ラブ × ロワイヤル

小森 美佳

12 佐奈恵Side 覚えのない約束

「悪い、俺と佐奈恵は約束があるからここで!」

愛ちゃんや他のメンバー達と別れる時、類くんはそう言ったけど、正直約束なんかした覚えは全くない。
今はただ類くんの隣を歩いてついて行くことしかできない。
これはどこに向かっているのだろう?


「ちょっと私、類くんと約束なんてした覚えないよ!どういうつもりなの?」

大学の正門を後にしてから、私は類くんにこの言葉をひたすら投げ続けている。
だけど類くんは、ずっと無言でポケットに手を入れながら歩いているだけ。


「行き先も教えてくれないし。ねぇ、ほんと今からどこ行くの?」

「お前がずっと行きたがってた所!」

今まで何も言わなかった類くんがやっと口を開いた。

「私が行きたがってる場所・・・?」


・・・どこ!?
今日初めて2人きりで話したばかりなのに、もうそんなことまでわかったの?

私が今行きたい所・・・もしかして映画館!?
大好きな少女漫画が実写化されて、先週から全国公開されたばかりだ。
今度の休みに愛ちゃんと見に行く約束だったけど、見れるなら類くんでも良いや!!
絶対に余計ドキドキしちゃいそうだけど。

それとも、しばらく行っていない遊園地?
他に何処かあったかな・・・!?

パッと思い当たる場所はそんな所しか浮かばなかった。
いろいろ考えているといきなり類くんから腕を掴まれた。

「ほら、俺について来い!!」

突然の出来事にびっくりしたけど、類くんのさりげない笑顔が嬉しかった。
私の右手に類くんの大きくて力強い左手が重なり、そのまま恋人繋ぎに変わっていく。

え、嘘・・・待って。
いきなり恋人繋ぎなんて心の準備ができてない。
突然こういうことをしてくる類くんに、私は今日だけで何度心臓を破裂させられそうになったのだろう。


ドキドキッ--。


またしても心臓の音が聞こえてしまいそうで怖かった。
どんどん心拍数も上がっていく。
お願いだから、もうこれ以上心拍が上がりませんように・・・。
類くんの前では余計な心配かけたくないから、パニックの症状は出ないで欲しい。
そう願って左手で自分の胸を押さえながら、必死に類くんに歩幅を合わせた。



「お前、もしかして緊張してんの?」

類くんは私が胸を押さえながら歩いている姿を見るや否や吹き出した。

「え、だって・・・」

隣で大爆笑してる類くんとの距離はさらに近づく。


「俺がいきなり手繋いだから?」


図星。
だって、たった1日でこんな関係になれるなんて思っていなかったから。
今日1日だけで、私の心臓は麻痺していると思う。

「え・・・あ、うっうん・・・」

類くんの顔がまともに見れず、地面を見ながら答えた。


「バカ!」

頭の上から聞こえたその言葉にびっくりして、恐る恐る類くんの顔を見上げた。

すると、いきなり類くんは私の頬に両手を置いて、力強く抑えながら私の目を見つめて真剣な眼差しで続けた。


「緊張なんかしないで普通にしてよ!僕はありのままの佐奈恵が好きなんだから。」

「でも、この状態で緊張しないなんか普通できないし、それにこのタイミングでさりげなく告白してこないでよ〜」

「なんでよ!嫌だった?」

ますます顔が赤くなっていくのがわかる。

「照れんなって!本当可愛いわ〜」

「違うよ〜類くんがそうやってからかってくるからだってば」

自分の頬に手を当てて確かめてみる。
ヤバイ、めっちゃくちゃ熱い!!


「その類くんって呼び方嫌だから、今からは呼び捨てで呼んでくれない?」

「・・・え?」

そんなこと言われるなんて全く思ってもいなかった。
TVの前だとよく呼び捨てで叫んでるけど、本人を目の前にして呼び捨てなんて、緊張してできる訳ない。
それに、類くんと今日初めて会ったばかりだよ?


「類くんって普段呼ばれないから、なんか違和感あるし恥ずかしいっつーか・・・」

そんなことを言う類くんは、可愛かった。
その表情を見てたら、なんだか呼び捨てで呼びたくなった。
もしかしたら、これをきっかけに類くんとの距離も近くなるかもしれないし、近づけてみたい!!
でも、いきなりの呼び捨てはちょっと抵抗がある。

そしたら、私だけの呼び方を今作っちゃえ!!
類って名前にあだ名はつけづらい。
名前がダメなら、名字だよね。


“ 花咲 類” だから・・・花類!

なんか可愛いし、呼ばれたら喜ぶかもしれない。


「じゃあ、ちょっと呼び捨ては抵抗があるので、今からは花類って呼びますね!」

「・・・花類?」

「そうです!フルネームを略して花類! これだったら抵抗なく呼べそうなので。・・・ダメでした?」

私がそう言うと、類くんは黙ってしまった。
気に入らなかったよね。自分でもダサいと思うし・・・。
やっぱり私ってセンスないな。


「ハッハハッハハハハハ」


道路のど真ん中なのに、類くんはいきなり大爆笑し始めた。

「佐奈恵面白いね!花類なんて呼ばれたことないから、なんか可っ笑しくなっちゃった!」

類くんはずっと笑っている。
あたしはやっぱりあだ名をつけるセンスないだな。
なんだか馬鹿にされてるみたいで、落ち込みたくなった。
大好きな人にこんなあだ名しかつけられないなんて、私は最低かもしれない・・・。


「花類、凄い気に入った!それは佐奈恵だけの呼び方ね!じゃあ、今からはそれでよろしく♪」

「えっ・・・わ、わかりっました」

「早速、その呼び方で俺のこと呼んで〜」

類くんは甘えるような言い方で言ってきた。


「でっでも、いきなりはなんか恥ずかしいよ」

「うわぁ。呼んでくれないんだ・・・」

その拗ねる表情が可愛くて、まるで5歳の子供のように見えた。


「もう!わかったよ〜」

なんだか呼びないとずっとこのままな気がした。
それもそれで、凄い楽しそうだけど。

私の一言で拗ねていた類くんの顔が一瞬で明るくなる。

「よし、じゃあお願いします!!」


そして、類くんは目を閉じた。
もう。目まで閉じて構えなくても良いのに。
ってか、かなりの欲しがりで甘え上手なんだな。



「・・・花類!」

いつものTVの前と同じトーンで名前を呼んだ。


「お〜なんか新鮮だし、凄い嬉しい!!俺に新しいあだ名つけてくれてありがとな♪  俺のことそう呼ぶの後にも先にも佐奈恵だけだからね!」

ますます笑顔の表情を見せた類くんの私の手を握る力が少しだけ強くなったような気がした。



それから、どのくらい歩いただろう。

細い裏道を果てしなく進んでいく。
曲がり角を何度も何度も曲がって、また進む。
今来た道を戻ろうとしても、きっと途中でわからなくなるのは目に見えている。
本当に、これはどこに向かっているの?


すると、いきなり類くんの足が止まった。


「着いたよ!」

その言葉で私は類くんに顔を向ける。
類くんは目の前にある建物に向かって指を指していた。

その指先の向こうには、
一軒家で家の入口までは石畳みが広がっていて、家門は白色のレース状フェンス。
フェンスの周りには見たことのない赤や黄、白などの幾つものカラフルな花が、これまた高価な植木鉢の中で咲いていた。

こんなにお金持ちの家初めて見た。
同じ東京にこんな家が存在していたなんて、めちゃくちゃ凄い!!
広い敷地に建つ家は、まるでお城みたいで、きっと誰しもが憧れる、理想の家。
こんな家に1日だけでも良いから住んでみたいな。



「・・・ここどこ?」

「俺ん家」

「えぇ!?」

思ってもいなかったその答えに、思わず大声を上げてしまった。


レース状フェンスの近くにポストがあり、その上に飾られている表札をよく見ると、ー 花咲 ー。

辿り着いたその憧れの造りをした家は、大好きな類くんが住む、自宅だったのだ!!


私が今1番行きたがってる場所って言ってたけど、ここだったの?
自宅なんて全く考えてなかったし、行きたいなんて言ったこともない。
なんでこんな所に連れてくるのよ。

こんな家なんだから、絶対家の中もめちゃくちゃ綺麗にしてあるから汚せないし。
余計にプレッシャーがかかるし、緊張して上手く話せなくなっちゃうよ・・・。

まさか初日に自宅にまで案内されるなんて。


これから先のことを考えると、今日だけで私の心臓はそろそろ限界だよ。
自分の家にちゃんと帰れるのかな?


神様、教えて下さい。

私の心臓はあとどのくらい持ちますか?



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