椿姫

コレット

秘密

椿と秀麗が戻ってきた時には、広間に組連の親分衆が勢揃いして劉輝に頭を下げていた。


「嬢!どうしたんだその傷は!」

「かすっただけじゃ。大事ない 」

「嬢!?」
   

秀麗を初めとして親分衆と椿と未だに寝ている影月以外は仰天した。
   
組連の親分衆に嬢と言われ、敬語を使わぬ人が未だかつていただろうか。


「ん?あぁ。椿はね、組連の総師をやってるんだよ」

「胡蝶……言わなくても良い事を…」

「だって本当の事だろう?」
   

秀麗も初耳だったので何も言えなかった。


「椿姐さんって何者…?」

「……普通の人じゃが…?」

「まぁ、姮娥楼の看板娘で組連の総師だなんて、普通じゃないさ」
   

秀麗を初めとする初耳組が、大きく頷いた。
   
劉輝は気を取り直して、やっと起きた影月の元へと向かった。


「杜影月。黒州西華村出身。
   十二で黒州州試首席及第。今年十三で会試に挑む。
   無事及第し、余の下へと来い」

「あなたは……はい!」
   

皆がほっと息をつく中、胡蝶が手を叩いた。


「そうだ。この際だから正体を現したらどうだい?総師?」
   

そう言って目にも止まらぬ速さで椿の紗を取った。


「胡蝶っ!?」
   

はらりと紗が地面に落ちた。


「……え?………麗……玉……?」
   

麗玉はばっと袖で顔を覆った。


「み、見やるな!私…妾は麗玉などではないっ!」
   

麗玉は震えていた。
   
見られたという羞恥心と、自身の妹に恐れられるのではないかという恐怖。

さらに秀麗と絳攸は彼女が人を殺したのを見ている。


(もう…もうダメだ…!)
   

そう思った瞬間。

温かい感触が彼女のむき出しの肩に触れた。


「………え?」
   

麗玉は秀麗に抱きしめられていた。
   
秀麗はゆっくりと麗玉の頭を撫でた。


「……ありがとう。麗玉が時々夜中に帰るのも、たまに大金を持って帰ってくるのも。
   全部"椿姐さん"だったからなんだね」
   

麗玉はぽろぽろと泣きだした。

嗚咽を我慢して話そうとする。


「私…は、組連、の、総師だ、し…さっき…人、を……」

「何のこと?麗玉は何もしていないでしょう?
   気付いたら人が倒れていたのよね?
   それに総師って凄いじゃない!
   私、尊敬しちゃったもの」
   

ね?と微笑む秀麗に、麗玉は泣き崩れた。
   

ごめんね、ごめんねと謝りながら泣き疲れて寝てしまった。


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