連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜
第十八話
僕は瑛彦の家に帰り、家事を片付けて瑛彦の弟達と遊び、妹達と雑談して床に着いた。
寝て眼が覚めると、そこはきりんさんの楽園だった!
「きりんさん……う、後ろ乗せてぇえ!!」
「超能力で脚力鍛えといたから、乗っても崩れないよ。瑞揶くん、遊ぶのだー!」
「ありがと愛ちゃんー!!」
きりんさんの後ろに跨って長い首に頬を付ける。
きりんさんだきりんさん……わーっ。
「瑞揶くんって、きりんさん好きだね?なんでなのかな?」
「大きいからだよ〜っ。よしよしっ、このきりんさんはいい子だな〜っ」
「……そっか〜」
愛ちゃんがどこか遠い目をしているのも気にせず、僕はきりんさんの首を撫でる。
ちょっと硬質だけど、きりんさんはいいな〜。
大きいなぁ、大きいなぁ。
「……幸せそうだね、瑞揶くん」
「幸せだよ〜っ。わーい! きりんさんきりんさん〜!」
のっそのっそときりんさんが歩く。
揺れる揺れる、きゃー! なのです!
子供のようにはしゃぎ、きりんさんに乗って撫でて、抱きしめて、いっぱい遊んだ。
癒され過ぎてほっこりする……。
「僕、きりんさんだーい好き。きりんさんは? きりんさんは?」
きりんさんに正面から問いかけると、首を下ろして僕の顔を舐めてくれた。
感激のあまり、失神しそう……。
「きりんさん、今日から僕たちは友達だよっ。場所が取れれば、いっぱい召喚するからね!」
というわけで、きりんさんとも仲良くなった。
僕が笑っているのを愛ちゃんが微笑んで見ていて、それを発見した僕はあいと一緒にきりんさんに乗ったのだった。
◇
「……休めてる、かな?」
瑞揶くんがこの空間から去った後、私はきりんさん達ともお別れして1人になる。
ハートばかり浮かんだこの空間で1人呟くと、その言葉は瞬く間に霧散した。
瑞揶くんは現実だと忙し過ぎる。
彼を癒してあげられるものは沙羅ちゃんなのに、彼女は今のままだと瑞揶くんを疲れさせてしまう。
他に癒せるもの、か……。
瑞揶くんを、癒せるもの――。
「……あ、そっか」
癒せるものがわかると、私は間抜けな声を出した。
とっても簡単なことだ、彼を癒すなんて。
彼が最も好きだったものはアレじゃないか、なんで忘れていたんだろう。
「瑞揶くん……貴方最近、聴いてないものね」
演奏はしているけど、それは違う。
聴いて、耳から脳を、体を癒す。
だったら――そうね。
「一回、沙羅ちゃんを呼ぼうかな」
あの子が奏でるものを聴いたら、きっと瑞揶くんは喜ぶだろう。
……私としては、霧代ちゃんに任せたかったけどね。
彼女はもう、輪廻の輪の中だ。
瑞揶くんが力を掛けたおかげで転生までまだ時間がかかるけど、どうなるだろう。
閑話休題、とにかく沙羅ちゃんを呼ぼう。
私は心に1つ決め、また瑞揶くんの心から彼の見る世界の観測を再開するのだった。
◇
土曜の朝、響川家には2人の人間がいた。
いや、魔人というのが正しいのだけれども、ソファーに座ってテレビを見ている。
「……ちょっと、いつまで居座るつもりよ?」
私は隣にいる環奈に尋ねた。
別にいつまでいようが構わないけど、いつも私の家で隣を陣取るのは瑞揶だ。
環奈が隣に居るのは違和感があるし、落ち着かない。
「まぁまぁ、連れないこと言わないでよ。ウチと沙羅の仲じゃん。つーわけで、どっか出掛けよ?」
「……なんでよ?」
「別に深い意味はないよ。気分転換、それだけ」
「はーん……私と出掛けたって面白くないと思うけどね」
「んなこと言ったらウチだって面白くないし。別にいいっしょ? 今日暇でしょ? 家にこもっててどーすんの?」
「あーもう、うっさいわね……。わかったわよ、行きゃあいいんしょ……」
重たい腰を上げ、私は立ち上がってそのままシャツを脱ぐ。
すると、後ろから環奈のげんなりした声が聞こえてきた。
「? なによ?」
「うわー、なんで普通にリビングで脱いでんの……?」
「こっから洗濯カゴ行くのが近いでしょうが。わざわざ2階の部屋まで上がるのも億劫だしね」
「……ひょっとして、瑞揶がいても普通に……」
「脱いでるわね。最近はあまり注意されなくなったけど、夏も下着でリビング来てたりしたし」
「……いやぁ、大物だわ」
「居るのが瑞揶じゃなきゃ、脱いだりしないって」
家主のアイツが私の裸を見ようが平然としてるのだから、今更気にしたことじゃあない。
実際に裸を見られたことは、まだ、無いけどね。
「着替えてくるわ。テキトーに待ってなさい」
「はいよーっ」
あっけらかんとした環奈の返事を背に、私はリビングを後にした。
◇
「ここはこの街、河岸楽で1番大きなスーパーだよー。僕も沙羅もよく来るから、ここに来たら会うかもね?」
「へぇー……」
「瑞っち、ちょっとお菓子買ってくっからよろしく!」
「え……えぇ〜」
神下くんに案内される中、瑛彦が1人でスーパーの中へ消えていった。
入り口にいる僕らは外に出て待つ事になる。
「ごめんね、瑛彦連れて来ちゃって。煩いし、邪魔じゃない?」
「大丈夫だよ。今日は1日暇だし……俺は煩いのも好きだぜ?」
「あはは……。そう言ってくれると、助かるよ……」
神下くんは困ってなさそうで、僕は安心する。
今日は神下くんに街を案内する日だけど、何故か瑛彦も付いてきた。
その結果、瑛彦が1人で暴走してるからなかなか進まない。
「それにしても、神下くんはやっぱりカッコいいねぇ〜っ」
改めて彼を見ると、顔はもとより服のセンスもいい。
ベージュ色のロングパンツに無地のシャツ、その上からデニムの長袖シャツを袖を折って着ている。
銀色の腕時計も大人っぽいですにゃ、シャツもVネックですにゃ。
瑛彦は半袖半ズボンだから除外するとして、僕は白いもこもこなパーカーと市販の短パンですよーっ。
道中女の子に間違えられてたぐらいなんですよーっ。
「そうか? ハハッ、サンキュ」
「僕も男らしくなりたいよぅ……」
「……それは性格から変えていかないと無理じゃないか? それに、ファッション雑誌読んだりな。俺も本当は帽子が欲しいんだが、髪がこれだからなぁ」
「トゲトゲだねっ」
彼のツンツンとんがった髪の先に指を当てると、チクチクした。
凄いなぁ、僕はサラサラだから真逆だよね?
沙羅の髪もアホ毛が神秘的だけど、これはこれで……むむっ。
「……俺の髪を見るのは結構だが、瑛彦が出てきたぞ。行こうぜ?」
「う、うん……」
瑛彦が買い物袋を提げて出てきたため、僕達はスーパーを後にするのでした。
お昼頃になると、大体の所は見終わる。
必要な所は全部見たつもりだし、後は……
「瑛彦さ、久し振りに行ってみない?」
「おぉ?行くのか?」
「……おい。行くって、どこにだ?」
神下くんの問いに、僕達は声を揃えて答える。
『秘密基地!』
「……秘密、基地?」
「昔作ったんだよねーっ。もう行かなくなっちゃったけど、今では他の子達が遊んでたりしてるよーっ」
「ほんと、懐かしいぜ。俺の持ち込んだエロ本を瑞揶が全部燃やしたのは良い思い出だ」
「悪い思い出だよーっ! もーっ!」
ガーッと瑛彦に食ってかかるも、ガハハと笑って誤魔化される。
「瑛彦はいっつも嫌なことがあると秘密基地で泣いて、僕が励ましてたのに。どうしてこんな子に育っちゃったんだろう?」
「恥ずかしい過去を言うなよ。まぁ昔は良かったよなぁ。何も考えずに遊べてさ、今は周りの目が怖くて鬼ごっこなんてできねぇよ」
「瑛彦ならしそうだけどね……」
僕はどっちかというと、鬼ごっこよりおままごとよりだしね。
走って騒ぐのは瑛彦が似合う。
「……お前ら、仲良いんだな」
僕たちを見て神下くんはフッと笑う。
なんて言ったって、瑛彦は幼馴染み、僕の竹馬の友だもの。
「さっ、行こうかっ」
「ああっ」
「俺も行くぜ」
僕の合図にみんなで昔に作った秘密基地へ向かう。
こうして男の子同士で過ごすのも、たまには悪くない。
寝て眼が覚めると、そこはきりんさんの楽園だった!
「きりんさん……う、後ろ乗せてぇえ!!」
「超能力で脚力鍛えといたから、乗っても崩れないよ。瑞揶くん、遊ぶのだー!」
「ありがと愛ちゃんー!!」
きりんさんの後ろに跨って長い首に頬を付ける。
きりんさんだきりんさん……わーっ。
「瑞揶くんって、きりんさん好きだね?なんでなのかな?」
「大きいからだよ〜っ。よしよしっ、このきりんさんはいい子だな〜っ」
「……そっか〜」
愛ちゃんがどこか遠い目をしているのも気にせず、僕はきりんさんの首を撫でる。
ちょっと硬質だけど、きりんさんはいいな〜。
大きいなぁ、大きいなぁ。
「……幸せそうだね、瑞揶くん」
「幸せだよ〜っ。わーい! きりんさんきりんさん〜!」
のっそのっそときりんさんが歩く。
揺れる揺れる、きゃー! なのです!
子供のようにはしゃぎ、きりんさんに乗って撫でて、抱きしめて、いっぱい遊んだ。
癒され過ぎてほっこりする……。
「僕、きりんさんだーい好き。きりんさんは? きりんさんは?」
きりんさんに正面から問いかけると、首を下ろして僕の顔を舐めてくれた。
感激のあまり、失神しそう……。
「きりんさん、今日から僕たちは友達だよっ。場所が取れれば、いっぱい召喚するからね!」
というわけで、きりんさんとも仲良くなった。
僕が笑っているのを愛ちゃんが微笑んで見ていて、それを発見した僕はあいと一緒にきりんさんに乗ったのだった。
◇
「……休めてる、かな?」
瑞揶くんがこの空間から去った後、私はきりんさん達ともお別れして1人になる。
ハートばかり浮かんだこの空間で1人呟くと、その言葉は瞬く間に霧散した。
瑞揶くんは現実だと忙し過ぎる。
彼を癒してあげられるものは沙羅ちゃんなのに、彼女は今のままだと瑞揶くんを疲れさせてしまう。
他に癒せるもの、か……。
瑞揶くんを、癒せるもの――。
「……あ、そっか」
癒せるものがわかると、私は間抜けな声を出した。
とっても簡単なことだ、彼を癒すなんて。
彼が最も好きだったものはアレじゃないか、なんで忘れていたんだろう。
「瑞揶くん……貴方最近、聴いてないものね」
演奏はしているけど、それは違う。
聴いて、耳から脳を、体を癒す。
だったら――そうね。
「一回、沙羅ちゃんを呼ぼうかな」
あの子が奏でるものを聴いたら、きっと瑞揶くんは喜ぶだろう。
……私としては、霧代ちゃんに任せたかったけどね。
彼女はもう、輪廻の輪の中だ。
瑞揶くんが力を掛けたおかげで転生までまだ時間がかかるけど、どうなるだろう。
閑話休題、とにかく沙羅ちゃんを呼ぼう。
私は心に1つ決め、また瑞揶くんの心から彼の見る世界の観測を再開するのだった。
◇
土曜の朝、響川家には2人の人間がいた。
いや、魔人というのが正しいのだけれども、ソファーに座ってテレビを見ている。
「……ちょっと、いつまで居座るつもりよ?」
私は隣にいる環奈に尋ねた。
別にいつまでいようが構わないけど、いつも私の家で隣を陣取るのは瑞揶だ。
環奈が隣に居るのは違和感があるし、落ち着かない。
「まぁまぁ、連れないこと言わないでよ。ウチと沙羅の仲じゃん。つーわけで、どっか出掛けよ?」
「……なんでよ?」
「別に深い意味はないよ。気分転換、それだけ」
「はーん……私と出掛けたって面白くないと思うけどね」
「んなこと言ったらウチだって面白くないし。別にいいっしょ? 今日暇でしょ? 家にこもっててどーすんの?」
「あーもう、うっさいわね……。わかったわよ、行きゃあいいんしょ……」
重たい腰を上げ、私は立ち上がってそのままシャツを脱ぐ。
すると、後ろから環奈のげんなりした声が聞こえてきた。
「? なによ?」
「うわー、なんで普通にリビングで脱いでんの……?」
「こっから洗濯カゴ行くのが近いでしょうが。わざわざ2階の部屋まで上がるのも億劫だしね」
「……ひょっとして、瑞揶がいても普通に……」
「脱いでるわね。最近はあまり注意されなくなったけど、夏も下着でリビング来てたりしたし」
「……いやぁ、大物だわ」
「居るのが瑞揶じゃなきゃ、脱いだりしないって」
家主のアイツが私の裸を見ようが平然としてるのだから、今更気にしたことじゃあない。
実際に裸を見られたことは、まだ、無いけどね。
「着替えてくるわ。テキトーに待ってなさい」
「はいよーっ」
あっけらかんとした環奈の返事を背に、私はリビングを後にした。
◇
「ここはこの街、河岸楽で1番大きなスーパーだよー。僕も沙羅もよく来るから、ここに来たら会うかもね?」
「へぇー……」
「瑞っち、ちょっとお菓子買ってくっからよろしく!」
「え……えぇ〜」
神下くんに案内される中、瑛彦が1人でスーパーの中へ消えていった。
入り口にいる僕らは外に出て待つ事になる。
「ごめんね、瑛彦連れて来ちゃって。煩いし、邪魔じゃない?」
「大丈夫だよ。今日は1日暇だし……俺は煩いのも好きだぜ?」
「あはは……。そう言ってくれると、助かるよ……」
神下くんは困ってなさそうで、僕は安心する。
今日は神下くんに街を案内する日だけど、何故か瑛彦も付いてきた。
その結果、瑛彦が1人で暴走してるからなかなか進まない。
「それにしても、神下くんはやっぱりカッコいいねぇ〜っ」
改めて彼を見ると、顔はもとより服のセンスもいい。
ベージュ色のロングパンツに無地のシャツ、その上からデニムの長袖シャツを袖を折って着ている。
銀色の腕時計も大人っぽいですにゃ、シャツもVネックですにゃ。
瑛彦は半袖半ズボンだから除外するとして、僕は白いもこもこなパーカーと市販の短パンですよーっ。
道中女の子に間違えられてたぐらいなんですよーっ。
「そうか? ハハッ、サンキュ」
「僕も男らしくなりたいよぅ……」
「……それは性格から変えていかないと無理じゃないか? それに、ファッション雑誌読んだりな。俺も本当は帽子が欲しいんだが、髪がこれだからなぁ」
「トゲトゲだねっ」
彼のツンツンとんがった髪の先に指を当てると、チクチクした。
凄いなぁ、僕はサラサラだから真逆だよね?
沙羅の髪もアホ毛が神秘的だけど、これはこれで……むむっ。
「……俺の髪を見るのは結構だが、瑛彦が出てきたぞ。行こうぜ?」
「う、うん……」
瑛彦が買い物袋を提げて出てきたため、僕達はスーパーを後にするのでした。
お昼頃になると、大体の所は見終わる。
必要な所は全部見たつもりだし、後は……
「瑛彦さ、久し振りに行ってみない?」
「おぉ?行くのか?」
「……おい。行くって、どこにだ?」
神下くんの問いに、僕達は声を揃えて答える。
『秘密基地!』
「……秘密、基地?」
「昔作ったんだよねーっ。もう行かなくなっちゃったけど、今では他の子達が遊んでたりしてるよーっ」
「ほんと、懐かしいぜ。俺の持ち込んだエロ本を瑞揶が全部燃やしたのは良い思い出だ」
「悪い思い出だよーっ! もーっ!」
ガーッと瑛彦に食ってかかるも、ガハハと笑って誤魔化される。
「瑛彦はいっつも嫌なことがあると秘密基地で泣いて、僕が励ましてたのに。どうしてこんな子に育っちゃったんだろう?」
「恥ずかしい過去を言うなよ。まぁ昔は良かったよなぁ。何も考えずに遊べてさ、今は周りの目が怖くて鬼ごっこなんてできねぇよ」
「瑛彦ならしそうだけどね……」
僕はどっちかというと、鬼ごっこよりおままごとよりだしね。
走って騒ぐのは瑛彦が似合う。
「……お前ら、仲良いんだな」
僕たちを見て神下くんはフッと笑う。
なんて言ったって、瑛彦は幼馴染み、僕の竹馬の友だもの。
「さっ、行こうかっ」
「ああっ」
「俺も行くぜ」
僕の合図にみんなで昔に作った秘密基地へ向かう。
こうして男の子同士で過ごすのも、たまには悪くない。
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