Federal Investigation Agency Investigator・連邦捜査庁の捜査官~皇帝直属のエージェントたち~

11月光志/11月ミツシ

第5章5話

 金髪の男が、公安警察警備第2課の風見川という男に連れていかれ、コンクリート打ちっぱなしの殺風景な取調室にただ一人、取調官が座る椅子に腰かけ食べかけだったかつ丼をやけくそに食らいつく伍長閣下。

「いったい…モグモグ……何なんだ!」

 かつ丼をモグモグ口に入れながらしゃべるので中の砕かれたかつ丼だったものが時折見えてきそうになるのだが、やや上を向いて食べているので結果的には見えることは無かった。

「だいたい……あれは……私達が……捕まえたものだろう!?」

 悔しさのあまりご飯を勢いよくかっ込みすぎて、ゴホゴホとむせてしまい、慌てて水をがぶ飲みした。
 だが今度は水を誤って別の場所に流し込みそうになり、ゴホゴホとむせた。……学習してねえな! ちなみに別の場所とは肺。はいではない。

「全く……。……ふぅ、ご馳走様」

 空となったどんぶりを取調室に置いといたまま伍長は誰もいない……。異常な静寂さに包まれた地下一階の廊下を歩いている。その静かさというのはまるで……そう! 嵐の前の静けさのように……。

 なお伍長が取調室に放置したどんぶりなのだが、あの取調室……。実は特殊諜報捜査局専用の取調室なので普通の取り調べには使われない。
 ……で、伍長さんが使った後、1週間ほど使われなかった。もちろんかつ丼を出した職員食堂のおばさ……お姉さんたちはてっきりもう返していると思っていたらしく、さらに特に掃除もされなかった。
 まぁ何が言いたいかというと、1週間の間現れていなかったため、取調室に異臭が漂い、別件で逮捕した男を取り調べようとしていたヨシフが異臭のせいで口からキロキロ? キラキラ? したものを吐き、またしても病院送りになってしまったことだけ伝えようと思う。



 そんな静寂が漂う地下一階のエレベーターホール。伍長閣下は風見川が金髪男を逮捕するときに言っていた、貴族追放令というものが気になっていた。
 それにバルスティアフロード家のことも個人的にだが、気になっていた。
 そして伍長は思う。

「(貴族追放令という言葉は、ス連史の中で一切語られていなかった。おそらく誰かが前に語っていた旧ク連という国に関係してくるのだろう。
 しかしそうなると、何故この国……いや、参考までに読んでいた世界各国の歴史資料を見てもク連のことはきちんと書かれており、それに共通するのは悪政を引く酷い国家だという事が共通していた。だが崩壊後スウェットフェルクロード家が何故皇位についたのか、そして王侯貴族たちがどうなったかのは書かれていなかった。……まるでそれを世界共通でそこにあった”出来事”を抹殺するために……)」

 こう見えて……というのは本人に対し少々失礼だが、伍長は旧西ドイツで首相を務めていたことがあった。そして伍長が首相になる少し前に、周辺各国や同盟国、友好国の経済・歴史・産業などを調べていたことがあった。
 趣味としてそういうのを覚えるのが好きだったというのもあるのだが、これから一国家を背負う人間として外交や国際関係は非常に重要なものである。
 特に伍長が政権を取ったときは、東西冷戦真っ盛りで、西側と東側でくっきり分かれてしまったドイツでは東側のソ連や東ドイツとどう接していくか伍長は非常に悩んだものだ。
 いかんせん、東側によりすぎると西側との関係が悪化し、逆に西側との関係強化となるとお隣の東側に何をされるかわかったもんじゃない。
 それを解決する糸口をつかむために、伍長はよく歴史を調べ外交へと持ち込もうとした。

 だが誤解してほしくないのは、伍長がやったことは今のお隣の国のように歴史をほじくり返し一度決めた条約を平気で破棄しようとかそういうものではない。
 第2次大戦で迷惑をかけた国には、二度と同じことが起こらないように深く反省し、”これからの関係”を推し進める。
 ただ反省するわけじゃない。
 反省ならば猿でもできる。だからこそその後をどうするかを考える必要がある。
 伍長は、主戦場の一つであったアフリカ諸国や中東各国と国交を結び、両国間にWIN:WINな関係を築こうとするのが目的だった。
 例えば経済発展を協力する代わりに、石油を共同で採掘するとか、そういう事である。

 だからこそ伍長は、最初の仕事がくる前まで取り寄せれるありとあらゆる本を読み、何も知識のないこの銀河系の歴史・惑星国家の数・それらの中の列強国・世界情勢・法律・その国の制度などを当たっていたのだったが……。

「(ス連邦は歴史から見ても革命によって設立された新国家だ。地球では革命によって社会主義・民主主義のいずれかになる。だがス連邦は立憲君主制…。しかもなぜスウェットフェルクロード家が皇位を付けたのだ? 
 …………う~む、さっぱりわからん」
「……。……。アドルフさん…?」
「うぉ!?」

 どうやらエレベーターに気づかぬうちに乗り込み、伍長さんたちの職場がある22階を通り過ぎ、長官室のある45階に来ていた。ただ伍長さんはエレベーターに乗ったまでは覚えていたが22階のボタンを押した記憶がなかった。
 しかしなぜ45階の長官室まで気が付かなかったのだろうか? だがその答えはエレベーターホールではっきりした。
 4つのうち2つがメンテナンス中でもう一つが1階で止まっていた。多分45階にいた人が唯一動いていなかった3号機(伍長が乗っている)が呼ばれたのだろう。
 で、その長官室がある45階にいた人物なのだが……

「大丈夫です? ボーっとしていましたけど…?」
「ははは、ええ大丈夫です。陛下」

 フェルトさんだった。
 国家のアイドルとして一部業界から言われているフェルトさん……もといフェルトベルク大天皇帝陛下。 男子と言われても信じる人はいないだろう。
 何せ彼を生んだ、両親もだんだん男子という扱いから女子という扱いになっていき、男物の服を女物の服をクローゼットで占める割合が2:8だそうだ。
 まぁこうなった理由の一つに姉のカリスマ的支配力があるからだろう。……うっ! 思い出しただけでお腹が! ……何があったかって? それは今からちょうど、10……………

「そうですか、それならよかった……。あっ! そうだそうだ、アドルフさん、ちょっとちょっと」
「え?」

 伍長さんが? マークを思い浮かべる中、フェルトさんは小さく華奢すぎる右手で伍長の手を掴みエレベーターから引き降ろした。はたから見ると娘に引っ張られる父親の絵図らである。
 その娘役か息子役かいまいちはっきりすることが出来ないフェルトさんと、地球では一応父親であった伍長さんはエレベーターホールの真正面にある重厚な木製扉の内側へと入っていった。
 そこは長官室。
 連邦捜査庁のトップである長官の執務室である。
 だが、長官が座っているはずの席は空席のまま……よく見れば部屋自体も何も置かれていない殺風景なままだった。ただ唯一置かれていた接客用のソファーに対面で座る二人。

「……。して陛下? 何故私を長官室に?」
「うんっとね、ちょっと聞かれたら不味い話だからでね。……今から言う事は関係者以外言ったらだめだよ…?」
「は、はぁ」

 また任務か……。そう心の中で思いながら伍長はため息交じりに返事した。

「今回はね、ペルシアント惑星王国の国営銀行の一つ、【パルアン・ペルシアント中央銀行】という銀行の本店でね。」
「本店で?」

 ニヤリと悪巧みをする子供みたいに笑うフェルトさん。
 そしてこう言い放った。

「銀行強盗してきてほしいんだ♪」

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