炎獄のナイトクラッシュ

伊那国濤

異界in the異世界

 そこはつまり…あれだ。楽園、ユートピア。フリーズホーンは又の名を雪の一角獣と呼ぶ。即ち、ユニコーン。空想、仮想世界の所謂ファンタジーの御伽噺の作り話のフィクションの…これ以上言っても埒があかない。止めようかな。
そう、人が生み出した本来いなかった動物。
というのが従来の思考。
 常識を覆すのが異世界の面白い点。
これこそが、本来あるべき姿!
ユニコーンの群れ。ミノタウルス。ペガサス。フェニックス。玄武。白虎。朱雀。青龍。また、地獄の番犬ケルベロス。遂にはメデューサまでいるらしい。

危険すぎじゃね……

 つまり、俺たちはフリーズホーンによって、『空想の世界』へと誘われた。訳だ、ろう…

 そしてまたフリーズホーンは歩き始めた。一歩一歩着実に緑を踏みしめるように、意外にも速めのペースで。とは言えどそもそものペースを知らない俺にとってはこのペース自体について、甚だ疑問を抱くし、それ以前にこの『空想の世界』の存在と認識に疑問を抱くべきであろうか…

 という自己分析を俺は行う間に、もう一度フリーズホーンは歩き始めた。

 その際俺はふと、何かを憶い振り返ってみる。俺は凝視した。

 「何故だ!?」

 そこは一面広がる空想の世界…
地面は緑の芝生で埋め尽くされ、横に流れる小川は川瀬のせせらぎの音を聴こえさせる。その周りには所々に小さめの丘があり、その一つ一つの丘に光が遮られできる影ですら、印象に残るような自身の心の中の感受性を高め働かせる。そして前方を見ると、濁り一つない澄み渡った湖。その上から一本の巨なる大樹が聳え立っている。そしてその湖を超えた先に霧で麓を覆われた山脈が連なる。最後には自分達の、空想動物達の頭上に浮かぶ厚い雲間に見え隠れする日に照らされ姿を現わす…浮かんでいる島。謂わば空の島。

 つまり言いたかったことは。

 つい先程まで、俺たちが通ってきた、トンネルが何処にも見当たらない!しかし、とても惚れ惚れするような圧巻の景色に魅了されてしまったのは想定外の出来事に属する。

 「何処から私たちはやってきたのでしょうか?また、それを示す応えはここにあるのでしょうか?」

 「それはじゃなーーーー」

 応答をしたのはこの場にいる誰でもなく……

 「魔法使いの小人?」

 元々、色々と間違いのある世界なのだからそこにあるのは明瞭な事実なのだろう。
一先ず俺はその事実を何となく受け止め、小人の魔法使いに耳を傾けた。

 「あー、えーとじゃな。そうじゃな。立ち話も何じゃし、そこの一角獣や。そちとらの客人なんじゃろ。お招きすると共に、妾も招いてはくれんかの。」

 クゥアーーーー

 再度歩き始めたのは直ぐのことだった。

 色々と見物しつつ漸く辿り着くとそこは先の景色と打って変わり、白銀の世界に染まり上がっていた。

 「一体、雪の一角獣が何体いるんだよ…」

 「それは本人に聞けば良いのでは?」

 何となく違和感を感じていたがこういうことだったのか。基本的に俺は面倒なことの全てを避けてきた。それが叶わないのなら、出来るだけ被害を最小限に抑えてきた、つもりだ。

 「実はですね。そういう異族との交渉用に使われることが多い、魔法があるんですよね。生憎ながら私は魔法を使うことが不可能なので。」

 とか言いつつ、チラ見!

 いやいや、俺にやらせますか!それ。

 少しの沈黙を経て、俺の意見は通らないこととなり、水の泡の中へと静かに消えた。

 「community negotiations.」
 「いいえ、違います。こうですよ。」
 「community negotiations.」
 「うーん、違いますね。」
 「community negotiations.」……

 周りの様子が気になって、一瞬ちらっと見てみると、俺の目は二つの欠伸を捕らえた。本来ならば俺がそっちで欠伸するつもりだったのに…
女王様気取りの人間達が視えたところで気を取り直し作業を再開する。作業……任務、じゃない…押し付け…?うん、それだ。
 魔力と言う名の気力を使い果たしたのは、それからかなり後の話となる。

 「community negotiations.」

 面倒な事態を乗り越えて,先の話にあった通り、俺は目の前の言葉の壁を打ち壊すことに成功した。

 「お見事です!流石は異界の方々。御見逸れ致しました。

 「どうやら、交渉成功のようじゃな。祝福くらいはしてやらんとな。」

 「それ以前に何故お前はもともと言語が通じてるんだ!?」

 その答えは理由が判らないまま、奇麗に流された。

 連れられたのは直ぐの洞窟…かと思いきや、そうでもなく、森の一部分を人工的に切り開いたような開けた場所。案外人間の世界と同じような、憩いの場。と言うのが第一印象。
極々ありふれたその場には、木のテーブルを中心に丸太の椅子が周りに並べられている。それから視線を右に流すと、意外にもしっかりとした構造のログハウス風の建物。無論、この巨大な動物が収容できる程の大きさ、正確には言えないが、言うなれば見上げる大きさ。
 
 中へと通された俺たちにまずご丁寧に掛ける事を勧めてくれたのは、意外だった。

 「えーと、どこから話しましょうか。そうですね。先ず、自己紹介と。ご存知かと思いますが御容赦を。
我々は幻獣属、フリーズホーンと言う名を持ちます。そして、何故、そちら様の世界にいたと言いますと。実はチョコレートが好物なのですね。それで何故、そちらの世界へと行けるんだ!と言うことについては、これからの話でご説明させて頂きます。
まぁ、簡単な自己紹介となりますがこのような形で。」

 そして、流れ作業で上手く整理されその中は無数の本で埋まる幾つもの本棚から、慣れた手付きで迷い無く引っ張り出した本。

 ーーーー『世界とは…』

 何か深い題名だと言うことは理由無くとも解るが……

 考え終わった瞬間には、電光石火の早業の如く、俺たちの前にそれが差し出されていた。

 「ええっと……」

 「少々、長めの話となりますが、その点どうかお願いします。」

 「厭厭!」
  
 刹那、又も閃光が駆け巡るが如くの早業を駆使して、分厚いその本の1ページ目を開いた。第三者の目からは、保育園での先生が園児に読み聞かせ、のシーンをイメージし兼ねないが、そんなものは存在しないため気にも掛ける必要性はない。

 「『世界とは…』」

 そう言えば…俺たち、否、俺はさっきから目の前の物事全てに於いて、勝手に選択されていっているような……

 まぁ、いいか。

 こう思えた理由は。周りからの冷たすぎる冷酷の眼差しを浴びせられていることに、漸く気が付いたからである。

 もう少し細かく言うと…
笠原の口許を見た俺は解った。正確には動き、だな。確信はないが、恐らくこう言った。

 死ね。と。







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