再開するのだった。







 土曜の朝、響川家には2人の人間がいた。
 いや、魔人というのが正しいのだけれども、ソファーに座ってテレビを見ている。

「……ちょっと、いつまで居座るつもりよ?」

 私は隣にいる環奈に尋ねた。
 別にいつまでいようが構わないけど、いつも私の家で隣を陣取るのは瑞揶だ。
 環奈が隣に居るのは違和感があるし、落ち着かない。

「まぁまぁ、連れないこと言わないでよ。ウチと沙羅の仲じゃん。つーわけで、どっか出掛けよ?」
「……なんでよ?」
「別に深い意味はないよ。気分転換、それだけ」
「はーん……私と出掛けたって面白くないと思うけどね」
「んなこと言ったらウチだって面白くないし。別にいいっしょ? 今日暇でしょ? 家にこもっててどーすんの?」
「あーもう、うっさいわね……。わかったわよ、行きゃあいいんしょ……」

 重たい腰を上げ、私は立ち上がってそのままシャツを脱ぐ。
 すると、後ろから環奈のげんなりした声が聞こえてきた。

「? なによ?」
「うわー、なんで普通にリビングで脱いでんの……?」
「こっから洗濯カゴ行くのが近いでしょうが。わざわざ2階の部屋まで上がるのも億劫だしね」
「……ひょっとして、瑞揶がいても普通に……」
「脱いでるわね。最近はあまり注意されなくなったけど、夏も下着でリビング来てたりしたし」
「……いやぁ、大物だわ」
「居るのが瑞揶じゃなきゃ、脱いだりしないって」

 家主のアイツが私の裸を見ようが平然としてるのだから、今更気にしたことじゃあない。
 実際に裸を見られたことは、まだ、無いけどね。

「着替えてくるわ。テキトーに待ってなさい」
「はいよーっ」

 あっけらかんとした環奈の返事を背に、私はリビングを後にした。







「ここはこの街、河岸楽かがんらくで1番大きなスーパーだよー。僕も沙羅もよく来るから、ここに来たら会うかもね?」
「へぇー……」
「瑞っち、ちょっとお菓子買ってくっからよろしく!」
「え……えぇ〜」

 神下くんに案内される中、瑛彦が1人でスーパーの中へ消えていった。
 入り口にいる僕らは外に出て待つ事になる。

「ごめんね、瑛彦連れて来ちゃって。うるさいし、邪魔じゃない?」
「大丈夫だよ。今日は1日暇だし……俺は煩いのも好きだぜ?」
「あはは……。そう言ってくれると、助かるよ……」

 神下くんは困ってなさそうで、僕は安心する。
 今日は神下くんに街を案内する日だけど、何故か瑛彦も付いてきた。
 その結果、瑛彦が1人で暴走してるからなかなか進まない。

「それにしても、神下くんはやっぱりカッコいいねぇ〜っ」

 改めて彼を見ると、顔はもとより服のセンスもいい。
 ベージュ色のロングパンツに無地のシャツ、その上からデニムの長袖シャツを袖を折って着ている。
 銀色の腕時計も大人っぽいですにゃ、シャツもVネックですにゃ。
 瑛彦は半袖半ズボンだから除外するとして、僕は白いもこもこなパーカーと市販の短パンですよーっ。
 道中女の子に間違えられてたぐらいなんですよーっ。

「そうか? ハハッ、サンキュ」
「僕も男らしくなりたいよぅ……」
「……それは性格から変えていかないと無理じゃないか? それに、ファッション雑誌読んだりな。俺も本当は帽子が欲しいんだが、髪がこれだからなぁ」
「トゲトゲだねっ」

 彼のツンツンとんがった髪の先に指を当てると、チクチクした。
 凄いなぁ、僕はサラサラだから真逆だよね?
 沙羅の髪もアホ毛が神秘的だけど、これはこれで……むむっ。

「……俺の髪を見るのは結構だが、瑛彦が出てきたぞ。行こうぜ?」
「う、うん……」

 瑛彦が買い物袋を提げて出てきたため、僕達はスーパーを後にするのでした。

 お昼頃になると、大体の所は見終わる。
 必要な所は全部見たつもりだし、後は……

「瑛彦さ、久し振りに行ってみない?」
「おぉ?行くのか?」
「……おい。行くって、どこにだ?」

 神下くんの問いに、僕達は声を揃えて答える。

『秘密基地!』
「……秘密、基地?」
「昔作ったんだよねーっ。もう行かなくなっちゃったけど、今では他の子達が遊んでたりしてるよーっ」
「ほんと、懐かしいぜ。俺の持ち込んだエロ本を瑞揶が全部燃やしたのは良い思い出だ」
「悪い思い出だよーっ! もーっ!」

 ガーッと瑛彦に食ってかかるも、ガハハと笑って誤魔化される。

「瑛彦はいっつも嫌なことがあると秘密基地で泣いて、僕が励ましてたのに。どうしてこんな子に育っちゃったんだろう?」
「恥ずかしい過去を言うなよ。まぁ昔は良かったよなぁ。何も考えずに遊べてさ、今は周りの目が怖くて鬼ごっこなんてできねぇよ」
「瑛彦ならしそうだけどね……」

 僕はどっちかというと、鬼ごっこよりおままごとよりだしね。
 走って騒ぐのは瑛彦が似合う。

「……お前ら、仲良いんだな」

 僕たちを見て神下くんはフッと笑う。
 なんて言ったって、瑛彦は幼馴染み、僕の竹馬の友だもの。

「さっ、行こうかっ」
「ああっ」
「俺も行くぜ」

 僕の合図にみんなで昔に作った秘密基地へ向かう。
 こうして男の子同士で過ごすのも、たまには悪くない。

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