怪異事件録

イブキ

序章 《前編》


鳴り響く目覚し時計の音とともに、
僕は目を覚ます。

目の前には、
先程の綺麗な青空の景色ではなく、
白い僕の部屋の天井が映っていた。

『…夢か』

僕は鳴り響く
目覚まし時計を止めた…。

さっきの夢は何だったのだろう?

あの少女は、僕に何を伝えようと
したのだろう。

しばらく考えた後、
僕は夢について考えるのをやめた・・。

そういえば今日は何日だろう・・。

僕はスマホを手に取り、
日付を確認する。

4月10日

『4月10日・・確か・・
転校先の学校へ行く日だったな・・』

始業時間が確か
8時25分からだったはずだ。
今の時間帯は…


『8時15分か…』


……ん?

僕の見間違いだろうか?
8時15分?

僕は目をこすり、
もう一度時計を見直した。

うん、どう見ても
8時15分であってr…







『行ってきます!!』

荒々しく玄関のドアを開け、
僕は急ぎ足で学校へと向かった。

新しい学校生活の初日が
まさか遅刻だなんて…。

幸い、学校が家から徒歩10分
ぐらいの場所にあるのが救いだが、
間に合うのだろうか?

そう思いながら、
僕はまるで何処かのマンガの
1シーンの様にトーストをくわえ、
走っていた。

もしかしたら女性と
ぶつかったりして。

そんなくだらない事を考えながら、
曲がり角を曲がった。

瞬間、
何かとぶつかってしまった。

ぶつかった衝撃で、
僕は尻餅をついてしまった。

まさか、本当にそんなマンガでしか
起きない様な事が起きたのか?

『すいません!大丈夫ですか?』

戸惑いながらも僕は、
相手に謝罪して顔を上げた。

『あっ…はい…大丈夫ですよ…』

本当に女性とぶつかってしまった。
黒髪で少し背が高く、赤いコートを
着たとても美しい女性だ。

そして、その女性はとても大きな
マスクをつけていた。

何故だろう?
この女性とは初対面のはずなのに
僕はこの女性の事を知っている。

『ごめんなさい…
怪我はありませんか?』

女性は尻餅をついた僕に、
手を差し伸べて助けてくれた。

『はい…大丈夫です…
こちらこそすいません。』

そして、急いで学校へ
向かおうとすると

『あっ…!すいません…
ひとついいですか?』

その女性は僕を呼び止め…

『はい、何ですか?』


『私ってキレイですか…?』

そう質問をしてきた。


あ…思い出した。
これは関わってはいけないやつだ…。

普通なら、
綺麗と答えて終わりかも知れないが、
出会った女性が最悪だった。

恐らく、どっちの答えを出しても
僕は最悪の結果に終わってしまう
だろう…。

『こうなったら、…一か八かだ。』

そして僕は、
女性の目を見つめ…

『普通。』

そう答えた。

『………。』

すると女性は、
何とも言えない表情を浮かべ、
困惑している。

『すいません…
急いでますので失礼します。』


『あっ…ご…ごめんなさい…』


そうして僕は、
最大の関門とも呼んでもいい
壁を突破する事が出来た。




ー校舎前ー





『ギ…ギリギリ間に合った…』

残り時間あと2分というところで、
なんとか学校にたどり着いた。

体のあちこちが痛い…。
思い切り走ったせいか、
体のよくわからない所まで痛む。

その痛みを堪えながら、
僕は急いで校舎の中に入る。


ー教室ー


『席に着けー、
今日は転校生を紹介するぞ!』

先生のその言葉で、
生徒達はさらに騒ぎ出す。

『マジ…? えっ女子!?』

『どんな子だろう〜!』

『楽しみ〜!』

生徒達は、
教室の扉の外で待機している
僕からでも聞こえる声で
盛り上がっていた。


『よしっ!入れ。』


先生のその声と共に、
僕は教室の中に入る。


『ーーから来ました、
天童 蓮 です、よろしくお願いします』


何人かのクラスの女子生徒は、
隣の席の生徒と話し、
僕を見て、何故か微笑んでいる。
僕の顔に何かついているのか?

一方、クラスの男子生徒の何人かが、
何故か僕を見て、じっと睨んでいる。
何か悪い事をしたのだろうか?

『じゃあ天童の席は笹野の隣だな。』

そう言って、
先生は一番後ろの窓際を指差した。
僕はその席へ向かい、その席に座った。

隣には大人しそうな少年が
窓の外を眺め、座っていた。

『えっと…これからよろしく』

僕は少年に、軽く挨拶をした。
すると、自分に言っていると
気づいたのか

『…えっ!?あ…よ…よろしく…』

少年は戸惑いながらも
返事を返した。



ー休み時間ー

僕は少しでも、
この学校の事をよく知るため、
色々な場所を見て回る事にした。

途中、クラスの生徒達から
質問の嵐が来て、
時間を少々削られたが。


忘れよう…。



ー保健室ー


『失礼します。』

そう言って、
僕は引き戸を開ける。

『はーい!』

その元気な声と共に現れたのは、
片手に消毒液を持ち、
もう片方に絆創膏を持った、
少し髪の長い少女だった。

『あれ?君、
あまり見ない顔だね?』

少女は首を傾げて、
問いかけてきた。

『今日転校してきた、天童 蓮 です。』

すると女性は一瞬、
驚いた表情になったが…

『あ!君が天童くん!?』

少女は目を輝かせ、
僕に迫って来た。

『は…はい、そうですが・・』

『さっき、君のクラスの子が君の噂を
しててね!どんな子かなぁ〜って
思ってたんだよ〜!』


『そ…そうだったんですか…』


変な噂じゃないといいんだが…


『あっ!紹介が遅れちゃったね!
私は保健委員の 
早乙女 瀬奈(さおとめ せな) って
言うんだ!怪我や相談事があったら、
いつでも来ていいからね!』


『はい、ありがとうございます
…失礼しました。』


『お大事に〜!』



ー図書室ー

 
次に僕は、図書室に訪れた。
やはり図書室は静かで良いところだ。

僕は椅子に座り、
少し休憩をしていた。

しかし、折角図書室に来たのに、
本を読まないというのは
来た意味がない。

そう思い、僕は興味を惹かれる様な
本が無いか探し始めた。

すると、本を探しているうちに、
一冊の小説に目が止まった。

【夢の中の理想郷】

夢…。

ふと、あの不思議な夢の事を思い出した。
あの綺麗な青空、透き通る様な海、
そして、謎の少女の事。

何故、あの様な夢を見たのだろう。
僕は腕を組みながら考えた。

『あの、すいません』

誰かに声をかけられた。
その声で、僕は我に返る。

横を向くと、そこには眼鏡をかけた、
ポニーテールの少女が立っていた。

『何か、本をお探しですか?』

少女は不思議そうに問いかけてきた。

『あっ…!いえっ…
とても落ち着く場所だったので、
少し考え事を…』

すると少女は口元を手で隠し、
微笑んだ。

『面白い人ですね。
あなたが噂の転校生ですか?』

少女は再び、
僕に問いかけてきた。

『はい…天童 蓮です、
よろしくお願いします。』

僕は自己紹介をして、軽く一礼した。

『初めまして天童さん、
私は図書委員の
園崎 静香 (そのざき しずか)
と申します。』

そう言って、
僕に笑顔を見せた。

『落ち着く場所をお探しなら、
屋上に行かれてはどうでしょうか?
心地よい風が吹いていて、
落ち着きますよ。』

園崎さんは言うには、
どうやらこの学校は生徒が
屋上に入れるらしい。

気になった僕は、
屋上に行く事にした。

『ありがとうございます…園崎さん。』

『またいつでも来てくださいね。』

園崎さんは微笑みながら、
小さく手を振っていた。



僕は屋上に向かう為に、
屋上の入口を探していた。すると、
探している途中に謎の部室を見つけた。

『…心霊研究部?』

行き止まりの廊下に
その部室はあった。

心霊研究部…名前からして
とても胡散臭い。

扉の横に張り紙が貼ってあった。


心霊研究部
■幽霊現象などを調査します!
■情報が無い場合は活動無し!
■心霊情報&部員待ってます!


『入部希望かしら?』

『うわぁ!?』

突如、背後から声をかけられ、
僕はすぐに、後ろを振り返った。

そこには細い目をした、
黒髪の少女が立っていた。

僕は驚き、
尻餅をついてしまった。

『ふふ…そこまで
驚かなくてもいいじゃない。』

黒髪の少女は、
不気味に微笑んだ。

無理な話だ。

誰もいなかった背後から突然、
声をかけられたら誰だって
驚くに決まっている。

『ほら…手を取って。』

そう言って僕に右手を差し出した。

『あ…ありがとうございます…
あなたは?』

『私?私は心霊研究部の部長、2年の
霧島 十和子 (きりしまとわこ)と言う者よ。
あなたが天童 蓮 君ね。』

どうやら僕の名前は、
もう学校中に知れ渡っているらしい。

『ふふ…噂通りの転校生ね。』

おいおい、
一体どんな噂が流れてるんだ。

『ねぇ?私の部活に来ない?
心霊現象の情報を探して、
その心霊現象について調査をする部活よ。
情報が無い場合、その日は休みだし。』

『…その情報は何処で
手に入れるんですか?』

『もちろん、
インターネットなどの情報よ。』

ますます胡散臭くなってきた。

インターネットなどの
心霊現象の情報は大体の物が、
誰かが作った創作などが多いだからだ。

『お断りします、
僕も暇じゃないので。
それに、僕は今から屋上へ向かう
途中だったので。』


『そう…それは残念…』

霧島は少し、
残念そうに返事をした。

暇じゃないと言うのは嘘だが、
こんな胡散臭い部活に僕の貴重な
時間を使うのは嫌だったからだ。

『屋上はあの角を曲がった所よ。』

そう言って彼女は、
僕の後ろを指差した。

『…ありがとうございます。』

僕は礼を言って、
再び、屋上への入口に向かうため、

来た道を引き返し、
教えてもらった道へ向かう途中、
彼女とすれ違った…

瞬間、

『あなた・・幽霊が見えるでしょう?』

すれ違う途中、
霧島さんから聞こえた囁き声に、
僕は足を止めた。

今、何と言ったんだ?
何故、その事を知ってるんだ?

『…どういう意味ですか?』

僕は振り返り、
再び、彼女の方へと振り返る。

『知りたいなら明日、
私の部室にいらっしゃい。
今日は私も暇じゃないの。』

そう言い残し、
霧島さんは部室へと入っていった。

…あの人は何者なんだ?


ー屋上ー

ようやく屋上への入口を見つけ、
僕はドアノブを握り、扉を開ける。

扉の隙間から外の涼しい空気が
流れ込んでくる。

目の前には、
澄み渡る様な青空と
緑溢れる山の景色があった。

その美しい景色のせいか、
僕はしばらく呆然とその場に立っていた。

フェンスに手を掛け、
ふと、中庭の様子を眺めた。

友達同士で話し合っている者、
はしゃぎ合う者もいた。

あぁ、今日も平和だな…
そう思った。

しかし、その中に
気になる人物を見つけた。
確か、隣の席の笹野という名の生徒だ。

その笹野を、3人位の生徒が
円を作る様に囲んでいた。

なんだろう?
そう思っていると、
3人の内の一人が笹野を突き飛ばした。

戯れ合いで
突き飛ばす様な感じではない。

笹野はその衝撃で
背後にあった壁に当たり、
そのまま地面に倒れこむ。

ここからではあまり見えないが、
笹野を見下す様に3人が何かを話し、
笑っている様に見えた。

近くにいた他の生徒は助けずに、
ただ黙って、
その場を避けている様だった。

予鈴が鳴り、3人の生徒と
他の生徒達は中庭から立ち去っていく。

笹野は壁に手をつき、
ゆっくりと身体を起こし
ふらつきながらもその場を去っていった。

僕は教室に戻ったが、
笹野が居なかった。

先生に聞くと、
笹野は階段で転んで怪我をしたそうだ。

保健室で休んでいるから
しばらくすれば戻ってくるだろう
と言っていた。

しかし、授業が終わり下校時間になっても
笹野は教室に戻ってくる事はなかった。

心配になり、
僕はすぐに保健室に向かった。



ー保健室ー



『あっ!また会ったね!どうしたの?』

早乙女は元気そうな
笑顔と声で問い掛けてきた。

『…笹野はいますか?』

『あぁ!笹野君なら
そこのベッドで休んでるよ。』

そう言って早乙女はカーテンで
仕切られたベッドを指差した。

僕はカーテンをゆっくりと開け、
中を覗く。

そこには暗い顔をした
笹野の姿があった。

『…大丈夫か?』

カーテンを開き、
僕が声をかけると、

『えっ…!…転校生…君?』

それに驚いたのか、
笹野はとても戸惑っていた。

『…その怪我は。』

あの時は遠くてよく見えなかったが、
よく見ると笹野の腕には痛々しい
痣ができていた。

『えっ? あぁ…これ?
階段で転んだ時に打っちゃってさ…』

嘘だ。
階段で転んだ位では
こんな酷い怪我にはならない。

おそらくあの生徒達に
何度も蹴られてできた物だろう。

『笹野…屋上から見えたんだが、
お前…あの3人に…』

瞬間、笹野はベッドから起き上がり、
僕の目の前に立ち。

『僕は大丈夫だから…
気にしないで…』

そう言って笹野は僕の背中を押し、
僕を保健室から追い出そうとした。

その時の笹野は笑っていたが、
僕にはどこか怯えている様に見えた。

『…わかった。
それじゃあ…お大事に。』

これ以上関わると、
逆に傷つけてしまう。

そう思い、
その日は帰ることにした。


ー自宅ー


「…ただいま。」

玄関でそう呟き、僕は自分の部屋に
向かおうと階段を上がる。

『今日は色々な事があったな…。』

とりあえず、早くベッドで横になろう
そう思いながら部屋のドアを開ける。

そうして部屋に入ると、

『ふふっ・・あははははっ!』

クラゲの様な物体が、
僕の本棚にあったマンガを
読んで笑っていた。

『あはははっ…あっ!おかえり〜!』

僕の存在に気付くと、
読んでいたマンガを閉じて、
普通にあいさつをしてきた。

色々とツッコミたい所はあるが、
まず、こいつの正体を知ることにした。

『お前は…幽霊なのか?』

『うん! 私、シズク!よろしく!』

クラゲの様な物はシズクと名乗り、
笑みを浮かべ、
手であろう触手を伸ばし、
握手を求めてきた。

『あぁ…天童 蓮だ…
よろしく…。』

僕も自分の名を名乗り、
握手に応えた。

シズクの触手はひんやりとしていて
少し、心地よい感触だった。

…何なんだ、この状況は。

話を戻そう。

『で?お前は何が目的なんだ?』

幽霊というのは、
この世に何かの未練があり
生まれるものと聞く。

つまり、こいつにも何か、
未練がある筈だ。

すると、シズクは
不思議そうな顔をして…

『え?目的?無いよ?』

そう答えた。

『…は』

こいつは嘘をついているのか?
しかし、そんなふうには見えない。

『いや待て!無いってお前…
何か未練があるから
ここに居るんだろう!?』


『みれん…?…えっと…』


シズクは頭を抱え悩みだした。
まさか自分の未練がわからないのか?

困ったな…。
こいつの未練がわからない以上、
除霊ができない…。

『ねぇねぇ!
私がその未練っていうのを
思い出すまで、この家にいていい?』

シズクがとんでもない事を
言い出した。

『あ〜・・悪いな、
うちの家はペット禁止なんだ・・』


『ちょっと!誰がペットよ!
私は幽霊よ!ゆ・う・れ・い!!』

シズクは頰を膨らまし、
僕に怒鳴った。

『とにかく!僕はお前を
この家に置いときたく無いんだ。』

こいつは僕の家に現れた幽霊だ、
僕と何か関係があるのかもしれない。

未練がわからないと言ったが、
もし、こいつが嘘をついた
悪霊だった場合、
僕はこいつに殺されるかも
しれないからだ。

『…なん……で…』

するとシズクは段々、
悲しそうな顔になり。

『何で…そんなこと言うのさ…』

遂には
泣き出してしまった。

『お…お前が
悪霊かもしれないだろ!』

『私…悪霊じゃ…ないもん…』

シズクは大粒の涙を流しながら
否定した。

まずい・・、
これはとても面倒くさいやつだ。

『あ〜・・わかった!わかった!
  家にいてもいいから!』

『・・・・本当?』

この様子だと、
おそらく悪霊ではなさそうだ。

仕方なく僕は、
シズクを居候という形で
この家に迎えいれる事になった。

『わ〜い!やったぁ!』

シズクは、さっきまで泣いていたのが
まるで嘘のようにはしゃぎだした。

僕から見ればある意味、
とても悪質な悪霊に見えるな・・
こいつは。




次の日

『今日は遅刻はしなさそうだな。』

今回は6時に起床し、
朝食もしっかりと家で済ませ、
完璧の状態で学校へと向かっていた。

『学校楽しみだね〜!』

シズクが一緒という事以外は・・。

僕はシズクに、
家で留守番してろと言ったが、
シズクが一緒に行きたいと愚図りだし、

結果、一緒に行く事に
なってしまった。





学校へ向かう途中、
見覚えのある生徒を見つける。

笹野だ。

『やぁ、おはよう。』



『あっ・・おはよう。』

笹野は落ち込んだ顔をしていた。

『昨日はごめんね・・、
追い出したりしちゃって』

どうやら昨日の事で
落ち込んでいるのだろうか?

『いや・・僕の方こそ、
気に障る様な事をして悪かった』


『ううん大丈夫だよ・・ありがとう』

笹野は少し、
表情が明るくなった。


『もし、何か困った事があったら、
ひとりで解決しようとしないで
何でも言ってくれ。』


『ありがとう…それじゃあ僕、
急いで学校に行かないとダメだから
また後でね・・』

そう言って笹野は急ぎ足で
学校へ向かっていった。

『ひゅ〜!カッコイイ〜♡』

背後からおちょくる様な声が
聞こえた。

『うるさいぞ・・シズク』




ー部室ー

部室に行ってみると、
部室の入口には霧島が
立ちながら本を読んでいた。


『あら!約束通り
来てくれるなんて嬉しいわ。』

霧島は読んでいた本を閉じ、
僕を歓迎してくれた。

『本当はこんな所、
来たくなかったんですがね。』

僕はため息をして、
そう答える。

『冷たいわね〜蓮くん
私、悲しいわ〜』

そう言って、
霧島は部室の扉を開いた。

部室の中は見た感じ、
オカルトらしい物があまり無く
ただの普通の部屋の様な部室だった。

『そういえば、
今日はクラゲのお友達もご一緒なのね。』

『別にこいつは友達じゃ・・って
霧島さんシズクが見えてるんですか?』

『えぇ・・、一応霊感は強い方なのよ。
少しは信じてもらえたかしら?』

『まぁ、ここの部員の中で
霊感があるのは私だけですが。』

すると、背後にいたシズクが
僕を押し抜けて、飛び出して来た。

『聞いてくださいよ〜!蓮くんが
私に酷い事をしてくるんです!』

おい、その発言は
誤解を招くからやめろ。

『あらあら、女の子を
いじめちゃダメよ、蓮くん』

ほら見ろ、
言わんこっちゃない。

『誤解です、霧島さ…』

『先輩!!!』

すごい怒鳴り声と共に、
学ランのボタンを3つ外した
ガラの悪そうな茶髪の生徒が

まるで今から
殴り込みでもするかの様な
勢いで入ってきた。

『あら、荒川くんじゃない、
どうしたの?』

『先輩に教えてもらった場所に
幽霊なんて居ないじゃないっすか!
不良に絡まれて大変だったんすよ!』

そりゃそうだ、
そんなガラが悪そうなら
不良に絡まれるのは当たり前だ。

『あら?幽霊が居る
なんていつ言ったかしら?』

霧島さんに関しては、
見た目じゃなく中身が悪そうだな。


ふと、荒川と目が合った。

『・・先輩、こいつ誰っすか?』

『あぁ、うちの部室に新しく
入部する 天童 蓮くんよ』

おい、勝手に決めるな
入部するなんて一言も言ってないぞ。

『おぉ!そうか!そうか!
俺は荒川 恭介(あらかわ きょうすけ)だ!
宜しくな!』

そう言って荒川は
笑顔で自己紹介をした。

『そういえば、今日
体育館裏で幽霊が集まってたわよ?』

『マジっすか!?
ありがとうございます!』

そう言って、荒川はすごい勢いで
部室を出ていった。

『バカだね・・あいつ』

シズクが呟いた一言に
正直、僕も同感だった。

『さて、本題に移るけど、
蓮くんは本当に部活に入る気は無いの?』

またか、

『ありません!そもそも何故、
僕なんですか?』

部活へ歓迎する人なんて
僕の他にも沢山いるはずだ。



すると彼女は、
細い目を開き、真剣な眼差しで
僕に答えた。

『それは貴方が、
この部活に必要な人物だからよ。』


『僕が…必要…?』


『貴方、最近変な夢を
見たりしてないかしら?』

『もしかしたら、その夢の謎を
解明できるかも知れないの。』

正直、夢の事なんて
どうでもいいと思っていた。

しかし、あの夢は、

あの夢だけは、
何か忘れてはいけない
大切なものの様な気がしていた。


『…少し、考えさせてください…。』

そう言って僕は、
部室を出るために扉に手をかける。

その時、

『蓮くん』

霧島さんに呼び止められ、
振り返ると、




『お友達を大切にね・・。』




そう言って笑っていた。

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