Federal Investigation Agency Investigator・連邦捜査庁の捜査官~皇帝直属のエージェントたち~

11月光志/11月ミツシ

第6章13話

 午前零時12分。
 ス連邦を離れペルシアント惑星王国に降下してから5、6時間が過ぎようとしていた。
 伍長閣下、ルーズルート侍従長は、中央銀行の金庫室へ入るために1、2畳ほどしかない金庫を開けるための制御室で悪戦苦闘していた。
 と、言うのも、おおよそ30分前にヨシフおじいちゃんからの電話で、最大の難関であったパスワードの解除に成功し、その勢いで総裁室でルーズルートが発見していたマスターキーを使い開けることには成功した。
 だが、最大の難関はここからだったのだ。

「……。……。なぁ、まだ開きそうにないか?」
「ちょっと待ってください!」

 伍長は腕を組み、貧乏ゆすりをしている。何かに苛立っている様子だ。
 対照的にルーズルートは、制御盤に何かの端末を接続し、その画面の前で首をひねるなど、まるでゲームに熱中する中学生とその母親みたいな構造が出来上がっていた。

「……。なぁ、まだか? まだなのか!?」
「ちょっと待ってください!」

 いったい何をしているのか?

「…なぁ、まだ……」
「ちょっと待ってくださいって言っているでしょう!?」

 キレた。あの温厚なで有名なルーズルートが遂にキレた。
 いったい何がルーズルートをキレるまでに至らしめたのか、それはルーズルートが画面と睨めっこ状態になっている端末にあった。

 この端末、所謂ハッキング装置というものである。
 元々は、旧ク連時代に陸軍特殊部隊が敵の研究所や施設への潜入の際、データベース化されている情報を手に入れるために作られた装置を、崩壊後皇宮財閥が秘密裏に再設計を施し制作されたものである。
 構造は簡単で、MKⅠ(初期型)は、5つからのダミーサーバーを経由して目標に侵入し、データベースごと抜き取るという悪質極まりない方法がとられていたが、MKⅡ(後継機)は、コンピューターが軍事衛星を経由して、各惑星の衛星軌道上にある人工衛星や監視衛星から地上の目標のデータベースに侵入し、目的の物のみを抜き取るという方法が使われている。
 この構造、実はこの方法、ハッキング以外でも様々なことに悪用されている。
 国防総省が暗号解読文らしき情報を手に入れた時も、監視衛星アドルフを経由して偶然手に入った情報だった。
 そのMKⅡ。
 現在ス連内では、諜報機関のみ支給されているものである。
 何せ、警察なんかに支給したら、人権団体や国家評議会の野党どもが『プライバシーの侵害だ』だの『法人法の”法人が手に入れる公益を、他の法人や政府が侵害してはならない”に違反しているぞ!』だの騒ぎ出しそうなので、支給はされなかった。
 その代わりに各諜報機関に支給された一つに今ルーズルートが睨めっこしている端末型があった。
 しかし、この端末型、持ち運べるというメリット以外はデメリットしかない。
 例えば、ハッキングは、衛星経由は出来ず、直接つなげなければならなかったり、コンピュータが自動ハッキングしてくれるわけではないので、自分で膨大な情報の中から一つの情報を手に入れなければならないという。

「……。ああ! だめです。情報量が多すぎて、金庫室の制御コードが見つかりません!」

 遂にハッキング装置を投げ出し、orz状態に陥ってしまったルーズルート。

「おいおい、そんなに大変なのか? 金庫を開けるぐらいだろ?」

 伍長がそんなことを呟くと、ルーズルートは頭を上げ、伍長を上目で睨みつけながら答える。

「あのですね? そう簡単にいくと思いですか? 確かに内容自体は、金庫室の制御システムのコードを書き換えれば済む話ですよ? ですがね、政府の膨大な情報の中から特定の物を見つけ出すってどんな毛大変かご存知ですか? 例えるなら、ビーチの砂浜の中から砂金を手に入れるようなものですよ!?」
「ビーチに砂金って……。絶対あり得ないだろう……」
「ええ、ありえません。つまり制御盤を管理している政府のメインコンピューター内にもコードがない可能性だってあるんです。それなのに貴方ときたら、金庫を開けるぐらいだのと言って……」
「なんかすまん、確かにさっきの言葉は軽率だった。だがルーズルート、それなら連邦捜査庁の誰かが外部からハッキングしたほうがよくないか? なんでしないんだ?」
「あのですね、伍長さん。MKⅡは端末型とパソコン型の二つがあります。ですが、一般用のパソコンで軍事衛星にアクセスすることは断じて出来ません、専用のPCが必要となります。断定します。さらに軍事衛星と監視衛星は国防総省の管轄です。所謂組織の横割り問題です。内閣府、総務省、総督府、統合軍に続く権力の持ち主である国防総省に私たち連邦捜査庁が口を出せるとでもお思いですか?」
「ああ、なるほど……。」

 面倒な話、ス連でも他の国家でも縦割り行政は出来ても、横割りでの連携は今一つとれていいない。
 例えば、ある事件の容疑者の男が、秘密裏に入国しようとしているという情報を警察が入手し、空港の外で見張っていたのにも関わらず、入国管理局が先に拘束してしまい、警察の見張りは無駄に終わってしまったほどに……。
 もちろん、政治経験のある伍長も、組織の横割りは心底面倒くさかった。何せ、横との連携が取れる組織はいないことはないのだが、大体は縦との連携を重要視する。
 なので、横との連携が取れていないというのは、他人ごとではないかもしれない。

「まぁそういうことで、最近できたばっかりの連邦捜査庁には専用のPCも買えるお金なんてありませんよ。言ったらあれですが、国防総省の暗号解読文を連邦捜査庁に貸してくれたのも、陛下またはそれに近い人からのお願い(圧力)があったからと言われています。本当かどうかは陛下にしかわからいませんが……」
「な、なるほど……」

 この仕事にかかわってから、ス連邦のイメージが、立憲君主制の完璧な民主主義国家から、立憲君主という名の専制君主国家というイメージに変化してしまった伍長。(あくまでイメージです。ス連邦は安心と安全の立憲君主制の議会民主主義を推進、実行しています)

「はぁ……。わかったルーズルート、お詫びもかねて、私がそのコードを見つけ出してやろう!」
「……。別にかまいませんけど、使用方法わかるんですか?」
「いや、知らん。なので教えてくれ!」
「はぁ……」

 大きなため息を一つ吐きつつも、伍長に端末の操作方法を教えるルーズルート。
 なんだかんだで、面倒見のいいルーズルートなので、陛下や伍長などからも信頼を得ている。

「えっとですね、見つけてほしいのは『中央銀行の巨大金庫制御コード』と呼ばれるコードです。それを見つけさえしていただければ、あとは私がやります」
「わかった。見つけるだけでいいんだな……。」

 そういうと、伍長は端末をにらみつけ、膨大な情報の中から『中央銀行の巨大金庫制御コード』を見つけ出そうとする。



 数十分後……。
 ジリリリリリリと警報音が鳴り響き、金庫室と地下廊下を挟んでいた巨大な円形の金庫扉がゆっくりゆっくりと開いていく。
 あの後、伍長は思っていた以上の速さで、制御コードを見つけ出し、ルーズルートの目を白黒させたほどだった。一通り白黒させた後、金庫扉に関する情報を削除し、新たに上書きを施した。
 すると、あたりに警報音が鳴り響いたため、一瞬失敗したのかと伍長は思ったが、今言った通り金庫扉の鍵が自動的に外され、ゆっくりと開いていった。

「うーん……。こんなに早く見つけられるとは……なぜか残念です」
「悪かったな…」

 文句を垂らすルーズルートに対し、平謝りをする伍長閣下。

「はぁ、まぁいいですよ。見つけてくれただけでも良しとなります。早く行きますよ伍長さん、いろいろな意味で時間がありませんから」
「いろいろな意味とは?」

 いろいろな意味とはいろいろな意味だと思います。そうルーズルートは思った。

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