Federal Investigation Agency Investigator・連邦捜査庁の捜査官~皇帝直属のエージェントたち~

11月光志/11月ミツシ

第2章5話

 時と場所を戻して本来の世界。

 轟々と燃え盛る国営のビジネスホテルを男たちが火に動じることもなく上へ上へ上がって行った。
 彼らは、ソ連製のAKをD&T社が近代化改修を施し、弾薬の代わりに電磁砲へと魔改装させた、AK/DT-47を肩から下げ、中には医療道具が入っているのだろうか? 赤色の十字架がかけられた箱をもって上がる男もいた。

「全員、急いで登れ! 陛下や陛下を助けにいた男性を早く見つけるのだ!」
「はい!」

 階段を先頭で勢いよく上がっている隊長格の男が後ろから負けじと付いてきている部下に怒号を浴びせた。
 だが怒号に負けじと隊員が勢いよく返事をする。
 彼らの正体は、宇宙一最強と世界では言われているス連邦陸軍の特務軍第2連隊の屈強なる男たちだった。

 特務軍は正確に言えば、ス連陸軍に属するわけではなく、国防軍治安維持庁の専属部隊の一つである。
 基本的に予備役部隊として、日々訓練や演習、たまに陸軍との合同訓練を受けたりするものだ。だが彼らの本領は戦時下などの非常事態の時に活躍する。
 この世界での戦争といえば、惑星間の宇宙で宇宙艦隊対宇宙艦隊などの艦隊戦が主な戦術であり、それを空、海軍が担当している。
 陸軍は敵の惑星へと出向き、首都を落とすなどを主にしているが、正規軍が前線に行っている間、本土の守備はどうしても手薄になってしまう。
 本土の防衛は、国防省の管轄に当たるのだが、国防省とはいえ彼らは所詮お役人。パルチザン(ゲリラ)なんかには抵抗できやしない。
 そこで作られた下部組織に、国防軍治安維持庁が作られ。
 特務軍は、テロの鎮圧や、反乱軍の鎮圧、そして皇居の守備に充てられていた。
 で、今回彼らが来たのは、皇帝陛下が泊っている宿での火事ということで、テロの恐れもあり彼らの出動が決定された。主に上層部で…

 話を戻すがその特務軍の第2連隊の屈強なる男たちは階段を駆け足で上がっていた。
 第2連隊の中の12人ほどが階段を駆け上がり、2人を救出し、残りは下で消火作業やけが人の手当て、そして火災の原因究明を進めていた。

「隊長!」
「どうした!?」

 部下の一人が突然大声で隊長を呼んだ。
 隊長は振り向かずに、階段を駆け上がる足を止めぬまま返事をした。
 その階段内は煙が充満するのみで、ガスマスクをはめている彼らにとって煙は大したことなかった。だが、廊下はひどい状態だった。
 火はもう30階まで迫る勢いで遅延し、壁の一部がはがれ、なぎ倒れていた。

「が、ガスマスクが! 機能を失い始めました!」
「なに!? 何があった!」
「わかりません! 不具合があったのかと…」

 隊長はその足を27階の踊り場で止めた。数人の部下たちも同じように止まっていた。
 そしてその部下の中から、一人の若者が出てきた。
 隊長はその若者が着用していたガスマスクをひったくり、フィルターを確認する。

「…。おい! これは使い物にならなくなった! 誰か予備を持っている奴はいるか!?」

 これに答えたのは一番最後尾にいた看護・衛生兵の一人だった。

「ないことはないですが…。この2つは陛下と助けに行った男性用のマスクです!」
「くそっ…」

 彼は悩んだ。必死に考えた。
 救助対象者をの片方を見捨て、部下の命を守るか…。それか救助対象者の2人を助け、自分の部下を見捨てるか…。
 彼は数十秒考えた末、

「わかった! ……! 俺のガスマスクをやる、それを使え!」

 なんと自分のマスクを差し出した。

「し、しかし…」
「構わん! いいからつけとけ! 行くぞ!」

 若者に自分のマスクを押し付け、隊長は再び会談を駆け上がりだした。
 それに慌ててついていく部下たち。
 ガスマスクがなくなり、息が苦しくなっていく中、彼は必死に上へ上へと上って行った。

 28階…29階…30階!
 ようやくVIPルームのある30階へとたどり着いた男たち。
 だが、ルートは一方通行に限られていた。右側から回るルート…つまり反時計ルートは火によって崩れた壁により道がふさがっている状態だった。
 しかし! なんとまぁ運が良いことに、時計回りルートが偶然、そう火の手に落ちていなかった。
 彼らはそのルートを使いVIPルームの出入り口へと向かった。
 廊下から見える外の景色は混沌としている。
 特務軍の持ってきた装甲車や、奥の方に戦車、そして大きなバス。消防もいつの間にかやってきており、消火活動へといそしんでいる、一緒に来た救急車は怪我人(重傷者)から運んで行った。
 よく見れば警察の姿も見える。
 規制線を張り、交通整理を行っているようだった。

 部屋の入口へとやってきた彼らだが、扉が開いていることに気が付いた。
 中を覗いてみるが人がいる気配がない。

「隊長!」

 付近の廊下で捜索していた一人の部下が雄たけびともとれるほどの大声を出して隊長を呼んだ。

「どうした?!」
「救助対象者! 2名! 発見しました!」
「分かった! すぐに行く!」

 隊長は顔色を変え、廊下へと飛び出した。煙が充満する部屋を飛び出していったん息を吸う。
 そして発見した部下のもとへ駆け寄った。
 だがその部下は顔を真っ青にして呆然と立ち尽くしていた。
 隊長はその部下の表情を一瞬訝しんだが、その状態を見た瞬間、顔をしかめた。

「これは…」

 彼らが見たもの、それは…

 伍長と思わしき男性が、白銀の髪の少女…いや大天皇帝陛下をかばうように覆いかぶ去っている状態だったが、彼、伍長の頭の一部から血がドクドクと流れており、血だまりを作っていた。
 その理由は簡単、頭に倒れてきた壁が直撃したのだ。
 覆いかぶさっているのもとっさに彼がとった行動なのだろう。
 隊長は伍長に敬意を表すため敬礼をし、運び出そうとしたその刹那!

「なっ! い、生きているぞ!」

 かすかに伍長の親指が動いたのだ!
 その動きを隊長はしっかりと見ていたのだ! 隊長はすぐに二人に駆け寄り、二人の脈を測る。
 特務軍…というより国防軍治安維持庁の職員は、全員基礎的な医療技術を叩き込まれていた。もちろん彼らも同じである。
 そして、2人の脈は…わずかながら動いていた。
 だが、その脈は異常なほど遅く、まずい状態を物語っていた。

「! 看護兵! 担架を準備しろ!」

 看護兵が奥から駆け寄ってき、組み立て式の単価に伍長を乗せ括り付けた。
 頭の傷には包帯を押し当て、ガスマスクと酸素マスクを掛け合わせた特殊マスクをつける。

「よし! お前とお前とお前は看護兵をカバーする形でホテルを脱出しろ! おい! もう一つ担架を持ってこい!」

 3人の部下を指名し、その命を受けた部下たちは、担架を担いだ看護兵たちをカバーするように廊下の奥へと消えていった。
 そして入れ替わるように、別の看護兵が組み立て式の少し小さな担架を持ってきた。
 隊長は皇帝の体をがれきの中から救い上げる。
 10代の男の子にしては幼い顔つきにも見え、一見すれば完全に少女である。
 どこにでもありそうな、ありきたりな寝間着を着ており、男の子なのになぜかいい匂いをしていた。不思議なことである。
 そんな華奢な体を担架に置き、しっかりと固定して、彼らは撤退していった。




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