椿姫

コレット

朝賀

「茶州州牧紅秀麗様、茶州州尹鄭悠舜様、御入殿でございます」
   

白い官服に身を包み、悠舜の隣に立ち、その腕を支えながら歩いてくる妹。

一年前より大人になった妹を、麗玉は真紅の鎧に包まれながら見守っていた。


「紅秀麗、並びに鄭悠舜。ただいま罷り越しました」

「双方面を…あげよ」
   

秀麗はにこりと微笑んでみせた。




「紅州牧」
   

秀麗は振り返った。

そして絶句した。
   

目の前に立っていたのは、藍色の鎧に身を包み、その上から白い衣を羽織っている、見慣れた楸瑛。

その後ろで跪拝している真紅の鎧を着て自分に跪拝している人。

楸瑛と同じように白い衣を羽織り、髪をひとつに束ねている。

ぱっと見た時、男性と思われがちだが、形良く押し出された胸が彼女の性別を物語る。


「紅州牧がいらっしゃらない間に右羽林軍将軍となった者です」

「お初におめもじつかまつります。右羽林軍将軍、紅麗玉です。何かの折には貴女の助けとなりましょう」
   

麗玉は顔をあげ、秀麗に微笑んで見せた。
   
秀麗は泣き笑いのような顔をした。


「茶州州牧、紅秀麗です。もし何かありましたら、お力添えをお願いします」
   

麗玉は深々と頭を下げ、立ち上がった。

そして、秀麗に向かって、手を広げた。
   
秀麗はよたよたと麗玉に向かって歩き出し、その額を麗玉の肩にもたれかけた。


「おかえり。秀麗」

「……………うん」
   

麗玉はあやすように秀麗の背を撫でた。

秀麗は静かに涙を流した。
   
麗玉は背を撫でながら秀麗に語りかけた。
   
楸瑛はあたりに誰も来ないようにと人払いをしてくれた。


「……最近、よく眠れてなかったんだって?燕青から文が届いたよ」

「……うんっ………寝れ、ない……もう、ずっと…眠れない……。私……人を…………ある人を………」

「うん…そっか」
   

麗玉はただそれだけを言って、黙って背を撫で続けた。
   
秀麗はただそれだけで、心につかえていた何かが取れたような気がした。


「……ありがとう。大分すっきりしたわ。ねぇ、そうだ麗玉」
   
秀麗は顔を拭い、麗玉を見た。

一年前よりしなやかな人となった姉の手を握った。


「うん?」

「あなた、工部尚書と面識あったりする?」

「あぁ、飛翔様?この前一緒にお酒呑んだわよ?"祝い酒だぁ!"とか言って」
   

秀麗は絶句した。
   
こんなにも何回も門前払いを受けているのに、麗玉と祝い酒?


「…なんなら、私から飛翔様に言う?」
   

秀麗は苦しげに額を歪め、首を横に振った。


「…ううん、大丈夫。こればっかりは、私自身の力で頑張らないと…」
   

麗玉と楸瑛は顔を見合わせて微笑んだ。
   
二人はさっと秀麗に跪拝すると、立ち上がり、踵を返した。


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