椿姫

コレット

手紙

麗玉の死から半年。
   
楸瑛は麗玉の室の掃除をしていた。
   
室を掃除すると、彼女の遺品が色々と発掘されるから面白い。


「これは麗玉が使っていた硯だ……。……ん?これは…?」
   

楸瑛は麗玉の机の中から、分厚い茶色の封筒を見つけた。
   
興味をそそられて、いけないと思いつつも中身を出した。
   
そこからは、白い封筒が何十枚と出てきた。


「………ぇ………?」
   

何気なく宛先を見る。

"秀麗へ"
   
急いで他の封筒の宛先を見た。

"父様へ"

"母様へ"

"静蘭へ"

"紘二へ"

"頼真へ"

"絳攸様へ"

"黎叔父様へ"

"玖郎叔父様へ"

"主上へ"

"燕青へ"

"影月くんへ"

"胡蝶姐さんへ"

"雷炎様へ"

"羽林軍へ"

"珠翠へ"

"白彗へ"
 

  ____そして


"楸瑛へ"
   

楸瑛は自分宛の封を破り、文に目を落とした。
   
そこには、二十一年という短い時を生きた、麗玉の精一杯が綴ってあった。




『藍 楸瑛様
   
これは私があなたに宛てる、最初で最後の文です。
   
どうか最後まで読んでください。

   

これをあなたが読んでいるということは、もう私はこの世から去っている。ということですね。
   
まず、これだけは言わせてください。
   
ごめんなさい。

永遠をあなたと誓ったのに、こんなにもすぐに破ってしまってごめんなさい。
   
あのね。

私、分かっていたの。

あと少しであなたを残してこの世を去ることを。

命の砂が、全て落ちきることを。
   
でも、少しでもあなたの心に私がいればいい、そう思って、何も言わなかったの。
   
卑怯ね、ごめんなさい。
   
私だって、永遠が永遠に続くのならば、あなたの隣にいたかった。

あなたと笑い合いたかった。

あなたの子供が欲しかった。
   
けれど、もう私にはそんな時はないから。

   

ねぇ楸瑛。

もし、あなたが私以外の人を愛するようになったら、その人と幸せになってね。
   
あなたに残した、私の心を捨てて。
   
けれど、できれば、そのまま持っていて欲しい。

   

ねぇ楸瑛。

一つ、約束をしましょう。
   
あと何十年かして、楸瑛が老いて自然な死を迎えたら、こちらの世界で今度こそ、永遠を誓いましょう。
   
だから、それまでこっちにへ来ないで。

迎えにいくから。

だから、迎えにいくまで、来ないでね。

   

そしてね。
   
あなたが泣いて泣いて立ち上がれなくなった時は。
   
私との日々を思い出して。
   
あなたが絶望して、座り込んだ時は。
   
私の笑顔を思い出して。
   
私はあなたの笑顔が好きだから。
   
泣いても、辛くても、座り込んでもいい。

だから、その後にはにっこり笑って。

   

ねぇ楸瑛。

私の大切な旦那様。

我が愛する背の君。
   
幸せになってね。

私を幸せにしてくれたように。
   
私はずっとあなたを見ているから。

   


ねぇ楸瑛。
   
愛してる。
   
永遠にあなただけを。
   
愛しているわ。

         
藍 麗玉(旧姓、紅)                』
   
   


楸瑛は涙が止まらなかった。


「………捨てる、わけ………ないだろ……馬鹿……!」
   

楸瑛は文をかき抱いて泣いた。


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