椿姫

コレット

退官

「ねぇ楸瑛」
   

麗玉が倒れてから半月。

未だ麗玉は寝台から出られていない。結局病の原因は分からなかった。
   
楸瑛は漸く最近登城するようになった。


「……ん?」

「……私、退官する」
   

楸瑛はばっと麗玉を見た。

麗玉は窓の外を見ていた顔を、楸瑛に向けた。
   
そして悲しそうに微笑んだ。


「……今の私が将軍やっても、戦力がガタ落ちするだけだわ。なら、静かに邸にいたいの」
   

楸瑛はそっかとだけ呟いて麗玉の瞳から溢れる雫を拭った。


「…じゃあさ、寿退官する?」

「…ぇ…?」
   

楸瑛はにっこりと笑った。


「私と一緒に、私と同じ昊を見て、私と同じ時間を、私と永遠に過ごそう。麗玉」
   

麗玉の瞳からはまたどんどん雫が溢れ出した。
   
楸瑛の差し出した手を握った。


「……きっと……きっと私は…あなたより、先に、いなく、なる、よ…?
   あなたが、辛く、なるだけだよ…?」


「君がどんなに辛い現実を引き連れても。
   君がどんなに私の足を引っ張ろうとも、私は大丈夫。だってね。
   それだけ愛してるといえる君と出会ってしまったんだもの」
   

麗玉は楸瑛の胸に顔を埋めた。

その頭を楸瑛はそっと優しく撫でた。


「君がどんなに暗い闇の中で立ち止まっても、そこから救い出してあげる。
   君がどんなに絶望して、もう歩けなくなっても、おぶって一緒に歩いてあげる」
   

麗玉はきつくきつく楸瑛を抱きしめた。

嗚咽が、我慢できなかった。


「だからね?私の、一番隣に来てよ。私の妻になってくれるかい?」

「……っ…………はい……っ」
   

麗玉は笑った。


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