連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜

川島晴斗

第十九話

 僕が家で掃除洗濯をしている間に部員が集まったようで、僕、沙羅、瑛彦、環奈(名前だけ借りる)、そして工藤理優の5人により、部が成り立つようになるそうな。
 5人で作れるんだ〜、と感嘆しながらも、沙羅の第一目標達成を喜んだ。
 そして、何よりもお友達が増えるのは嬉しいことだよね。
 ヤプレータ高校に来てからは中学の同級生に会う機会がめっきり減ったし、基本的につるんでたのは瑛彦だったから、高校に入ってまだまだ序盤なのに友達が増えてきたのは良い傾向だよね。

 そして、今日の放課後は5人で1-1に集まり、僕は改めて工藤さんと会話を交える事になる。
 白く光る蛍光灯の元、机をどかして僕と工藤さんの2人は真ん中に椅子を2つだけ出して座らせられ、残りの3人は教卓付近に集まっていた。
 ……この配置はなんなんでしょう?
 まぁいいんだけども……。

「えっと、改めて自己紹介するね? 僕は響川瑞揶です。沙羅と区別が付かなくなるし、瑞揶でいいよ〜っ」
「え、と……わ、私、は、工藤理優……です……」
「あはは、緊張しなくていいよ?……って言っても仕方ないのかな?これから仲良くしていこうね〜っ」
「は、はぁ……どうも、です……」

 おどおどとしながら返事を返してくる。
 人見知りの人って、相手の人を怒らせないように話そうと頑張るからそうなるんだっけ。
 だとすると、人見知りの人はみんな優しいと思えるし、仲良くしたいな〜。

「理優っち、ソイツは何言われても怒ったりしないから遠慮は無用だぜー!」

 外野の瑛彦からそんな野次が飛んでくる。

「僕だって怒る時は怒るよーっ」
「おっ、怒るんですかっ……?」
「……怒るべき時には叱るよ? でも、お互いに非のあるところを言い合って仲良くなれるようにするのは、良いことだよ〜?」
「そ、そうですね……。あぅ……その、良い言葉ですね」
「あはは、ありがとーっ。仲良くしていこーね〜っ」
「はいっ」

 ニコニコ笑ってみると、工藤さんも笑顔で返してくれる。
 素直に笑ってくれたように見えたし、嬉しいな……。

「……流石は瑞揶。あのホワホワに勝る話しやすさは無いわね」
「俺には無理だわな〜。つーか俺の口調ってどう?」
「ウザいわ」
「ひでぇ!?」
「そんなことより御2人よ。ウチはそろそろタイムセールに行かなきゃなんだけど……」

 ……なんだか向こうの方が賑わってるなぁ。
 なんか疎外感あるし、向こうは気にせず、もうちょっと工藤さんに色々訊いてみよう。

「工藤さん、料理とかってする?」
「え……うん、自炊とかは……します」
「そうなんだ。僕も家で料理とかしてるから、共通の趣味になるのかな。最近作ったものは何?」
「あっ、魔界タコ入りスパゲッティですっ」
「……そこは普通に、スパゲッティって言って欲しかったかな……」

 なんか、料理名に魔界って付くだけで極悪な印象なんだよね……。
 名前と味とは別だとは思うけど、食欲の進まない名前だとしか言えないなぁ……。

「え……ダ、ダメでしたか?」
「いや、いいんだけど……魔界の食べ物、好き?」
「はいっ、大好きですよっ」
「……即答。そ、そっか……じゃあ今度、なんかお互いに作ってきて一緒に食べよ〜?」
「是非っ。私も頑張って食材選んで、腕によりをかけるねっ」
「……あはは、頑張ろ〜っ」

 割と明るく、ハキハキ喋ってくれたのに、なんだか僕は気分が乗らなくなってきていた。
 ……カオスな料理を出されないことを願おう。

「じゃ、本題に入りましょうか」

 沙羅が話題転換を告げ、白いチョークを手に取る。
 本題……なんだろうか?

「私達5人で部活を作るわ。それは確定事項よ。だけど、私達は何をやるか決めてないわ」
「そうだよな。沙羅っちが青春したいっ、つっても、何をもって青春するかだよな」
「いや、青春はもういいわ」

 ――ピシッ

 沙羅が言い放つと、空気が凍った。
 あの沙羅が、青春を辞めると言ったのだ。
 今までの部員集めとか、なんだったんだろう……。

「……マジで言ってんのか?」
「ええ。さすがにドラマと現実が違うっていうのを実感したわ。でもとりあえず、部活を作ると言い出した責任は取るわ。顧問も雇ったし、作るだけ作るわね」

 瑛彦の問いにもサラリと答えてだるそうに教卓に肘をつく沙羅。
 確かに、集まったのは5人だしね。
 青春には程遠いかな。

「何か反対意見とかあれば聞くわよ?」
『ない(よ)』

 皆口を揃えて否定する。
 もともと僕らは青春について大して興味なかったし、反論のしようがないかな。

「じゃ、“まったり音楽部”を作るわ。みんなよろしく」
『はーいっ』

 そんなわけで、どこかほのぼのとした部活名に決定したのだった。







 4月も終盤に差し掛かって、やっとこさ学力確認テストも返ってきた。
 僕は学年15位と、中々良い評価。
 沙羅は満点で全教科1位という驚異の成績を収めていた。
 瑛彦、環奈はぼちぼちといった感じで、平均を少し下回るくらい。
 工藤さんは学年8位で、勉強が得意みたいだった。
 そんなテストの事が話題に上がるのは一瞬の事で、今日も今日で部活を始める。
 僕達は今後の活動拠点となるのは、普通の教室の1.5倍は面積のある視聴覚室で、すぐ隣には第二音楽室があり、工藤さんはそこから色々と楽器を借りてきて何を使うのか決める途中だ。
 瑛彦はエレキギターを買ったようで、その練習をしている。
 多分、3日もあれば一曲弾けるぐらいになってるだろう。
 沙羅もフルートを購入、僕はヴァイオリンの持参とし、毎日各自で自主練している。
 フルート、ヴァイオリン、エレキギター。
 なんか合わない気がしながらも、好きな事をするのは良いことで、お互いに知ってる曲を出し合って合奏したり、雑談したり、毎日楽しんでいた。

 家に帰るのは沙羅と別々になることが多い。
 僕が買い出ししなきゃいけないからなんだけど、家に帰る頃には沙羅が夕飯の準備をしていて僕もそこに加勢する事になる。
 代わりに、朝ごはんとお弁当は全部僕が作ってるけども。
 洗濯もほぼ僕が担当するし、掃除は、帰ったら夜の事が多くて掃除機も使えず、ワイパーをフローリングに滑らせたりと、手軽に出来ることだけをしている。
 土日には掃除機をかけるんだけどね。

 家事が終わったら沙羅はずっとテレビを見てるし、僕は自室で音楽を聴いて勉強をしたり、裁縫したりする。
 場合によってはミシンを出して大掛かりに。
 なんだか、毎日が充実して来たように感じる。
 それもそうだよね、青春を謳歌する部活に入ってるんだからね。

「……僕が入るべき、じゃないんだけどなぁ」

 自室のベッドの上に仰向けに寝転び、天井を見ながらポツリと呟いた。
 僕はこのままでいいのだろうか。
 苦しむべきなのに、楽しんでいいのだろうか。
 最近は忙しいし、自傷行為もできていない。
 痛いし、とてもやりたくないあの行為をやんなきゃ、苦しめない……。
 かといって、時間を使って寝不足になったりすると心配されるだろう。
 僕の都合で周りには迷惑をかけたくない。
 だとすると、どうすればいいだろう?
 手の打ちようがない気がする……。

「……とりあえず、現状維持かなぁ」

 また呟いた時、コンコンと2回のノックがあった。
 ノックした人物は1人しかいない。
 僕は短く「どうぞ」と言うと、ドアが開いて寝間着姿の金髪の少女が入ってくる。

「どうしたの?」
「……お菓子が欲しいわ」
「お菓子?」

 どうやらお菓子が食べたいらしい。
 上体を起こし、ちらりと壁掛けの時計を確認すると、もう21時を過ぎていた。

「……こんな時間から食べたら、虫歯になっちゃうよ?」
「時間の問題じゃないわ。家に無いのよ」
「……あったら食べるんでしょ?」
「食べなきゃ頼まないわよ」
「……だから、虫歯になっちゃうよ?」
「魔族は虫歯になんてならないわ」
「…………」

 中学の頃、魔人の子が歯科検診に引っかかってた話を持ち出すべきだろうか。
 いや、彼女は引く気は無いだろう。
 ……仕方ないなぁ。

「……じゃあ、お金渡すから好きに買って来ていいよ」
「こんな夜中に女の子1人に歩かせる気?あと、見たいテレビがあるんだけど」
「……沙羅。君には人に物を頼む態度を教えなきゃダメなのかな?」

 あまりにも図々しくて、流石に説教が必要としか思えない。
 僕の言葉に彼女は不敵に笑い、仁王立ちになった。

「フッ、私にモノを教えようだなんて百年早いわ」

 沙羅の瞳が赤く光る。
 魅了?違うよね、僕にはそんなの効かない。
 というかそもそも、能力上、沙羅は僕に敵いっこないんだ。
 ここは強気に行こう!

「沙羅こそ、僕に文句言うのは百年早いよーっ!」
「なんですって!? 瑞揶のくせに生意気よ!」
「今日という今日はたっぷり叱るんだからねっ! 拘束っ!」
「ふんっ!」

 僕が拘束の単語を呟いた刹那、沙羅は床を蹴り、沙羅のてのひらがそっと天井に触れた。
 沙羅の居た後には目標を失った水色の拘束具が現れる。
 一瞬で逃げるとは……。

「私に攻撃を仕掛けるとはいい度胸ねっ!」
「なにをーっ!」

 天井を押し、沙羅が僕目掛けて蹴りを放ってくる。
 魔人の蹴りなんて喰らったら死んでしまう。
 だから、当たる前に超能力を発動した。

「なっ!?」

 彼女の体が空中で静止する。
 テレキネシスを使えば、こんな事は造作もない。

「くっ、超能力とかずるいわよっ!!」
「単純な力だと、沙羅に絶対勝てないもの仕方ないでしょ?」
「……仕方ない?なら、これも仕方ないわよねぇ!【晴天意せいてんい】!!」
「!?」

 技の名前だろうか、それを叫ぶと同時に沙羅の体が光り輝く。
 僕の発動していたテレキネシスが無効化され、彼女は地に降り立った。
 拘束の解けた彼女はニヤリと笑う。

「ふっふっふ……さぁ、お仕置きしてあげるわ」
「気が早いよ沙羅。僕はまだ負けてないもん」
「あら、じゃあどうするのかしらね?」

 沙羅は完全に勝った気でいる。
 これなら、不意を突くのは簡単だ。
 特に、能力頼りに見えるだろう僕なら、単純な攻撃で通る――!

「くらえーっ!」

 大して威勢も張れない声と共に僕は床を蹴った。
 単なる突進、沙羅は意外に思ったのか、口を開けて驚く。
 しかし――

 ガシッ。

「…………」
「…………」

 お互いに無言になる。
 今の物音、それは僕の頭がキャッチされる音。
 なんでもないように沙羅は僕の突進を止めたのだった。

「……舐めすぎじゃないの?」
「痛い痛い痛い……ごめんなさい、許して、痛い……」

 てのひらをグリグリ動かされ頭と髪が擦れたりする上に、徐々に力を加えられて頭が潰れそうだ。
 ぐうっ……力の差があり過ぎるよ……。

「……なんだかアホらしくなってきたわ。というか、これじゃあ一方的にいじめてるみたいで嫌じゃない」

 僕の頭を離し、漸く解放された僕は半泣きでがっくりと崩れ落ちた。

「虐めてるよ〜っ。うぅっ……沙羅が真面目に育ってくれない……」
「私は自分の好きなように振る舞い、そうして育つわ。瑞揶が真面目過ぎるのよ。色々ともっと楽に考えて生きれば、少しは楽しくなるわ」
「……お堅い考えで悪かったよーっ。はあっ……沙羅が意地悪じゃなくなったら物凄くいいのに」
「はいはい、どうせ私は意地悪よ。いいからさっさと煎餅でも買って来なさい」
「……はーい」

 情け容赦なく要求を告げられ、僕は渋々承諾するのだった。
 結局僕は沙羅に振り回されてばかりいるようにも感じる。
 忙しいっていうのは良いことか悪いことか、その感じ方は人によって変わるけど、今の環境については複雑な心境を抱かざるを得ない。

「……せめて、もうちょっと沙羅がお淑やかだったらなぁ……」

 小さな願いかもしれないが、これは本当に叶ってほしい。
 でもまぁ僕も多少なりと辛い思いはしてるし、僕が本当に辛い事を望みたいなら、このままでいいとも思う。
 でも、迷惑掛けられて辛いのと僕が犯した罪と関係あるのか曖昧だし、やっぱり複雑な心境なのだった。
 取り敢えず、今日のところはパシリになるとしよう。

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