連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜

川島晴斗

第12話

「にゃー」
「なー」
「んーっ、ちょっと違う……。にゃーです!」
「なーですぅ?」
「何してんのよ」

 バシンと沙羅に頭を叩かれる。
 先日沙綾が1歳と半年を迎え、僕らも(名義上)成人になった。
 沙綾は金色の髪も伸びてきてピンクの服を着せると……沙羅に面影があるような、無いような、まだ判別がつかない。
 呂律は回ってないけど、言いたいこともわかるし成長は著しい。
 言葉の意味を理解し始めてるし、僕が知る赤ちゃんよりも物覚えが良い。
 きっと沙羅の血が良いとか、天才アキューのクローンの血のおかげだろう。

 産後の沙羅も体調を回復し、今では学校にも復帰している。
 食べ物も今では離乳食が主になり、沙羅への負担は劇的に減っていた。
 授乳が必要な時は転移で沙羅の元に向かうけども。
 それ以外に関しては、育児は殆ど僕がしている。
 経過としては、まだ立てないけど座ったり物を持ったり、いくつか言葉を話したり。

「おとーかん、たたーたぁ!」
「お父さん、叩かれました……」
「はいはい。沙綾はお母さんの方来ましょうね〜。お父さんと一緒だと、ゆるほわが移るわよ?」
「ゆりゅ、ほわぁ?」
「それぐらいなら移ってもいいでしょー?」

 沙綾が沙羅に抱き上げられ、3人でリビングへ。
 今日は祝日であり、みんな休みでお暇なのです。

「おかーかん、おろひてー」
「ん? はい」

 沙綾はソファーの上に降ろされ、その両サイドに僕と沙羅が座った。
 なんですかにゃー?
 微笑ましく沙綾の顔を見ていると、僕と沙羅の膝をぺちんと叩く。

「おすわりぃ!」
「座ってるわよ?」
「座ってるよ〜っ?」
「じゃあ、立って!」
「はーい」
「立ちましたっ」

 沙羅と僕が立たされる。
 何されるんでしょう……?

「おとーかん」
「はいっ」
「ごひゃん!」
「ご飯は……うん、ちょっと待っててね〜」

 そんなわけで、離乳食を作らされる事に。
 ご飯すり潰してました。

「おかーかん、たたくの、めっ!」
「……別に沙綾を叩いたわけじゃないのに」
「おとーかん、かわい、そー!」
「……わかったわよ。沙綾の前では叩かないわ」

 ソファーの方ではお母さんが沙綾の頭を優しく撫でている。
 沙綾も嬉しいようで、声を上げながら手を回していた。

 1歳児なのに、親を顎で動かしたり、叱ったり……沙綾は将来、大物になるかもしれない。
 沙羅の子だから当然かとも考えつつ、ごりごりご飯を潰した。







「というわけで遊びに来たぞ」
「どういうわけなのよ」

 アキューが黒いタンクトップにジーンズ姿で現れたのは3ヶ月後のこと。
 沙羅は夏休みでほぼ家に居て、先週は3人で旅行に行ったりっ。

「いや、そんな思い出話はどーでもいいから」
「にゃー?」
「早くアイツ追っ払ってよ」
「……えー?」

 台所前で沙羅が嫌そうな顔をしてアキューを指差す。
 そのアキューは今、沙綾とじーっと見つめ合っている。

「…………」
「…………」
「……おとーかん?」
「ああ、お父さんだ」
「娘に嘘言わないでくれる?」

 すかさず沙羅のツッコミが入り、沙綾は沙羅によって抱きかかえられて僕の元まで戻ってきた。
 何もおかしくないのに、アキューは高らかに笑っている。

「ははははは! まぁいいじゃないか。君達の子もスクスク育っているようで、何よりだ」
「あ……アキューも子供いるよね? 元気?」
「……真面目すぎて困ってるんだ。今度息子と会ってくれ」
「親のアンタがいい反面教師だからじゃないの」

 沙羅が容赦なさ過ぎるけど、僕も会いたいから会う約束をしたり。
 そしてもう一つ、お知らせを言い渡される。

「実はセイがまた身籠ってな……」
「わーっ……おめでと〜っ」
「おめでと。意外とできるの遅かったわね? 20年も間が空くとは思わなかったわ」
「セイのガードが硬かったんだ……。父親なんだからしっかりなさい! っていっつも怒って……」
「そりゃそうよ」

 否定できず、僕も苦笑する。

「それと瑞揶。暇なら僕の手伝いに来ないか? これでも研究は進めていてな、そろそろ真面目にやらないと怒られてしまう」
「アンタが怒られてるのはいつもの事じゃない」
「まぁそうなんだが、怒る相手が神だと面倒で困るんだ。だから――」
「見つけましたよお父様!!」
「――げっ」

 白い円状の穴がリビングに開き、そこから黒いスーツのような姿の少年が現れる。
 顔立ちは僕にそっくりだけど、メガネを掛けてて、長い髪は首の後ろで束ねられている。
 身長は僕やアキューよりも高く、185cmはあるだろう。
 ……にゃー、この人は――

「ユ、ユウキ! どうしてここがわかった!?」
「お父様の行きそうな場所は予想が付きます……。まったく、また響川の皆様にご迷惑を……おや?」

 そこでユウキくんはアキューを引っ張る手を離し、沙羅に抱かれる彩綾を見た。

「お子さんが生まれていたのですね。おめでとうございます」
「ん、ありがと。久しぶりねユウキ。アンタも随分変わったわね」
「沙羅さんはお変わりなく」

 ぺこりとユウキくんが一礼する。
 ……むー?

「沙羅、知り合いだったの?」
「アンタと再会する前、ちょろっとね」

 小声で聞くと、そういうことらしい。
 僕と再会する前――ということは、沙羅も転生してから僕と再会するまでのいつかに会っていたようだ。

「瑞揶さん。貴方とは初めまして、ですね」
「はっ、はい……」
「沙羅さんと会う時期は許されたのですが、両親から“サウドラシアは危ないから来るな”と言われて、貴方が活躍した時期には会えませんでした。こう見えてお父様はけっこう過保護な所があるんですよ」
「……にゃー」
「ふんっ。そんな事言われても、僕は動じないというか、寧ろこの隙を見ておさらばを……」
「お父様!?」

 ユウキくんが入ってきた穴にアキューが突っ込み、消えていった。
 それを見て息子の彼は頭を手で押さえていた。

「……すみません。次は玄関から、家族4人で参ります」
「てことは2人目が生まれた頃ね。そっちも元気そうで何よりだわ」
「ははっ……。では、また」
「ええ、またね」
「またねー、ユウキくん〜っ」
「まてゃねー!」

 3人で2人を見送り、白い穴が塞がった。
 面白い客人が来るのは結構なんだけど、男の人ばかりだとなぁー……。
 ……ふにゅーん。

「それよりお父さん」
「……ん?」
「2人目はいつ作る?」
「…………」

 すぐにでも、とは答えられない僕はヘタレだったかもしれない。
 沙羅の質問は保留にし、今日も今日で家族団らん、ゆっくりと過ごした。

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