連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜
第6話
金曜日は沙羅が環奈の家に泊まりに行って、家では瀬羅と僕の2人だけになる。
部活は沙羅と環奈が買い物で不在ということで無くなり、夕方の4時頃には僕も帰宅する。
「ただいまーっ」
「あ、おかえりなさ〜いっ」
玄関をくぐると、リビングからてとてとと瀬羅が出てくる。
その手には厚みのある本があった。
これからは王女になるから、何もせずにはいられないと最近は意気込んでいる。
ついでに、最近は家計の管理も任せていたり。
「明日はデートなんだね〜っ」
「うん。なんか段々不安になってきたなぁ……」
瀬羅にも話は回っていて、そのことを話されると気後れする。
いつも一緒にいるし、相思相愛なんだけど、やっぱりデートとなると、頑張らなきゃって気持ちになる。
それに、もし男気を見せられなくて愛想つかされたりしたら……。
「……あ、ああああ、明日、だだ大丈夫かかなぁ?」
「みっ、瑞揶くん落ち着いて! まだ何にもしてないよ!」
「ぼっ、ぼぼ僕もかっ、かっこいいその、服? か、買ってくる……」
「昨日買ってたよ!? 落ち着いてーっ!」
そっ、そうだ、昨日買ってた。
き、緊張し過ぎて今からドキドキする……。
今頃沙羅は服を見繕ってるのかなぁ……。
ああ……明日、どうなるんだろう……。
◇
「沙羅はなー……うーん、大胆に露出しまくってもいいよねー」
「2月なんだから勘弁してよ……」
人間界に来た時に瑞揶に連れてこられたデパート、その洋服売り場で私達は彷徨っていた。
デート……デートね。
わざわざ着る服を選ぶほどのことかと、私は正直軽く見ている。
瑞揶の事だし、私がどんな服を着てても似合ってると言うだろう。
もちろん愛情込めて言ってくれるし、嬉しいけれど……ねぇ?
「んー……沙羅は大人っぽいところあるし、コートが良いよねー。んで、ピンクとか赤を基調としたのがいいかなー」
「はいはい。なんでもいいわよ……」
「…………」
環奈がぐるんと首を回して私の方を向く。
私は驚きながらも無言を貫いた。
「……なんでもいいわけないでしょ? デート舐めんな、おバカ」
「な、なによ? 別に、瑞揶と一緒に歩くのなんていつもの事だし……」
「……はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
呆れ果ててもうこれ以上のため息をつきようがない、というようなため息を吐きやがった。
なっ、なによ?
「……あんさぁ、沙羅? 瑞揶は今、めっちゃ四苦八苦してると思うよ? アンタと初めてのデートで、どうやったら沙羅が喜ぶか、喜ばせられるか、いろいろ考えてると思う。悩んでると思う。なのに、アンタなに!? 瑞揶を喜ばせる気ないの!?」
「え……いや……」
そんなの、喜ばせたいと思うに決まってる。
瑞揶を笑顔にさせたい。
瑞揶を楽しませたい。
そんなの、恋人なんだから当たり前じゃない……。
「大事な彼女がさぁ、綺麗に着飾って来てくれたら瑞揶は喜ぶだろうにっ……。ああっ、沙羅はその気もなく、瑞揶の家でタダ飯食えてればそれでいいという根性。可哀想な瑞揶。きっと世の中にはもっといい女が居るだろうに……」
「なっ、ちょっと!」
「でも事実じゃんね? 実際、瑞揶みたいな優良物件はないじゃん? 神の力があるわけだし。それに、霧代やクオンが惚れたようにアイツ、モテるし?」
「ぐ、ぐぬぬ……っ!」
全部正論で何も言い返せない。
そうよね……私はいつも悠々自適に過ごしていて、瑞揶を喜ばそうとか、普段あまり考えてなかったかもしれない。
……なんか、目が覚めた気がするわ。
「……いいわ、やってやるわよ。瑞揶は私の物! 私の魅力で明日も明後日も毎日メロメロにしてくれるわ!!」
「それでこそ沙羅だ! よし、じゃあとりあえずこれ着てみ」
「どさくさに水着持ち出すんじゃないわよ! つーか冬なのにどこに売ってた!?」
追っかけ回すもカラカラと笑って逃げる環奈。
……この悪ふざけがなきゃいい友人なのに。
「とりあえず、ここまでの助言のお代として、今晩の台所は任せるね。ついでに家中掃除してくれたら嬉しいかな」
「アンタ、それ目的で瑞揶にチケットあげたでしょ……」
「あっはっはっは」
カラカラと笑って誤魔化す環奈。
……まぁいいわ、家事ぐらいこなしてみせる。
将来は……どうなるのかしら。
私が嫁になったら家事をすると思うけど……。
……瑞揶。
「……なに? 心配になってきた?」
「……なってないわよ」
顔に出てたのか、環奈がニヤニヤ笑いながら肩を組んでくる。
それを振りほどいて、私は明日のことを考えることにした。
瑞揶、喜んでくれるかしら――?
◇
そして当日、
「瑞揶くん、頑張ってねっ」
「ま、気軽に楽しんで来なさいな」
双方、家で女性に送り出される。
待ち合わせ場所は駅。
2人は扉を開き、それぞれの家を出た。
『行ってきます』
こうして、2人のデートが始まる――。
◇
「いーい? 男が遅刻しちゃダメだからね?」
事前に貰っていた環奈のアドバイスを守るため、僕は40分早く家を出ていた。
40分早ければ、流石に沙羅も来てないはず。
天気も程よく晴れてて、絶好のデート日和。
僕は緊張と楽しみで手を震わせながら駅へと向かって行った。
響川家からの最寄駅は歩いて10分、待ち合わせ時間には30分前に着く予定。
その駅に着くと、休日だからか人通りが多く、パラパラと人が駅の中に入ったり出てきて散らばったり。
そんな中、駅の外で見知った顔を見つけた。
「……あれー?」
時刻は午前9時半。
待ち合わせ時間はこの3(分後のはずだった。
だけど、彼女はそこにいた。
入り口付近の壁に寄りかかって、チラチラと辺りを見渡している。
そんな彼女も僕の存在に気付き、2人で歩み寄った。
「……沙羅。早すぎるよ」
「おはよ、瑞揶。早く会いたくて、ずっと待ってたわ」
「ツッ……」
あって早々、そんなことを言われると胸が熱くなる。
それに――
「……可愛い」
「……えっ?」
「……。凄く、可愛いよ……」
「そ、そう……」
沙羅はほっぺたを赤くさせて俯いた。
僕も目を合わせられずに俯いてしまう。
着飾った彼女を見るのは初めてだった。
ボンボンの付いた赤色のニット帽を浅く被り、ボタンを留めずに白いコートを着て黄色いインナーが見えている。
パンツを履いてくるかと思いきや彼女には珍しいスカートで、制服のように短めに赤色のスカートを履いている。
今までは足を見せていたけど、今日は黒タイツのようで、コートが白、足は黒。
赤くヒールの高い靴を履いていて、いつも僕の胸元までしかない背丈は高くなっていた。
ポーチや薄ピンク色のマフラーをしているのも彼女にしては新鮮だけど、似合っている。
「い、いい行く前からドキドキしちゃって……ああああ、ど、どどどうしよう!?」
「落ち着きなさいよ……。男らしい服で来てるくせに、似合わないわよ?」
「だ、だってその、沙羅のこんな姿見れて満足というか胸がいっぱいというか、もう帰っていいかな!?」
「ダメだから。ホントに落ち着きなさい……」
そうして説得されたり窘められたりすること数分、なんとか僕は落ち着いて沙羅を見ることができるようになった。
「瑞揶もカッコいいわよ」
「あ、ありがとう……」
おまけで言うように褒められる。
黒いダウンジャケットに薄水色のパーカーのフードを外に出して、カーキ色のジーンズを履いている。
マフラーも巻いているけど、モコモコじゃない……。
「もこもこねこさん……」
「外見いくら装っても、中身は変わらないわね」
「あはは……。ごめんなさい……」
次のデートまでには、もっとカッコよくならなきゃなぁ……。
それは宿題として、僕らは電車に乗るのだった。
「うぅ……いいなぁ2人共。私も彼氏欲しいよぅ〜」
幸せを羨む緑髪の少女が1人、2人の後を追っていた。
「……あれって、響川家のあねさんじゃない?」
「おお、確かに。あの人も2人が心配なんだなー」
「私達もみんな来てるけどね……」
そしてその後ろには環奈、瑛彦、理優が追ってきているとか、追っていないとか。
1つ隣の車両から現在追跡中の4人であった。
◇
「着きましたにゃ〜っ」
「おお〜っ。遊園地なんて初めてきたわ」
「……遊園地、かなぁ?」
目の前には大規模なテーマパークがあって、外門からでもジェットコースターのレールや観覧車の姿が見える。
何か大きなお城もあって、園内からは明るい音楽が漏れてくる。
「とにかく入りましょ。ほらっ、行くわよ」
「うん……」
手を握られ、引っ張られるようにして入り口に向かう。
招待チケットを渡すとすんなり通して貰えて、人が行き交う賑やかな中に入った。
「この券見せたら乗り放題なんですにゃ〜」
「……アンタは観覧車やメリーゴーランドぐらいしか乗れなさそうよね」
「ジェットコースターぐらい余裕だよ!」
「……本当かしら?」
沙羅が挑発してくるので、1発目はジェットコースターに乗る事に。
幸運か不幸か、僕らは最前列に座れた。
沙羅は帽子を脱いで、いざ出発。
そして――
「にゃぁぁあああああああああ!!!?」
「うわー、めっちゃ揺れるわねー」
僕は大絶叫、沙羅は退屈そうに乗っていた。
突き抜けるようなスピードで右へ左へ曲がり、顔に痛いぐらいの風が襲う。
「ひにゃぁぁあああああああああ!!!?」
「ほーら言わんこっちゃない」
沙羅の言葉も風にさらわれて耳に届かず、一周する頃には燃えカスの灰みたいに力なくぐったりとなるのだった。
一旦休憩ということで、ベンチに座る。
「うぅ……。僕、魔法とか超能力とかで結構飛び慣れてたのに……」
「それとこれとは違うでしょ。自分でコントロールして飛ぶんじゃないから、曲がるときに首が痛くなったりするし……」
「うわーん、沙羅ぁあ〜っ」
「なんで男のアンタが泣きつくのよ……」
沙羅の胸に飛び込むと、よしよしと頭を撫でて慰めてくれる。
もうジェットコースターなんて乗らないから……。
沙羅の助言、ちゃんと聞きます……。
「コーヒーカップとか、メリーゴーランド行こ〜?」
「回復はやっ……。はいはい、折角だからたくさん乗りましょ」
「うんっ」
沙羅に笑いかけると、彼女も釣られて笑う。
2人で立ち上がり、手を繋いでテーマパークを進んで行った。
「あっははははははははははっ!!!」
「さ、叫びすぎだろっ!!? ひーっ、腹が!!」
「……環奈ちゃんも瑛彦くんも、失礼だよ」
「みんな楽しそうだね〜っ」
瀬羅と合流した3人。
下から瑞揶の叫びっぷりを見て、うち2人が笑っていたそうな。
部活は沙羅と環奈が買い物で不在ということで無くなり、夕方の4時頃には僕も帰宅する。
「ただいまーっ」
「あ、おかえりなさ〜いっ」
玄関をくぐると、リビングからてとてとと瀬羅が出てくる。
その手には厚みのある本があった。
これからは王女になるから、何もせずにはいられないと最近は意気込んでいる。
ついでに、最近は家計の管理も任せていたり。
「明日はデートなんだね〜っ」
「うん。なんか段々不安になってきたなぁ……」
瀬羅にも話は回っていて、そのことを話されると気後れする。
いつも一緒にいるし、相思相愛なんだけど、やっぱりデートとなると、頑張らなきゃって気持ちになる。
それに、もし男気を見せられなくて愛想つかされたりしたら……。
「……あ、ああああ、明日、だだ大丈夫かかなぁ?」
「みっ、瑞揶くん落ち着いて! まだ何にもしてないよ!」
「ぼっ、ぼぼ僕もかっ、かっこいいその、服? か、買ってくる……」
「昨日買ってたよ!? 落ち着いてーっ!」
そっ、そうだ、昨日買ってた。
き、緊張し過ぎて今からドキドキする……。
今頃沙羅は服を見繕ってるのかなぁ……。
ああ……明日、どうなるんだろう……。
◇
「沙羅はなー……うーん、大胆に露出しまくってもいいよねー」
「2月なんだから勘弁してよ……」
人間界に来た時に瑞揶に連れてこられたデパート、その洋服売り場で私達は彷徨っていた。
デート……デートね。
わざわざ着る服を選ぶほどのことかと、私は正直軽く見ている。
瑞揶の事だし、私がどんな服を着てても似合ってると言うだろう。
もちろん愛情込めて言ってくれるし、嬉しいけれど……ねぇ?
「んー……沙羅は大人っぽいところあるし、コートが良いよねー。んで、ピンクとか赤を基調としたのがいいかなー」
「はいはい。なんでもいいわよ……」
「…………」
環奈がぐるんと首を回して私の方を向く。
私は驚きながらも無言を貫いた。
「……なんでもいいわけないでしょ? デート舐めんな、おバカ」
「な、なによ? 別に、瑞揶と一緒に歩くのなんていつもの事だし……」
「……はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
呆れ果ててもうこれ以上のため息をつきようがない、というようなため息を吐きやがった。
なっ、なによ?
「……あんさぁ、沙羅? 瑞揶は今、めっちゃ四苦八苦してると思うよ? アンタと初めてのデートで、どうやったら沙羅が喜ぶか、喜ばせられるか、いろいろ考えてると思う。悩んでると思う。なのに、アンタなに!? 瑞揶を喜ばせる気ないの!?」
「え……いや……」
そんなの、喜ばせたいと思うに決まってる。
瑞揶を笑顔にさせたい。
瑞揶を楽しませたい。
そんなの、恋人なんだから当たり前じゃない……。
「大事な彼女がさぁ、綺麗に着飾って来てくれたら瑞揶は喜ぶだろうにっ……。ああっ、沙羅はその気もなく、瑞揶の家でタダ飯食えてればそれでいいという根性。可哀想な瑞揶。きっと世の中にはもっといい女が居るだろうに……」
「なっ、ちょっと!」
「でも事実じゃんね? 実際、瑞揶みたいな優良物件はないじゃん? 神の力があるわけだし。それに、霧代やクオンが惚れたようにアイツ、モテるし?」
「ぐ、ぐぬぬ……っ!」
全部正論で何も言い返せない。
そうよね……私はいつも悠々自適に過ごしていて、瑞揶を喜ばそうとか、普段あまり考えてなかったかもしれない。
……なんか、目が覚めた気がするわ。
「……いいわ、やってやるわよ。瑞揶は私の物! 私の魅力で明日も明後日も毎日メロメロにしてくれるわ!!」
「それでこそ沙羅だ! よし、じゃあとりあえずこれ着てみ」
「どさくさに水着持ち出すんじゃないわよ! つーか冬なのにどこに売ってた!?」
追っかけ回すもカラカラと笑って逃げる環奈。
……この悪ふざけがなきゃいい友人なのに。
「とりあえず、ここまでの助言のお代として、今晩の台所は任せるね。ついでに家中掃除してくれたら嬉しいかな」
「アンタ、それ目的で瑞揶にチケットあげたでしょ……」
「あっはっはっは」
カラカラと笑って誤魔化す環奈。
……まぁいいわ、家事ぐらいこなしてみせる。
将来は……どうなるのかしら。
私が嫁になったら家事をすると思うけど……。
……瑞揶。
「……なに? 心配になってきた?」
「……なってないわよ」
顔に出てたのか、環奈がニヤニヤ笑いながら肩を組んでくる。
それを振りほどいて、私は明日のことを考えることにした。
瑞揶、喜んでくれるかしら――?
◇
そして当日、
「瑞揶くん、頑張ってねっ」
「ま、気軽に楽しんで来なさいな」
双方、家で女性に送り出される。
待ち合わせ場所は駅。
2人は扉を開き、それぞれの家を出た。
『行ってきます』
こうして、2人のデートが始まる――。
◇
「いーい? 男が遅刻しちゃダメだからね?」
事前に貰っていた環奈のアドバイスを守るため、僕は40分早く家を出ていた。
40分早ければ、流石に沙羅も来てないはず。
天気も程よく晴れてて、絶好のデート日和。
僕は緊張と楽しみで手を震わせながら駅へと向かって行った。
響川家からの最寄駅は歩いて10分、待ち合わせ時間には30分前に着く予定。
その駅に着くと、休日だからか人通りが多く、パラパラと人が駅の中に入ったり出てきて散らばったり。
そんな中、駅の外で見知った顔を見つけた。
「……あれー?」
時刻は午前9時半。
待ち合わせ時間はこの3(分後のはずだった。
だけど、彼女はそこにいた。
入り口付近の壁に寄りかかって、チラチラと辺りを見渡している。
そんな彼女も僕の存在に気付き、2人で歩み寄った。
「……沙羅。早すぎるよ」
「おはよ、瑞揶。早く会いたくて、ずっと待ってたわ」
「ツッ……」
あって早々、そんなことを言われると胸が熱くなる。
それに――
「……可愛い」
「……えっ?」
「……。凄く、可愛いよ……」
「そ、そう……」
沙羅はほっぺたを赤くさせて俯いた。
僕も目を合わせられずに俯いてしまう。
着飾った彼女を見るのは初めてだった。
ボンボンの付いた赤色のニット帽を浅く被り、ボタンを留めずに白いコートを着て黄色いインナーが見えている。
パンツを履いてくるかと思いきや彼女には珍しいスカートで、制服のように短めに赤色のスカートを履いている。
今までは足を見せていたけど、今日は黒タイツのようで、コートが白、足は黒。
赤くヒールの高い靴を履いていて、いつも僕の胸元までしかない背丈は高くなっていた。
ポーチや薄ピンク色のマフラーをしているのも彼女にしては新鮮だけど、似合っている。
「い、いい行く前からドキドキしちゃって……ああああ、ど、どどどうしよう!?」
「落ち着きなさいよ……。男らしい服で来てるくせに、似合わないわよ?」
「だ、だってその、沙羅のこんな姿見れて満足というか胸がいっぱいというか、もう帰っていいかな!?」
「ダメだから。ホントに落ち着きなさい……」
そうして説得されたり窘められたりすること数分、なんとか僕は落ち着いて沙羅を見ることができるようになった。
「瑞揶もカッコいいわよ」
「あ、ありがとう……」
おまけで言うように褒められる。
黒いダウンジャケットに薄水色のパーカーのフードを外に出して、カーキ色のジーンズを履いている。
マフラーも巻いているけど、モコモコじゃない……。
「もこもこねこさん……」
「外見いくら装っても、中身は変わらないわね」
「あはは……。ごめんなさい……」
次のデートまでには、もっとカッコよくならなきゃなぁ……。
それは宿題として、僕らは電車に乗るのだった。
「うぅ……いいなぁ2人共。私も彼氏欲しいよぅ〜」
幸せを羨む緑髪の少女が1人、2人の後を追っていた。
「……あれって、響川家のあねさんじゃない?」
「おお、確かに。あの人も2人が心配なんだなー」
「私達もみんな来てるけどね……」
そしてその後ろには環奈、瑛彦、理優が追ってきているとか、追っていないとか。
1つ隣の車両から現在追跡中の4人であった。
◇
「着きましたにゃ〜っ」
「おお〜っ。遊園地なんて初めてきたわ」
「……遊園地、かなぁ?」
目の前には大規模なテーマパークがあって、外門からでもジェットコースターのレールや観覧車の姿が見える。
何か大きなお城もあって、園内からは明るい音楽が漏れてくる。
「とにかく入りましょ。ほらっ、行くわよ」
「うん……」
手を握られ、引っ張られるようにして入り口に向かう。
招待チケットを渡すとすんなり通して貰えて、人が行き交う賑やかな中に入った。
「この券見せたら乗り放題なんですにゃ〜」
「……アンタは観覧車やメリーゴーランドぐらいしか乗れなさそうよね」
「ジェットコースターぐらい余裕だよ!」
「……本当かしら?」
沙羅が挑発してくるので、1発目はジェットコースターに乗る事に。
幸運か不幸か、僕らは最前列に座れた。
沙羅は帽子を脱いで、いざ出発。
そして――
「にゃぁぁあああああああああ!!!?」
「うわー、めっちゃ揺れるわねー」
僕は大絶叫、沙羅は退屈そうに乗っていた。
突き抜けるようなスピードで右へ左へ曲がり、顔に痛いぐらいの風が襲う。
「ひにゃぁぁあああああああああ!!!?」
「ほーら言わんこっちゃない」
沙羅の言葉も風にさらわれて耳に届かず、一周する頃には燃えカスの灰みたいに力なくぐったりとなるのだった。
一旦休憩ということで、ベンチに座る。
「うぅ……。僕、魔法とか超能力とかで結構飛び慣れてたのに……」
「それとこれとは違うでしょ。自分でコントロールして飛ぶんじゃないから、曲がるときに首が痛くなったりするし……」
「うわーん、沙羅ぁあ〜っ」
「なんで男のアンタが泣きつくのよ……」
沙羅の胸に飛び込むと、よしよしと頭を撫でて慰めてくれる。
もうジェットコースターなんて乗らないから……。
沙羅の助言、ちゃんと聞きます……。
「コーヒーカップとか、メリーゴーランド行こ〜?」
「回復はやっ……。はいはい、折角だからたくさん乗りましょ」
「うんっ」
沙羅に笑いかけると、彼女も釣られて笑う。
2人で立ち上がり、手を繋いでテーマパークを進んで行った。
「あっははははははははははっ!!!」
「さ、叫びすぎだろっ!!? ひーっ、腹が!!」
「……環奈ちゃんも瑛彦くんも、失礼だよ」
「みんな楽しそうだね〜っ」
瀬羅と合流した3人。
下から瑞揶の叫びっぷりを見て、うち2人が笑っていたそうな。
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