バカと天才は“神”一重

抹茶

第1話 なんでも屋



 ここは【フォルス】大陸北東部に位置するこの世界ではありふれた規模の小さな村【ガトー】。
 フォルス大陸はこの世界、【ローランド】にある3つに分けられた大陸のうちの一つ。
 ガトーには村の象徴である塔がある。塔の中は螺旋階段状になっており、高さは約100メートル。その頂上付近で1人の少年が箒を持って階段の清掃をしていた。
 その少年の名は【リオード】。髪は漆黒で、長過ぎず短過ぎずと言った感じのミディアムヘア。背丈も平均より高く、清潔感を持っている。とある店を営んでいる両親の倅である。

「ありがとのぉ、リオード君。月に1度の点検作業に付き合ってもらって。」
「いえいえ、これも仕事の1つですから! 村長も歳なんすからもっと頼ってくださいよ?」

 リオードが言うように村長は齢90を超えていて腰も90度近く曲がっている。それで杖もなしに過ごしているのだから果たしてその腰は強いのか弱いのか。

「ところでリオード君。今日この後、仕事はあるのかの?」
「今日っすか? 今日はここだけです。戻ったら店の片付けくらいは手伝う予定っすけど。」
「そうかそうか。そういえば今日誕生日じゃなかったかの?」
「うっす! 俺もやっと成人なんで外での仕事も出来ますよ!」
「君は外の世界を見てみたいとずっと言っておったからのぉ。」

 成人とされる16歳未満とする人間は自分の住んでいる村(町)から1人で出てはいけない。
 これは未成人への安全保護のための措置であり、条例化されている。違反した者は成人を迎えてから1年間、村(町)を出ては行けない。

「ということは、やはりミストレアへ行くのか?」
「それは……」

   【ミストレア】、フォルス大陸中心部に位置する最大の街である。中心部なだけあり、フォルス大陸のぽっと出の成人した若者はこぞってミストレアへと住を移すことが多い。
 リオードも例に漏れず外の世界に憧れを持ったどこにでも居る少年の1人だ。町長は寂しさを感じていた。

「俺はこの村を出ませんよ。ウチを…アンタレスを引き継ぐって決めてますから!」
「ホッホッホッ、君は物心ついた時から両親2人の仕事を手伝っておったからの! 妹さんのフィルちゃんもじゃが、本当に仲良しで何よりじゃ」
「へへっ、目に入れても痛くないとはまさにフィルの為にあるような言葉ですよ…っと、掃除終わりましたよ!」

 フィルは二卵性双生児の妹であり、リオードが溺愛している女の子だ。
 ちなみにアンタレスとは、リオードの実家の店の名前であり、法に触れなければなんでもする、何でも屋を経営している。
 リオードは額の汗を拭い、腰に手を当てる。
 1から100階層までの階段とそれに沿って設置してある手摺の掃除を終えた。

「ホッホッ、お疲れじゃ。では、戻るとするかの」


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