ニゲナイデクダサイ

玉子炒め

決意

四匹いる。
こちらを見つけた怪物たちが、一斉にかじりついてきた。しかし、透明な壁の前では歯が立つはずもなく、次々と壁に衝突し、擦過音を立ててずり落ちていった。
喫煙所のドアとて例外ではない。スーツを着用したサラリーマンもとい怪物が、ドアに飛び付いたり剥がれたりを延々と続けていた。
「ドアが開いたらこっちに来ちゃうんじゃない?」
 女性がドアから遠退き、怯んだ声で言う。聖二は前に回り込み、ドアを観察した。
「いや、多分平気だ。あのドアはレバーハンドル式だから、怪物が立ち上がらない限り開くことはない」 
「レバーハンドル式?」
 女性と大柄が同時に声を上げる。
知らないの、と言いかけて聖二は口を閉ざす。よく考えてみればレバーハンドル式という言葉自体知らなくて当たり前だ。
「トイレとかでよくある、取っ手を押し下げて開けるドアだよ。無闇に押しただけでは開かないんだ」
 極力簡潔に説明する。女性と大柄は納得したようにうなずいた。
しかし、ドアがどんな形式であれ、中にいる怪物を倒さねば喫煙所には入れない。
女性は意を決したように割れた瓶を持ち直し、喫煙所のドアを開けようとする。
今まさに死地に向かおうとする彼女は、深く沈んだ面持ちだった。 
「待ってくれ」
 咄嗟に聖二は呼び止める。レバーハンドルを引き下げようとする手を押さえ、そっと瓶を引き取る。
「さっき助けてくれたよね?だから、今度はおれがいくよ」

「ホラー」の人気作品

コメント

コメントを書く