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標識上のユートピア

玉子炒め

二十二話

 一番高いところから見る夕焼けは、これ以上にないくらい美しかった。空は煌々と輝き、雲は燃えるような光に照らされ、その先には別世界が広がっているようにも思えた。
凛奈、綺麗だね。
傍らの恋人に呼び掛けた。答えは返ってこないが、分かる。彼女も美しいと思っているはずだ
凛奈、お前はこうなることを見越していたのか? 最初からおれを庇うつもりで「寒い」と……。
いや、いまさら四の五の言うのはやめよう。凛奈はここにいる。それでいいじゃないか。
凛奈を抱き寄せる。彼女は目を閉じ、無言のままおれに寄りかかっていた。
その頬は雪のように白い。
首の前側だけを、ピジョンルビーのネックレスが彩っている。液状のそれはリボンのようにしなだれ、服に垂れていた。
唇にはルージュがひかれている。愛らしいチェリーピンクが、この時ばかりはゾッとするほど艶かしかった。
おれにとって凛奈は、究極的な美しさを誇るビスクドールだった。
どこかに違和感を感じる。狂った歯車が軋むような。
もうそんなことはどうでもいい。
おれには凛奈がいる。それだけで満足だ。
おれたちは、破れたフェンスのまん前に座っていた。片足だけを上げて、フェンスの外に出してみる。少しだけ鳥になれた気がした。
風にのって凛奈と飛び立てたら、どんなに幸せだろうか。
凛奈はどう思う?
優しく語りかけると、彼女は微かに笑ってくれた。
凛奈。
両腕で彼女を抱き抱え、フェンスをくぐる。身体が前のめりになった。
すぐに、地から両足が離れる。  
鳥みたいに上手に空を飛ぶことはできなかったが、風はおれたちを抱擁してくれた。
凛奈の感触を全身で感じながら、おれは目を閉じた。
 
 
 
 
夢から醒めるような衝撃を最期に、おれの意識は途絶えた。

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