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ニゲナイデクダサイ

玉子炒め

鈍感

長い髪の女が大口を開け、首筋に噛みつこうと身を乗り出している。
女性の声が、今度こそはっきりと聞こえた。
「危ない」
 うつぶせの体勢を立て直し、手足をばたつかせる。だが、男性である聖二の力をもってしても、女をどけることはできなかった。
パニックになって暴れるほどに、自分と女の手足がもつれあい、動くことすら困難になってくる。
「助けてくれ!」
 必死に叫ぶ。
視界の端に大柄が入り込む。彼は腰を抜かし、地面に尻餅をつき、怯えきった表情でこちらを見ている。助ける気力は毛頭感じられなかった。
聖二は両手で女の肩を掴み、上に押し上げた。極限まで開かれた女の口から、涎が糸を引いた。聖二の頬に何かが落ちる。生ぬるく、嫌なニオイの液体。
女の涎だった。
恐怖と嫌悪のあまり、聖二の力が緩んだ。
女が再びのし掛かってくる。その口から洩れる熱気が、臭気を帯び、聖二の首筋にかかる。
すぐそばで息絶えているホームレスの姿が、生々しさを保ったまま脳裏をよぎった。
死を覚悟して、聖二は目を閉じる。
家族、友人、真美。近しい人間に別れを告げる。
鈍い音がした。

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