バカと天才は“神”一重
第7話 兄は誇らしい
「続いて、新入生代表、フィル・アンタレス」
「はい」
慣れ親しんだ名前と声が俺の鼓膜を通り過ぎて行った。
いつの間にやらフィルの出番のようだ。
(つーか、あのおっちゃん誰だ?)
俺の知らない間に式が始まってるし、隣の3年生の視線をビシビシ感じるんだけど。
まあそんなのはどうでもいいか、俺は今から始まるフィルの代表挨拶に全神経を研ぎ澄ませて聞くのみ。
「はじめまして──」
そんな言葉で始めた挨拶。
落ち着いた声で淡々と喋っているが、魔術が上手く働いているのだろう、俺の耳までしっかりと届いている。
今朝読ませてもらった内容とは大分違っているが、フィルらしい言葉が織り交ぜられている。
身分やクラスに関係なく……か。
「──新入生代表、フィル・アンタレス」
フィルは挨拶が終わると一礼した。
全て聞き終えた俺は涙を流しながら拍手を送る。
あんな小さく甘えてきた妹がこんな立派に成長するなんて……。
ステージ裏に戻って行くフィルをしっかり確認し、俺はもう一度瞼を閉じた。
◇
「……さん……兄さん」
「ん……」
俺が再び目を覚ますと、辺りは静まり返っていた。
「あれ、終わったのか?」
「はい、もう他の皆さんは教室に戻られました」
なるほど、確か今日は式の後に顔合わせを兼ねてのホームルーム以外の予定は組まれていなかったな。
それにしても俺の後ろの奴ら……クラスメイトのはずだよね? 起こしてくれても良くない?
「クラスメイトの方たちは3年生の視線を浴び続けていて早く立ち去りたかったのでしょう」
「あら皆メンタル弱い。あとフィルはさらっと心読まないでね?」
今の魔術と科学を組合わせても読心術なんてものは存在しないはずなんだけどな。
「心の声が盛れていましたので」
俺の口が緩すぎただけでした。
「じゃあ俺らも戻ろうか」
「はい、そうですね」
俺は立ち上がり、フィルと並んで教室へと向かう。
「上手く話せてよかったです」
「いい挨拶だったな。兄ちゃんは聞いてて誇らしかったぞ」
緊張していた為かフィルはホッと胸を撫で下ろしていた。
そんなフィルに俺は頭をポンポンと軽く叩く。
「誇らしかっただなんてそんな……勿体ないお言葉です」
胸に手を当て、感極まっているといっても過言ではないフィルはとても嬉しそうだ。
「いや~お前の挨拶だけはまともに聞いちゃったからな」
「それは他は寝ていたという事ですよね。ちゃんとステージ裏で見てましたからね?」
サラッと不真面目な発言をした俺だが、特にフィルも咎めたりするようなことはしなかった。
「そういえば、今年の生徒会長はニュート家の方でしたね」
思い出したようにフィルが口を開く。
「そうなのか?」
「はい」
話を聞いてなかった俺はフィルが頷いたのを見て少し考える。
「やはり十二家の者達はここに通っているか。中でもニュート家は力が強かったはずだから……納得だ」
ブツブツと1人で呟き、納得してしまった俺を見てフィルがクスリと笑いを漏らした。
「んだ?」
「いえ、兄さんがこうやって考え込むのを久しぶりに拝見しましたから」
珍しいモノを見たということなのだろう。フィルの笑いの理由に納得した俺は考えることを止め、教室へと向かう足を少しだけ早めた。
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