椿姫

コレット

「おい、あいつだぜ」

「あぁ、あれだろ。男を差し置いて状元及第しやがった女」

「女が武官だなんてふざけてんのか」
   

視線が突き刺さる。

悪口雑言も聞こえてくる。

けれど、それは秀麗も同じ。

きっと妹は唇を噛んで、それでも前を向き続けるだろう。
   
だから、私も__


「今年度、国武試及第者。状元、紅麗玉」

「はい!」
   

ここに、初の女性武官が誕生した。





「いただきます」
   

麗玉は仕事場近くの椅子に座って弁当を食べていた。
   
麗玉は国武試及第後、厩の手伝いをさせられていた。
   
国武試を受けようと決意した時から分かっていた事なので、別になんとも思っていない。
   
秀麗は各部署の厠掃除を命じられていた。


(秀麗、大丈夫かなぁ…)
   

秀麗はここ一月家に帰ってきていない。

風の噂では、厠掃除が終わった後、影月と共に府庫に籠って書翰の整理をしているらしい。
   
父、邵可も秀麗を心配して家になかなか帰ってきていない。
  
だから家には麗玉と静蘭しかおらず、いつもなら賑やかな家もしんと静まり返っていた。


「あの…紅武官ですか?」

「はい?」
   

麗玉が弁当を食べる箸をおき、声の方を振り返ると、二人の武官がいた。
   
肩の布の色的に同期だろうか。


「あの、俺、紀頼真(き らいしん)です。防眩の。で、こっちが…」

「祢紘二(ねい こうし)です。探花です」

「あ、紅麗玉です」
   

頼真は人懐こい笑顔を向け、紘二はあまり表情を変えなかった。


(…なんだろう)
   

他の武官や官吏と同じように、女というだけで軽蔑しているのだろうか。


「ねぇ、紅武官。何故君は、国武試を受けたの?
   こんな軽蔑だらけの朝廷で、何をしようと?」
   

頼真は微笑みを崩す事無く聞いてきた。

頼真と紘二の目は、人を値踏みするような目だった。
   
麗玉は応戦体制になった。


「何故…と?何故そのような事を聞かれなければならないのでしょうか。
   望みを、夢を叶えたいという想いは、女性は持ってはいけないのですか?」
   

麗玉の目は据わっていた。

もうこんな問いは慣れたもんだ。

この一月永遠と言われ続けた事だから。
   
紘二は興味深そうに目を細め、頼真は笑った。


「?」

「いや…本当に面白いね、君。
   そうだ、友達にならない?紘二もそう思っているって」

「………まぁ…」
   

麗玉は目を見開いた。

そして訝しげに目を細めた。


「何故って顔をしているね。本当だよ?別に何も企んではいないし。ね?」
   

麗玉はますます目を細めた。

企んでいる人に限って人の良さそうな顔をするものだ。


「…大丈夫だ。
   こいつはふわふわして掴みどころが無いし、心の底で何を思っているのかわからない不気味なやつだか、言っていることは真実だ」

「紘二…それは褒めているのかい?」

「褒めているようで褒めていない。
   出会って一月でこれだけ理解しているだけましだろ」

「んんん…それっていいのかな…?」
   

麗玉はふっと吹き出した。

この二人は多分本物だろう。

お互いを信頼しあって、いい所だけ見つめて。


「いいですよ。お友達。なりましょう」
   

頼真と紘二は顔を見合わせて微笑んだ。


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