椿姫

コレット

冗官

「…………冗官………ね」
   

麗玉は全官吏、全武官に通達された、茶州州牧の措置を見て、ため息をついた。
   
季節は春だった。





春。


「ねぇ、楸瑛」
   

麗玉は自分の膝を枕にして寝ている楸瑛の頭を撫でた。


「んー?」
   

楸瑛は頭を撫でる手を掴み、唇に持ってきた。


「………秀麗、帰ってくるわね」
   

楸瑛は麗玉の指先にキスを落とした。
   
麗玉はされるがままになっていた。
   
秀麗は無事に病の終結と、邪仙教の噂の収束を見事達成した。
   
しかし、その為に通した余りにも多くの無茶を、朝廷の頭が固い老臣達は、許さなかった。
   
故に、全ての責任を秀麗が被り、官位も何も無い、名ばかり官吏である冗官に降格されてしまったのだ。
   
楸瑛は麗玉の少し心配そうな頬を撫でた。


「…大丈夫だよ。秀麗殿は強いさ」
   

麗玉は泣き笑いのような顔をした。





「紅州ぼ……紅官吏」

「あ…………」
   

秀麗は迷わず麗玉に跪拝した。

麗玉は苦虫を噛み潰したような顔をした。
   
麗玉は我慢出来ずに、すれ違いざまに呟いた。


「……辛くなったら来るのよ」
   

秀麗は、はっとしたように麗玉を振り返った。
   
麗玉は振り返らなかった。

そこに来た武官に挨拶をすると、話しながら歩いていった。
   
秀麗はふと昊を見上げた。


「……風花……」
   

この風花が桜吹雪に変わる頃。

何が変わっているだろうか。
   

秀麗はぐっと拳を握りしめると、歩き出した。


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