バカと天才は“神”一重

抹茶

第9話 隣席の子と担任の先生

空いている席は横1列に並んだ机の1番奥、つまりは窓際だ。
 取り敢えずそこまで行って隣に座っている女の子に話しかけてみよう。

 座っているため身長はよくわからないが、恐らくはフィルよりは低いだろう。肩甲骨くらいまでありそうな赤髪をポニーテールにしており、黒渕メガネをかけているためどこか知的な印象を受ける。
 そして髪は赤であるが瞳の色は珍しい青であった。
 少女は隣にやってきた俺に視線を送ることすらしなかった。

(ハーフなのかな?)

 この世界にはハーフと呼ばれる人種が存在する。それは人とエルフだったり人とドワーフだったり、人と何か別の種族の間に生まれた子をハーフと呼ぶ。
 ハーフが理由でEクラスに……?
 確かに珍しいけど取り敢えず声掛けるか。

「よっ。俺リオード・アンタレス。気軽にリオちゃんって呼んでな! 嬢ちゃんお名前は?」

 最初のつかみは大事だからな。
 よく言えばフレンドリーに、悪く言えば図々しい感じで声を掛けたわけだが、どう来るか。

「喋るなゴミ男……耳が削げる」
「いきなり酷くねっ!?」

 初対面とは思えない切り捨てぶりに俺は思わず目を見開いた。
 こちらを見ることなくバッサリと言い放ったメガネ少女。

「き、今日から1年よろしくな。名前は何て言うんだ?」
「キモい汚い気味が悪い」
「けなしの3Kっ!?」

 さすがの俺もここまで言われたことはなく激しく突っ込んでしまった。

(なにこれ噂のツンデレってやつ?)

 ポジティブに捉えていこう。
 何事もポジティブの考えは大事だからね。

「そんな冷たいこと言うなよ~。仲良くしようぜ~」
「グロい」
「う……すみませんでした……」

 3度目の正直とでもいうのか、今度こそ心にヒビが入る音を確認した俺は思わず謝罪の言葉を呟いた後、黙って机に突っ伏した。

(やっべ~。1人目からこれだと残りと話すの怖すぎる)

 出鼻をくじかれた俺は少しばかり気持ちを落としながらももう1度メガネ少女をチラッと見る。
 そこから見てとれたのは絶対に話しかけるなというオーラ。
 それをヒシヒシと感じたので、俺はチャレンジすることを諦め視線を向けることを止め姿勢を更に崩した。

 俺が話すことを諦めて数分経った頃だろうか……。
 沈黙が漂っていたEクラスの扉が開かれた。
 そこに目を向けると20代後半程であろうか、寝癖なのか天然なのかわからないほどボサボサの黒髪に白いシャツと裾がゆったりしているズボンといった格好の男が入ってきた。

(担任か……)

 何を考えているかわからない表情ではあったが、見る限りそれらしい隙はほとんど見られない。

(この人かなり出来るな)

 ボーッと男を眺めながらそんなことを思う。

「おっ、全員いるし席に着いてるなんて感心感心」

 男は生徒達を……といっても5人しかいないが、一通り見て満足そうに声を漏らしバンドツールを何やらいじっている。

「俺が今日からお前らの担任になる……」

 そう言いながら男はバンドツールをいじり続ける。

「ベルド・ゴーズだ」
「いや、通知来てねぇから!! 伝わんないっすよ!?」

 恐らくメッセージを飛ばしてるのだろうが、登録も何もしていないので来るはずがない。

「そういやそうか。後からお前らEクラスのグループに入れな」
「強制なんすね」
「改めて自己紹介すんぞ。ベルド・ゴーズ、気軽にベルド先生って呼んでくれ。年は29、誕生日は6月9日。趣味は特になし、絶賛彼女募集中、今食べたいものはサンドウィッチで好きなパンツは黒のスケスケだ」
「途中からいらない情報だよねっ!? アンタ本当に教師!?」

 ベルド先生の自己紹介に我慢できなかった俺は反射的に再度立ち上がってツッコミを入れる。

「失礼な、俺はれっきとした教師だ。見てみろこの頭を」
「なっ……その髪はまさか……」
「ただの天パーだ」
「ですよねっ!!」

 よくわからないボケに突っ込みが止まらない。
 初対面の筈だが昔からの仲間のようにテンポが合う。

「お前中々やるな」
「先生もな」

 そして何故だか自然に握手を交わす。

「今度飲みに行こうぜ」
「是非ともお願いします」
「2人ともいつまでやってんの!?」

 どうやらふざけすぎたようで、クラスメイトから突っ込まれた。


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