Common

二見

ラグナ・イザード

 リクトが家に帰ると、そこにはあたふたと部屋を散らかしながらも、懸命に二人の看病をしているミソラの姿があった。

 「ただいま……って、ミソラ大丈夫か?」
 「お、お兄ちゃんおかえりー……」

  ミソラはリクトを見ると、体から力が抜けてその場に倒れこんでしまった。

 「おいおい、大丈夫か?」
 「わ、私もう疲れたよ」
 「看病しなきゃいけない人が増えてどうすんだ……」

  とりあえずミソラは放置して、先に料理を作ることにした。
  しかしその前に、怪我人が無事かを確かめるために寝室を覗いた。

 「起きてるか?」
 「あ、ああ。君はここの家主かい?」

  寝室では、寝込んでいた少年が起きて辺りを見回していた。

 「ああ。俺はリクト。で、こっちがミソラ。俺の妹だ」
 「そうか。僕の名は……」

  名前を告げようとした少年の言葉を、リクトはあえて遮った。

 「その前に、今から料理を作るから、その後でもいいか?」
 「……ああ。構わないよ」
 「じゃ、もう少し待っててな」

  そういってリクトは料理の支度を始めた。
  しばらくして料理が完成すると、その匂いに反応してミソラも起き上がった。

 「もうご飯できたの?」
 「ああ。お前も食べるだろ」
 「うん!」

  ミソラの分の料理を用意した後、怪我をした少年用の料理を用意し、寝室に運んだ。

 「すまない。ありがとう」
 「謝るのか感謝するのか、どっちかにしてくれよ」

  リクトはそういって苦笑した。

 「はは、確かに変だね。あ、僕はラグナ。ラグナ・イザードと申します」

  ラグナという少年は礼儀正しい挨拶をする。

 「名字があるってことは、もしかして貴族なのか?」
 「……まあね」

  身なりからある程度は想定していたが、本物の貴族を目の当たりにしたのは初めてだった。

 「すごいな。俺、貴族を初めて見たよ」
 「……そうなんだ。よろしくね、リクト、ミソラ」

  そう言ってラグナは手を差し出した。

 「よろしく。ところでラグナ……いや、ラグナ殿、って呼んだ方がいいのか……ですか」
 「そんな堅苦しくしなくてもいいよ。僕と君は年も近いだろうし」
 「そっか。あまり敬語に慣れていなくてな。じゃあこれで」
 「うん。そっちの方が気楽だな」

  ラグナの紳士な対応に、リクトは若干驚いていた。
  リクトが持つ貴族のイメージは、傲慢で平民のことなど路傍の石としか思っていないのだろう、というものだった。

 「それでラグナ。どうして君たちはそんなに傷ついているんだ? 一体何があった」
 「……それは」

  ラグナの口が閉ざされる。あまり話したくない内容なのだろうか。

 「まあ、無理に話してくれなくてもいいよ。その怪我が落ち着くまではこの家でゆっくりしていってくれ」
 「すまない。迷惑ではないだろうか」
 「全然。俺ん家に人がくるなんてめったにないから、ゆっくりくつろいでくれ。ところで、その飯は食べられるか?他国のことに疎いから、もしかしたら口に合わないかもしれないが」
 「いや、大丈夫。いただくよ」

  ラグナは料理を手に取り、それを口に入れる。

 「……うん、美味しい。これは君が作ったの?」
 「ああ。小さい頃からミソラと二人で過ごしてきたせいか、大抵のことは出来るようになったよ」
 「そうなんだ。両親はいないのかい?」
 「……5年前の東西戦争に駆り出されて、そのまま……な」
 「……!」

  リクトがそう言った瞬間、ラグナは黙り込んでしまった。

 「……あ、ごめん」
 「気を遣わなくていいよ」
 「いや、そういう意味じゃないんだ……」
 「……?」

  ラグナの言葉の意味を、リクトは理解できなかった。

 「まあ、いいや。それより、そっちの人はまだ起きないか?」
 「ああ」
 「その人は酷い重傷だ。なあ、ラグナとその人の関係性はどうなっているんだ?」
 「……それについては、彼が起きてから話そうと思う」

  ラグナは神妙な面持ちで答えた。

 「なら、しばらく安静にしててくれ。まだラグナも怪我や疲れが残っているんだし、あまり無理はしないでな」
 「ありがとう。少し横になるよ」

  そういってラグナは横になった。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く