連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜
第十七話
それは夕食の席でのこと。
「にゃーです……」
「おお、良かったじゃない」
僕は驚きつつ、沙羅は称賛する。
何をかといえば、理優と瑛彦が付き合いだしたということなのだ。
「基本的には今までと変わんねぇよ。少しいちゃいちゃするかもしんねぇけどな」
「いちゃいちゃしても、瑛彦くんが節操ない事してくるからしないもんっ」
「連れないこと言うなよ〜。俺たち付き合ってんだろ?」
「なんかウザいわね、コイツら……」
2人が仲良くしているのを見て、沙羅が箸をバキリと折った。
それ魔界製で1トンにも耐えるはずの物なんだけど、おかしいなぁ……。
嬉しい報告もありつつ、響川家の家系は今日も回って夜になる。
そしたら瑛彦も理優も、荷物をまとめていた。
リビングや割り当てた部屋を右往左往するのを見て、僕はほけーっと眺めていた。
「帰っちゃうんだね〜……」
「そりゃあな。まぁ毎日会えるし、良いだろ?」
「うん。ちょっと寂しくなるけどね……」
瑛彦達が泊まりに来てから、毎日4人も居て寂しさなんてかけらもなかった。
もちろん、沙羅さえ居てくれれば僕は寂しくなんてないし、中学までは誰もいなかったわけだから、元々寂しさにも慣れてる。
「……またいつでも泊まりに来てね」
「おう。明後日にはまた来るかな」
「それは期間あけなさすぎだよ……」
そんな感じで、瑛彦との会話は終わり。
明後日にくるというのはジョークだろうけど、また近いうちに来るのは確かだろう。
次は理優を捕まえて話をしてみる。
「帰っちゃうんだね?」
「え? ……うん。やっぱり、帰る家はここじゃないからね」
にこやかに笑って彼女は言う。
憂いがなさそうで、僕も嬉しくなって笑った。
「……また、いつでも来てね」
「フフフッ、ありがと。うちにも来てね」
「うん。葉優さんに、よろしくね」
「うん……」
そうして彼女はまた帰る準備を進めていった。
明日は文化祭後の休みで、朝には2人とも帰るだろう。
そしたら、沙羅とまた2人になる。
でもあと2週間で瀬羅も帰ってくるし、元通りになるだろう。
僕は既に沙羅が座っていたソファーに腰掛け、お茶を啜った。
「……落ち着く〜っ」
「いつも落ち着いてるじゃない」
「あはは、そうだね……」
的確な突っ込み過ぎて返す言葉もなかった。
沙羅はデニムで太ももの見える格好で足組みをし、ため息を吐き出す。
「……明日からは2人ね」
独り言のように沙羅が呟く。
僕と同じ事を考えていたようだ。
「2人だね。また、いつもの日常に戻るかな?」
「……戻りそうね」
「……なんだか、2人だった頃が、遠い昔みたいだね」
「そうね……」
最近は、人の流入が多い。
8月は中頃から瀬羅もいて、9月の初めも沙羅と2人だったけど、それからすぐに2人がやってきた。
そして2人も明日には居なくなる。
流入したのは、たった1ヶ月。
だというのに、いろいろあったせいか、昔のほのぼのとした日常が遠く感じられた。
「静かになるね……」
「……私はその方がいいわ」
「あはは、そう?」
「……アンタとこうしている時が、1番安心するのよ」
そう言って、沙羅は僕にもたれかかってきた。
最近だと、こうして甘えてくることも多い気がする。
前から膝枕をさせられたりはしたんだけどね……。
「安心する?」
「安心するわ……」
「……そっか。たぶん、愛の力かな……」
「ブッ!?」
僕の言葉を聞いて、沙羅が跳ね起きた。
……ああ、うん。変な事言ったね。
「……ちょっと、どういう事よ?」
赤面させた沙羅が睨みながら聞いてくる。
どう答えようものかとも思ったけど、素直に答えることにした。
「なんかねーっ? 時々夢に僕の前世の、さらに前世の人が出てくるの。それが愛ちゃんって子なんだけど――」
「……は? ちょっと待って。なによそれ」
「え、だから前世のそのまた前世の人。なんかね、僕の体に本当は転生するつもりだったんだけど、男だったからやめたんだってっ」
「……ほ、ほう?」
「その人が、僕が愛されやすいのは私のせいだって言ってたから……愛の力?」
「…………」
「……どうしたの?」
「なんでもないわ……」
どこか疲れた様子の沙羅は、また僕の隣に腰を下ろした。
信じられた話でもないから、聞き流してもらって良いのに。
そうしてのんびりしているうちに時間は過ぎ去り、僕たちはまた眠りにつくのでした。
次の日、朝食の後にはもう2人はまとめた荷物を持って外に出ていた。
「お世話になりましたっ」
「また来るぜー、瑞っち」
「いつでも来てね〜っ」
「また学校で会いましょ」
理優は綺麗に頭を下げ、瑛彦はニカっと笑う。
僕と沙羅は送り出すようにして、しかし玄関からは出なかった。
「……あっ。ちょっと理優、いい?」
「え?」
僕は理優を呼び、彼女のおでこに人差し指を当てる。
そして超能力を発動し、指を離した。
「……何したの?」
「秘密〜っ。後でわかるよっ」
「むっ……でも、いい事なんだよね?」
「もちろんだよ〜っ」
悪い事などするわけがない。
また振り替え休日後の明後日には会えるし2人とは、こうしてわかれた。
家はちょっと寂しくなった気がするけど、心は寂しくない。
隣には、沙羅も居ることだし……。
「……で、理優に何したの?」
「あ、やっぱり聞いてきちゃう〜?」
「そりゃ聞くわよ」
まったくもうと言わんばかりに腰を手を当てる沙羅。
僕はクスクスと笑って答えた。
「理優にね、超能力を追加したの」
「……追加?」
「うん。超能力を奪うことはしなかったけど、追加はいいでしょ?」
「……ほう。なるほどね」
納得したように沙羅が頷く。
「それで、どんな能力なのよ?」
「うん。それはね――」
人を幸せにする能力だよ――。
にこやかに笑いながら、優しい口調で沙羅に話した。
それは呪いとは相反するもの。
聞いた沙羅は驚いたように目を丸くしたけど、ニヤニヤ笑いながら肘で僕をつついてくる。
「いいことするじゃない」
「あははっ、でしょーっ?」
「ええ。優しさを感じるわ」
「にゃ、にゃーです……」
「照れるなっ」
「うーっ……」
そうは言われても、褒められ慣れてないものだから、顔が熱くなるのは仕方ないのです。
「さ、家に戻ろーっ?」
「そうねっ……」
こうして僕らは家に戻った。
今日もまた、穏やかな日々が始まる。
この予感を1つ、胸に残して――。
◇
「時が来た、かな……」
瑞揶くんの精神世界、私が支配するこの空間で呟いた。
見た目が幼女の私がこんな事を言うのは変だろうが、実際そうなのだから仕方がない。
「ハートを集めとかないと……」
私は人差し指を天に向ける。
すると、どこそこから浮かぶ赤のハートが次々と人差し指に集積し、1つの大きなハートになる。
これならビルになるなぁと思いながらも、そのハートは次の瞬間に姿を消した。
これから先、この赤のハートはだいぶ必要になるだろう。
彼にとって、柵を掛けた最後の戦いが、すぐそこにあるのだ。
「沙羅ちゃんなら、すぐに告白するはず。彼の中に居て私が集められたこの愛で、どれぐらい持つかわからないけど――」
きっと、上手く行くはず。
大丈夫、背中を押すことができるあの少女なら、あるいは――。
「――赤のハートが集まったと思ったら、ここに居たんですか?」
と、その時私に声がかかった。
その声の持ち主は黒髪の長い子で、淡い瞳をしている。
豊満な体躯の上からはこの世界にはない制服を着ていて、清楚な彼女らしい、規則に見合った着こなしをしていた。
私が唯一、ここに入る事を許した精神体――否、幽霊がそこに居た。
「どうしたの?」
「いえ……なんでもないけど、もうそろそろかなって」
「うん、もうすぐ。まったくもう、もとは自分とはいえ、強くなるのに時間かかり過ぎっ! 待たせてごめんね?」
「フフッ。いいんです。これが瑞揶くんらしいから、ね……」
少女は艶やかに笑い、髪をなびかせた。
この子がいいと言うのなら、私も特に異存はない。
「じゃ、最終調整に入っとくよ。どれだけの“悪霊”が干渉してくるかわからないからね」
「お願いね、愛ちゃん。瑞揶くんを救うために……」
「任せなさいっ。私が居れば、だいたいなんとかなる」
――だからもう泣かないでね――
――霧代ちゃん――
私がその子の名を告げると、満足そうに笑って姿を消した。
さぁ、もうすぐ始まる。
私たち、4人の戦いが――。
「にゃーです……」
「おお、良かったじゃない」
僕は驚きつつ、沙羅は称賛する。
何をかといえば、理優と瑛彦が付き合いだしたということなのだ。
「基本的には今までと変わんねぇよ。少しいちゃいちゃするかもしんねぇけどな」
「いちゃいちゃしても、瑛彦くんが節操ない事してくるからしないもんっ」
「連れないこと言うなよ〜。俺たち付き合ってんだろ?」
「なんかウザいわね、コイツら……」
2人が仲良くしているのを見て、沙羅が箸をバキリと折った。
それ魔界製で1トンにも耐えるはずの物なんだけど、おかしいなぁ……。
嬉しい報告もありつつ、響川家の家系は今日も回って夜になる。
そしたら瑛彦も理優も、荷物をまとめていた。
リビングや割り当てた部屋を右往左往するのを見て、僕はほけーっと眺めていた。
「帰っちゃうんだね〜……」
「そりゃあな。まぁ毎日会えるし、良いだろ?」
「うん。ちょっと寂しくなるけどね……」
瑛彦達が泊まりに来てから、毎日4人も居て寂しさなんてかけらもなかった。
もちろん、沙羅さえ居てくれれば僕は寂しくなんてないし、中学までは誰もいなかったわけだから、元々寂しさにも慣れてる。
「……またいつでも泊まりに来てね」
「おう。明後日にはまた来るかな」
「それは期間あけなさすぎだよ……」
そんな感じで、瑛彦との会話は終わり。
明後日にくるというのはジョークだろうけど、また近いうちに来るのは確かだろう。
次は理優を捕まえて話をしてみる。
「帰っちゃうんだね?」
「え? ……うん。やっぱり、帰る家はここじゃないからね」
にこやかに笑って彼女は言う。
憂いがなさそうで、僕も嬉しくなって笑った。
「……また、いつでも来てね」
「フフフッ、ありがと。うちにも来てね」
「うん。葉優さんに、よろしくね」
「うん……」
そうして彼女はまた帰る準備を進めていった。
明日は文化祭後の休みで、朝には2人とも帰るだろう。
そしたら、沙羅とまた2人になる。
でもあと2週間で瀬羅も帰ってくるし、元通りになるだろう。
僕は既に沙羅が座っていたソファーに腰掛け、お茶を啜った。
「……落ち着く〜っ」
「いつも落ち着いてるじゃない」
「あはは、そうだね……」
的確な突っ込み過ぎて返す言葉もなかった。
沙羅はデニムで太ももの見える格好で足組みをし、ため息を吐き出す。
「……明日からは2人ね」
独り言のように沙羅が呟く。
僕と同じ事を考えていたようだ。
「2人だね。また、いつもの日常に戻るかな?」
「……戻りそうね」
「……なんだか、2人だった頃が、遠い昔みたいだね」
「そうね……」
最近は、人の流入が多い。
8月は中頃から瀬羅もいて、9月の初めも沙羅と2人だったけど、それからすぐに2人がやってきた。
そして2人も明日には居なくなる。
流入したのは、たった1ヶ月。
だというのに、いろいろあったせいか、昔のほのぼのとした日常が遠く感じられた。
「静かになるね……」
「……私はその方がいいわ」
「あはは、そう?」
「……アンタとこうしている時が、1番安心するのよ」
そう言って、沙羅は僕にもたれかかってきた。
最近だと、こうして甘えてくることも多い気がする。
前から膝枕をさせられたりはしたんだけどね……。
「安心する?」
「安心するわ……」
「……そっか。たぶん、愛の力かな……」
「ブッ!?」
僕の言葉を聞いて、沙羅が跳ね起きた。
……ああ、うん。変な事言ったね。
「……ちょっと、どういう事よ?」
赤面させた沙羅が睨みながら聞いてくる。
どう答えようものかとも思ったけど、素直に答えることにした。
「なんかねーっ? 時々夢に僕の前世の、さらに前世の人が出てくるの。それが愛ちゃんって子なんだけど――」
「……は? ちょっと待って。なによそれ」
「え、だから前世のそのまた前世の人。なんかね、僕の体に本当は転生するつもりだったんだけど、男だったからやめたんだってっ」
「……ほ、ほう?」
「その人が、僕が愛されやすいのは私のせいだって言ってたから……愛の力?」
「…………」
「……どうしたの?」
「なんでもないわ……」
どこか疲れた様子の沙羅は、また僕の隣に腰を下ろした。
信じられた話でもないから、聞き流してもらって良いのに。
そうしてのんびりしているうちに時間は過ぎ去り、僕たちはまた眠りにつくのでした。
次の日、朝食の後にはもう2人はまとめた荷物を持って外に出ていた。
「お世話になりましたっ」
「また来るぜー、瑞っち」
「いつでも来てね〜っ」
「また学校で会いましょ」
理優は綺麗に頭を下げ、瑛彦はニカっと笑う。
僕と沙羅は送り出すようにして、しかし玄関からは出なかった。
「……あっ。ちょっと理優、いい?」
「え?」
僕は理優を呼び、彼女のおでこに人差し指を当てる。
そして超能力を発動し、指を離した。
「……何したの?」
「秘密〜っ。後でわかるよっ」
「むっ……でも、いい事なんだよね?」
「もちろんだよ〜っ」
悪い事などするわけがない。
また振り替え休日後の明後日には会えるし2人とは、こうしてわかれた。
家はちょっと寂しくなった気がするけど、心は寂しくない。
隣には、沙羅も居ることだし……。
「……で、理優に何したの?」
「あ、やっぱり聞いてきちゃう〜?」
「そりゃ聞くわよ」
まったくもうと言わんばかりに腰を手を当てる沙羅。
僕はクスクスと笑って答えた。
「理優にね、超能力を追加したの」
「……追加?」
「うん。超能力を奪うことはしなかったけど、追加はいいでしょ?」
「……ほう。なるほどね」
納得したように沙羅が頷く。
「それで、どんな能力なのよ?」
「うん。それはね――」
人を幸せにする能力だよ――。
にこやかに笑いながら、優しい口調で沙羅に話した。
それは呪いとは相反するもの。
聞いた沙羅は驚いたように目を丸くしたけど、ニヤニヤ笑いながら肘で僕をつついてくる。
「いいことするじゃない」
「あははっ、でしょーっ?」
「ええ。優しさを感じるわ」
「にゃ、にゃーです……」
「照れるなっ」
「うーっ……」
そうは言われても、褒められ慣れてないものだから、顔が熱くなるのは仕方ないのです。
「さ、家に戻ろーっ?」
「そうねっ……」
こうして僕らは家に戻った。
今日もまた、穏やかな日々が始まる。
この予感を1つ、胸に残して――。
◇
「時が来た、かな……」
瑞揶くんの精神世界、私が支配するこの空間で呟いた。
見た目が幼女の私がこんな事を言うのは変だろうが、実際そうなのだから仕方がない。
「ハートを集めとかないと……」
私は人差し指を天に向ける。
すると、どこそこから浮かぶ赤のハートが次々と人差し指に集積し、1つの大きなハートになる。
これならビルになるなぁと思いながらも、そのハートは次の瞬間に姿を消した。
これから先、この赤のハートはだいぶ必要になるだろう。
彼にとって、柵を掛けた最後の戦いが、すぐそこにあるのだ。
「沙羅ちゃんなら、すぐに告白するはず。彼の中に居て私が集められたこの愛で、どれぐらい持つかわからないけど――」
きっと、上手く行くはず。
大丈夫、背中を押すことができるあの少女なら、あるいは――。
「――赤のハートが集まったと思ったら、ここに居たんですか?」
と、その時私に声がかかった。
その声の持ち主は黒髪の長い子で、淡い瞳をしている。
豊満な体躯の上からはこの世界にはない制服を着ていて、清楚な彼女らしい、規則に見合った着こなしをしていた。
私が唯一、ここに入る事を許した精神体――否、幽霊がそこに居た。
「どうしたの?」
「いえ……なんでもないけど、もうそろそろかなって」
「うん、もうすぐ。まったくもう、もとは自分とはいえ、強くなるのに時間かかり過ぎっ! 待たせてごめんね?」
「フフッ。いいんです。これが瑞揶くんらしいから、ね……」
少女は艶やかに笑い、髪をなびかせた。
この子がいいと言うのなら、私も特に異存はない。
「じゃ、最終調整に入っとくよ。どれだけの“悪霊”が干渉してくるかわからないからね」
「お願いね、愛ちゃん。瑞揶くんを救うために……」
「任せなさいっ。私が居れば、だいたいなんとかなる」
――だからもう泣かないでね――
――霧代ちゃん――
私がその子の名を告げると、満足そうに笑って姿を消した。
さぁ、もうすぐ始まる。
私たち、4人の戦いが――。
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