キャラ選択で異世界漫遊

あしや

うま茸狩りの前に準備運動

 フードを下ろした途端に叫ばれた玲子。見ればオトモ3人の顔はみな驚愕によって目を見開かれ口をあんぐりと開いていた。

___あぁ、やっぱりこうなるか。

 困った様に眉をハの字に下げながらも玲子は穏やかに笑う。

(ふふふ、どうだい私の傑作たる贅沢極みの君のアレイスタークは!とってもカッコ良いでしょう?そりゃ、吃驚するのも分かるよ。なんたって顔を隠した不審者の正体がTHE皇子風なイケメンだったなんてね~)
 荒ぶった異様なその内心をおくびにも出さずに。

 玲子は聖杯ローブを[貴公子のローブ]の上から着込む。
「それ動きづらくねぇのかよぉ?」とチャモからツッコミを貰うが問題ない。なんせ玲子には何でも収納出来る便利な目録インベントリがあるのだ。

「ギルドで預かって貰うのを忘れてしまったから仕方ないさ。それに動きに支障がないから大丈夫だよ」

 それっぽい理由をつけ、玲子は何気無い仕草で目録インベントリを操作してアイテムバックへと[貴公子のローブ]をしまう。

「それじゃ全員ローブを着たし、さっそくうま茸狩りに行こうか?」

 玲子が聖杯ローブのフードを被り再び顔を隠すとオトモ達はほっと身体から力を抜いた。碧色の眼に見られていると落ち着かないのだ。

「いや、待てって!アレイスタークさ……旦那はうま茸が何処に生えるのか知ってるのかぁ?」

 "様"と口にしかけて言い直したチャモは当然な疑問を呈する。しかし、それさえも杞憂に過ぎない。

「知識にうま茸の生態も入ってるから生える場所も分かるよ」

 今から向かえば夕方前には戻れるだろう。

「私が先導するから3人ともちゃんと着いてくるように。途中で綺麗なお姉さんに会っても、良いものをくれる人が現れても着いて行ってはいけないよ?油断は大敵、帰るまでが遠足だからね」
「遠足だぁ!?」
「餓鬼じゃねぇつーのー」
「ふはっ、了解だよ先生~」

 釘をさす玲子にチャモとメレオはやや呆れつつ、レンゲはノリノリで返事をするのだった。

◆◇◆◇◆


 此処は迷いの森の中腹。名前の由来通りに鬱蒼と生い茂る草木の合間を進みながら、玲子は着いてくる足音が1人分足りない事に気付いた。

「チャモー?」
「あぁ、どうかしたのかぁ?」
「レンゲー?」
「ん~?」
「メレオー?」
「うぜぇ」

 ダウト。

 玲子は足を止め、振り返っては視界を遮る草垣を腕で払う。戸惑い同様に足を止めた2人に玲子は溜め息を吐き出した。

 誰が居ないのか分かっただろうか?

「チャモさん点呼で2回返事は駄目だから。んで、迷子ははぐれる前に何か言い残してったのかな?」

 答えはメレオだ。
 気まずそうに、しかし仲間を思い口をつぐむ彼らには悪いが玲子は予想がついている。

「ったく……どうせ少し前に見掛けた女性の所にでも引き返してるんでしょ?」

 玲子のトゲのある言葉に、メレオの事を伝えなかった後ろめたさがあるチャモは「うっ」と顔を背け、レンゲは足元に視線を落とした。

 さてさて、どうしようか。玲子は悩む。
 この迷いの森は木々が生い茂り迷いやすいだけではなく、人肉を好む魔物も当然ながら存在する。中でも迷いの森の中腹に生態するのは好戦的な魔物が多く、薬師や冒険者がよく行方をくらませる場所なのだ。

 そして先程、見掛けたのは遠目ながらも美しいと思わせる女性だった。こんな物騒な森に薄着の女性が1人。どう考えたって不自然だろ。

「森に入る前に忠告はしたよね?『綺麗なお姉さんに会ってもついていかない』って」
「あぁ……」 
「さっき見掛けた綺麗なお姉さんは十中八九 魔物の罠だよ。聞いた事くらいあるだろう?美しい人間の身体を持ち、誘われた獲物を食らう蜘蛛の魔物のこと」

 みるみる青ざめる2人は理解したようである。
__女性アレはアラクネの疑似餌だと。


「ど、どうすんだよぉ!?」
「助けに戻らないとメ……レオが喰われるよ~!」
「そうだろうね」
「っ、何を呑気な!?」

 引き返そうと訴える2人は冷静じゃない。なんたってアラクネは冒険者登録したばかり新人が倒せる魔物じゃないのだ。最低でも中堅冒険者のDランクパーティーかCランク個人の腕前が必要とされている。

「なら!君達が助けに戻ったとしてアラクネに勝てるのか?」
 玲子が踵を返したチャモの背に言葉を投げた。

「ぐっ、やってみなきゃ分からねぇだろうがよぉ!」
「希望論は聞いてない」
 引き留められたチャモが語気を荒げるが、玲子からばっさりと切り捨てられ悔しげに歯噛みする。

「生死に関わるんだ、無理なら」
「だけどアレイスターク様!メレオは大切な友人なんだ見捨てられないよ~」
 レンゲに台詞を遮られ、やれやれと玲子はフードの下で苦く笑う。

「様は要らないって……はぁ、分かった。なら、助けには私が向かうから君達はこのまま進んで。あの1本だけ大きな樹があるでしょ?そこに向かって行けば開けた場所に出る。其所がうま茸の群生地だから茸狩りは任せたよ」

 目立つ1本の樹を指差して此からの行動を指示する。いざ、玲子はメレオを助けに向かう為にレンゲ、そしてチャモの横を通り過ぎようとした時に肩を強く強く捕まれた。

「ざけんな!俺達も行くに決まってんだろぉ!」
「足手まといだよ。それに……」

 玲子はアイテムバックから取り出した[通常武器(剣):グラディエーター]の切っ先をチャモの喉元に突き付けた。

「今の抜剣に対処出来ないなら命の保証は出来ない」
「うぉ!?っ、なら旦那があいつをちゃんと連れ戻す保証はあんのかよぉ!」

 チャモが飛び退きながら、尚も食い下がる。
 必死なのは理解出来るが、いかんせんタイムロスが深刻だ。悠長に話している暇はないんだけどなーと玲子は幾度めかの溜め息を吐き出した。

「連れ戻すさ。万が一に手遅れだった時には残っている身体、もしくは衣服の欠片を君達の元に届けることで嘘ではないと証明しよう」

 玲子はそれだけ言うと、もはや構っていられないとアレイスタークの身体能力をフルに活用して障害物の多い森の中を駆け出した。

 その姿は常人が目で追える次元ではなく、チャモとレンゲの目には突如として玲子の姿がかき消えた様にしか映らなかった。

「マジかよ……」
「アレイスターク様って一体……」

  暫く唖然と玲子が消えた場所を見送っていたが、今更に後を追うなど此程までの力量差をまざまざと見せ付けられたら出来る筈がなかった。
 やがて2人は無言で目立つ樹を目指して歩きだす。
その顔はどちらも難しく、悔やむ様でいて何かを決意するものであった。



(えーと、アラクネの攻撃パターンってなんだけっけ?)
 玲子は草木をすり抜け、さながら風の如く疾走しながらmyモノ時代に対峙したアラクネの記憶を探る。

 myモノでのアラクネは、始まりの村と呼ばれるアイム村近郊にある初級ダンジョンの最奥にいる。
 メインクエスト『村の子どもを救い出せ』で誰もがチュートリアルとしてダンジョン入場と攻略方法を学ぶ。その一環でボスとして撃破するモンスターだ。

 myモノのアラクネは初盤に通常攻撃アタック防御ガード。 体力が6割を切った中盤は距離を取って捕縛糸からの斬糸の搦め手も使用する。残り体力が3割になる終盤では此までの攻撃から派生してカウンター攻撃アタックからの吹き飛ばしと追い撃ちスマッシュタックルを使ってくる。

(……そりゃ、この世界でも攻撃パターンがまったく一緒だとは思わないけど)

 しかし、無知で挑むより同じ蜘蛛型のモンスターの動きを僅かにでも頭の隅にでも置いていた方が戦いやすいというもの。

「っ、此処か!」
 玲子はくぐもった悲鳴が聞こえる茂みの向こうへ飛び込んだ。

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