連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜
第十五話
「今になって、私は自分が非難されないのが不思議に思うわ」
結局部活に行くのはやめ、瑞揶が自室に行って2人残されたリビング。
テレビが昼のバラエティー番組からニュースに移り変わると、隣に座るセラに向けて私は呟いた。
隣に座る彼女は顔を曇らせ、目を半分閉じる。
「どうして……さーちゃんは非難されるべきだって考えてるの?」
「私もアンタも殺人鬼よ。なのに、私はこうして今、何事もなく平穏を手に入れてる。でもセラはまだ王血影隊で死に物狂いで仕事をこなしている。王血影隊から逃げて、平和に暮らしている私が憎くないの? 人殺しが平和に生きてるってだけでも異常なんだって、アンタが来て思い出したわ」
「そんなに思いつめなくても……」
「そうね」
セラの小さな励ましの声をあっさりと肯定する。
殺人鬼とか兵器とか、そんな汚名を着せられようが私は私の生きたいように生きると決めていた。
だから脱走したんだもの、私の生き方を否定して襲ってくる奴がいるなら喜んで相手をしてやるまで。
しかし、姉を名乗る人はその限りではないようだ。
「さーちゃんは大人ね。そんな風に考えられるなんて」
「大人じゃないわ。わがまま言いたい放題の子供よ」
「子供なの?」
「そうよ」
大人なら、きっと私は多数の命を絶った責任とかぬかして自決していたかもしれない。
周りにもっと大人らしい人間がいたら、汚い言葉で私を罵る正義の人間がいたかもしれない。
でも、瑞揶も瑛彦も、周りは私と同じ子供だらけ。
環奈だけはわからないけど。
だから平和に過ごせていたのかもしれない。
無論、私の過去もわざわざ言わなくていいことだから言ってないし、そのこともあるんだろうけど。
そう考えるなら、ナエトは大人だったのだろうか?
私に楯突いたのは、考えてみればアイツだけだった。
「まだまだ大人半人前、ってところかしらね……」
勝手にナエトの成長度合を決め付ける。
結局彼も私のことは監視するにとどめている。
瑞揶が何かしていたのかもしれないが、私の知らないところだから気にすることじゃない、か。
「さーちゃんも、いろいろ考えてるのね……」
「考えなきゃ脳がもったいないわ。でも感情的に動いてばかりで、ちっとも知的になんかなれないのよね……」
「知的……そんなお姉ちゃんが欲しいってこと?」
「一体どうしたらそんな解釈になるのよ……」
「私はお姉ちゃんだから、さーちゃんの手本にならないと、って思ってね」
「手本、ね……」
私に見せて欲しい手本なんてない、なんて言ったらこの人は落ち込むだろう。
瑞揶のいない2人の状況で、それは少しめんどくさいから何も言わないでおくことにした。
「というか、瑞揶は何してるのかしらね。お腹すいてきたわ……」
不満気に私は呟く。
時計の針はもうすぐ12時を回ろうとしているのに、昼食の準備にすら入っていないなんて珍しかった。
「あ、私様子見てくるね」
そう言ってセラはすっくと立ち上がり、階段の方へと駆けていった。
その背中を見送って私はため息を吐き、テレビを消して出前のチラシを探しだす。
どうせ今の時間からだと、出前に決まっているのだから。
◇
「瑞揶くーん? 入っていい?」
「はーい、どうぞー」
部屋の向こうから名前を呼ばれ、僕はシャーペンをチラシの裏にに置いて扉に向かった。
扉の向こうには朗らかに笑う黄緑色の髪をした少女、セラがいた。
「どうしたのー?」
「さーちゃんがお腹すいたって言ってたから……冷蔵庫触っていいなら、私が何か作るけど……」
「え? あー、もうこんな時間だったのかぁ……」
壁に掛けられたまん丸の時計を見ると、もう12時になりかけていた。
ここまで放置していたなら、多分沙羅は出前を頼んでいるだろう。
この前、うな重食べたいって言ってたし……。
「沙羅なら出前取ると思うから、沙羅のことは大丈夫。姉さんも、何か食べたかったら沙羅に言ってね」
「うん。でも私、お腹すいてないの……。さーちゃんと一緒にいたら緊張しちゃって、それどころじゃないのよ……」
「あはは……まだ一日しか経ってないし、沙羅に慣れるのは難しいよ」
頭の中に沙羅の姿を想像する。
見た目以上に口が悪かったりするから、近寄りがたいしね……。
「瑞揶くんは、部屋で何してたの?」
僕が少し苦い顔をしていたからか、姉さんは話題を変えてきた。
「僕は夏祭りの予定を考えてたんだよーっ。17日と18日にあるんだーっ」
「夏祭り……? ああっ、それなら習ったよ。確か、屈強な男の人たちが半裸になって戦う――」
「ぜ、全然違うよ……」
「むぅー? 違うの?」
「うん」
間違いを指摘されて頬を膨らませる姉さん。
僕は苦笑してごまかし、夏祭りについて説明する。
「夏祭り――お祭りはね、いっぱい露店が出て、みんな着物や浴衣を着て来るの。お祭り特有の音楽が鳴っていて、提灯がたくさん吊るされてて、いるだけでも楽しいんだよ〜」
「そうなんだ……」
突如眉を潜め、表情が暗くなる姉さん。
失言だったことに、僕も気付く。
僕の言った日にちまで、姉さんはいないのだから。
「……あのさ、姉さん」
「?」
「姉さんさえ良ければ、僕の家で暮らさない……?」
「…………」
姉さんは目を伏せて小さく口を開いた。
それは呆れたようにも見えたが、薄幸しているようにも見える。
その悲しみの口元が開いた。
「私たちは――こういう星の元に生まれてしまったの。手を血で汚して……本来なら一生、君みたいな愛らしい人と会ってはいけないの。さーちゃんは妹だから……特別、私は幸せになって欲しいけど……」
その言葉を聞いて、僕は感じた。
この人も、僕と同類の人間なんだと――。
罪の意識があるから、普通でいることができない。
辛さ――贖罪を求めているんだ――。
「貴方は、沙羅と違うんだね……」
「そう、ね……お姉ちゃんなのに、私とさーちゃんじゃ考え方が違う。……生まれ育った環境も違うんだもの。当然だよね」
「…………」
姉妹として会いたがっていた妹に、自分と違うということをしっかりと割り切っている。
姉妹だから一緒、そう思いたいのが自然だろうに――。
「でもね、あの子がいい子で良かった……。私は――それだけで満足……」
「……姉さん」
「でも、私も死にたくない。だから、今回はさーちゃんを連れて行くこと、どうか許して……」
姉さんは頭を下げた。
なんて重たい願いを、僕なんかにするんだろう……。
「頭を上げてよっ。僕は、沙羅さえ良ければ行ってもらうつもり。それに、姉さんに死んで欲しくはないからね……」
「……ありがとう。私、さーちゃんを必ず生きてこの家に戻すから……」
「うん……」
それだけ確認すると、姉さんはリビングに戻っていった。
なんだか最近、厄介事というか、いろいろ考えさせられることが多い気がする。
このヤプタレに生まれてからかと苦笑を零しつつ、僕は夏祭りのために使うお金の計算をするため、また椅子に座ろうとして――
――ガラッ!
「!!?」
突如開いた窓に驚き、尻餅をついた。
「……なに倒れてんのよ、情けない」
「だ、だって……」
窓から入ってきた沙羅に窘められながら立ち上がる。
凛然とした佇まいの彼女はふぅっと息を吐いて僕のベッドに腰掛けた。
窓の鍵、掛けてたんだけどなぁ……。
「幸い、セラはいい奴ね。演技にしても1日経てば細かいところでボロを出すけど、今のところセラからはそれが見られない。これなら、彼女がいる間も瑞揶に迷惑は掛からないわね」
「僕のことなんて良いんだ……。それより、沙羅はどうなの?n危険じゃない?」
「私たちは、兵器の一つなのよ。危険なのは私自身、私に危険が来るとするなら、それは、私自身が暴発することね。もっとも、暴発したって死なないわ」
「なら、僕はそれが一番だけど……」
「なによ? 歯切れが悪いわね……」
「…………」
文句を言われても、僕は口を噤んでしまった。
安全――だけど、これから沙羅は戦地にいく。
もちろん僕もついていくけど、沙羅は人を殺すんだろうか――?
僕の目前であっても――。
「殺すわよ」
僕の頭に浮かんだ質問を、沙羅は答えた。
驚いて彼女にに顔を向けると、少しむすっとしている少女の顔がある。
「セラとの話も聞いてたし、ずっと一緒だったんだから、顔を見れば多少のことはわかるわよ」
「沙羅……」
「ためらったら死ぬのはこっち。不死の瑞揶にはわからないかもしれないけど、私たちは常に本気よ。戦場で気を抜いたり、慈悲を与えたりしないわ」
――たとえ血が繋がっていようとね
最後にそう付け加える彼女。
そこでわかった。
沙羅は最悪でも、セラと戦う気で接している。
今回の件が終わるまでは、絶対に2人が姉妹になることはないのだと――。
結局部活に行くのはやめ、瑞揶が自室に行って2人残されたリビング。
テレビが昼のバラエティー番組からニュースに移り変わると、隣に座るセラに向けて私は呟いた。
隣に座る彼女は顔を曇らせ、目を半分閉じる。
「どうして……さーちゃんは非難されるべきだって考えてるの?」
「私もアンタも殺人鬼よ。なのに、私はこうして今、何事もなく平穏を手に入れてる。でもセラはまだ王血影隊で死に物狂いで仕事をこなしている。王血影隊から逃げて、平和に暮らしている私が憎くないの? 人殺しが平和に生きてるってだけでも異常なんだって、アンタが来て思い出したわ」
「そんなに思いつめなくても……」
「そうね」
セラの小さな励ましの声をあっさりと肯定する。
殺人鬼とか兵器とか、そんな汚名を着せられようが私は私の生きたいように生きると決めていた。
だから脱走したんだもの、私の生き方を否定して襲ってくる奴がいるなら喜んで相手をしてやるまで。
しかし、姉を名乗る人はその限りではないようだ。
「さーちゃんは大人ね。そんな風に考えられるなんて」
「大人じゃないわ。わがまま言いたい放題の子供よ」
「子供なの?」
「そうよ」
大人なら、きっと私は多数の命を絶った責任とかぬかして自決していたかもしれない。
周りにもっと大人らしい人間がいたら、汚い言葉で私を罵る正義の人間がいたかもしれない。
でも、瑞揶も瑛彦も、周りは私と同じ子供だらけ。
環奈だけはわからないけど。
だから平和に過ごせていたのかもしれない。
無論、私の過去もわざわざ言わなくていいことだから言ってないし、そのこともあるんだろうけど。
そう考えるなら、ナエトは大人だったのだろうか?
私に楯突いたのは、考えてみればアイツだけだった。
「まだまだ大人半人前、ってところかしらね……」
勝手にナエトの成長度合を決め付ける。
結局彼も私のことは監視するにとどめている。
瑞揶が何かしていたのかもしれないが、私の知らないところだから気にすることじゃない、か。
「さーちゃんも、いろいろ考えてるのね……」
「考えなきゃ脳がもったいないわ。でも感情的に動いてばかりで、ちっとも知的になんかなれないのよね……」
「知的……そんなお姉ちゃんが欲しいってこと?」
「一体どうしたらそんな解釈になるのよ……」
「私はお姉ちゃんだから、さーちゃんの手本にならないと、って思ってね」
「手本、ね……」
私に見せて欲しい手本なんてない、なんて言ったらこの人は落ち込むだろう。
瑞揶のいない2人の状況で、それは少しめんどくさいから何も言わないでおくことにした。
「というか、瑞揶は何してるのかしらね。お腹すいてきたわ……」
不満気に私は呟く。
時計の針はもうすぐ12時を回ろうとしているのに、昼食の準備にすら入っていないなんて珍しかった。
「あ、私様子見てくるね」
そう言ってセラはすっくと立ち上がり、階段の方へと駆けていった。
その背中を見送って私はため息を吐き、テレビを消して出前のチラシを探しだす。
どうせ今の時間からだと、出前に決まっているのだから。
◇
「瑞揶くーん? 入っていい?」
「はーい、どうぞー」
部屋の向こうから名前を呼ばれ、僕はシャーペンをチラシの裏にに置いて扉に向かった。
扉の向こうには朗らかに笑う黄緑色の髪をした少女、セラがいた。
「どうしたのー?」
「さーちゃんがお腹すいたって言ってたから……冷蔵庫触っていいなら、私が何か作るけど……」
「え? あー、もうこんな時間だったのかぁ……」
壁に掛けられたまん丸の時計を見ると、もう12時になりかけていた。
ここまで放置していたなら、多分沙羅は出前を頼んでいるだろう。
この前、うな重食べたいって言ってたし……。
「沙羅なら出前取ると思うから、沙羅のことは大丈夫。姉さんも、何か食べたかったら沙羅に言ってね」
「うん。でも私、お腹すいてないの……。さーちゃんと一緒にいたら緊張しちゃって、それどころじゃないのよ……」
「あはは……まだ一日しか経ってないし、沙羅に慣れるのは難しいよ」
頭の中に沙羅の姿を想像する。
見た目以上に口が悪かったりするから、近寄りがたいしね……。
「瑞揶くんは、部屋で何してたの?」
僕が少し苦い顔をしていたからか、姉さんは話題を変えてきた。
「僕は夏祭りの予定を考えてたんだよーっ。17日と18日にあるんだーっ」
「夏祭り……? ああっ、それなら習ったよ。確か、屈強な男の人たちが半裸になって戦う――」
「ぜ、全然違うよ……」
「むぅー? 違うの?」
「うん」
間違いを指摘されて頬を膨らませる姉さん。
僕は苦笑してごまかし、夏祭りについて説明する。
「夏祭り――お祭りはね、いっぱい露店が出て、みんな着物や浴衣を着て来るの。お祭り特有の音楽が鳴っていて、提灯がたくさん吊るされてて、いるだけでも楽しいんだよ〜」
「そうなんだ……」
突如眉を潜め、表情が暗くなる姉さん。
失言だったことに、僕も気付く。
僕の言った日にちまで、姉さんはいないのだから。
「……あのさ、姉さん」
「?」
「姉さんさえ良ければ、僕の家で暮らさない……?」
「…………」
姉さんは目を伏せて小さく口を開いた。
それは呆れたようにも見えたが、薄幸しているようにも見える。
その悲しみの口元が開いた。
「私たちは――こういう星の元に生まれてしまったの。手を血で汚して……本来なら一生、君みたいな愛らしい人と会ってはいけないの。さーちゃんは妹だから……特別、私は幸せになって欲しいけど……」
その言葉を聞いて、僕は感じた。
この人も、僕と同類の人間なんだと――。
罪の意識があるから、普通でいることができない。
辛さ――贖罪を求めているんだ――。
「貴方は、沙羅と違うんだね……」
「そう、ね……お姉ちゃんなのに、私とさーちゃんじゃ考え方が違う。……生まれ育った環境も違うんだもの。当然だよね」
「…………」
姉妹として会いたがっていた妹に、自分と違うということをしっかりと割り切っている。
姉妹だから一緒、そう思いたいのが自然だろうに――。
「でもね、あの子がいい子で良かった……。私は――それだけで満足……」
「……姉さん」
「でも、私も死にたくない。だから、今回はさーちゃんを連れて行くこと、どうか許して……」
姉さんは頭を下げた。
なんて重たい願いを、僕なんかにするんだろう……。
「頭を上げてよっ。僕は、沙羅さえ良ければ行ってもらうつもり。それに、姉さんに死んで欲しくはないからね……」
「……ありがとう。私、さーちゃんを必ず生きてこの家に戻すから……」
「うん……」
それだけ確認すると、姉さんはリビングに戻っていった。
なんだか最近、厄介事というか、いろいろ考えさせられることが多い気がする。
このヤプタレに生まれてからかと苦笑を零しつつ、僕は夏祭りのために使うお金の計算をするため、また椅子に座ろうとして――
――ガラッ!
「!!?」
突如開いた窓に驚き、尻餅をついた。
「……なに倒れてんのよ、情けない」
「だ、だって……」
窓から入ってきた沙羅に窘められながら立ち上がる。
凛然とした佇まいの彼女はふぅっと息を吐いて僕のベッドに腰掛けた。
窓の鍵、掛けてたんだけどなぁ……。
「幸い、セラはいい奴ね。演技にしても1日経てば細かいところでボロを出すけど、今のところセラからはそれが見られない。これなら、彼女がいる間も瑞揶に迷惑は掛からないわね」
「僕のことなんて良いんだ……。それより、沙羅はどうなの?n危険じゃない?」
「私たちは、兵器の一つなのよ。危険なのは私自身、私に危険が来るとするなら、それは、私自身が暴発することね。もっとも、暴発したって死なないわ」
「なら、僕はそれが一番だけど……」
「なによ? 歯切れが悪いわね……」
「…………」
文句を言われても、僕は口を噤んでしまった。
安全――だけど、これから沙羅は戦地にいく。
もちろん僕もついていくけど、沙羅は人を殺すんだろうか――?
僕の目前であっても――。
「殺すわよ」
僕の頭に浮かんだ質問を、沙羅は答えた。
驚いて彼女にに顔を向けると、少しむすっとしている少女の顔がある。
「セラとの話も聞いてたし、ずっと一緒だったんだから、顔を見れば多少のことはわかるわよ」
「沙羅……」
「ためらったら死ぬのはこっち。不死の瑞揶にはわからないかもしれないけど、私たちは常に本気よ。戦場で気を抜いたり、慈悲を与えたりしないわ」
――たとえ血が繋がっていようとね
最後にそう付け加える彼女。
そこでわかった。
沙羅は最悪でも、セラと戦う気で接している。
今回の件が終わるまでは、絶対に2人が姉妹になることはないのだと――。
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