女嫌いと男嫌いの勘違い青春

あさにゃん

26.休戦

時刻は午後6時頃。

とある部屋の中長テーブルを挟み向かい合う男女。

異様な緊張感が漂う部屋。この男女は激しく口論していた。

文子
(ど、どこで…それを?)

雄也
(ふふ、教えてあげませんよ)

文子
(それって……か、花蓮の?)

雄也
(そうですよ。中確認します?)

文子
(あなたは一体どこでそれを………)

雄也
(ふふふ…どうでしょうね?)

実際この部屋の中では現在会話、ひいては言葉一つしていないのだが、この二人は目線と表情だけで会話をしている。

二人の中には一切の温かみをもった感情などない。

文子
(………………………)

先程までは文子が一歩もニ歩も優位な立場であったが、今や完全に互角。いや、雄也が逆転した程に戦況は傾いた。

雄也
(この流れを逃したら次はない!ここで畳み掛ける!)

雄也は花蓮の手帳をおもむろに持ち上げた。

雄也
「これが世の中出回ったら大変じゃないかな?」

文子
「………」

雄也
「そうですよね?それで理事長先生?どうしますか?」

雄也はとても気分がいい。気分が良すぎて先程までタメ口を聞いたり、相手は歳上なのに掴みかかる勢いで暴言などを大変失礼な態度から一転。

嫌味を感じされる丁寧な口調になった。

雄也
「因みに『まだ』誰にも見せてませんよ?」

この『まだ』と言うところを強く強調する。
これには「俺の話を聞いてくれないと皆にばらす」と言う意味がある。

そのことをわかったいる文子はただ黙るしかなかった。

雄也
「ちなみにちゃんと昨日の内に、この内容はパソコンで保存してバックアップしてますか」

もちろん嘘だ。大嘘だ、

確かに拾ったのは昨日。しかしその存在、内容については今朝知ったばかり、学園内じゃ人目もあるため携帯で撮影するのも無理。

しかし、監視でもしていない限りわからないことだ。確かめるすべがない。

監視の一つや二つこの女ならやりかねないと思っても見たがこの反応からすると、この嘘を事実ととらえているだろう。

雄也
「では、正式な話し合いと行きましょうか?」

文子
「何が望み?」

絶望したよう• •な目で睨みつけてくる。

雄也
「婚約の解消。今後あなた自身がちょっかいをかけてこないこと。この2つです」

文子
「…それは無理だ。もう婚約については大大的に発表している」

雄也
「そうか、なら時期を見計らって解消で妥協する」

文子
「なら学園卒業までに解消って事ではどうだ?」

不思議と驚かなかった。既に婚約を発表しているとは思わなかったが、「まぁ、この女ならやりかねない」とすぐに思い直したからだ。

それに、発表したてですぐに婚約破棄!などとなると柊だけでなく草彅の信用問題にもつながるから、この結果はありがたかった。

雄也
「しかし、学園卒業までとなると、そちらのお孫さんに迷惑がかかるんじゃ?」

雄也は完全に冷静になっていた。もう、怒りな炎などは完全に鎮火した。こうして普段の日常生活の会話というほど気楽さがある。

文子
「そうだね。君だからもう隠すのはやめよう。確かに花蓮は男が嫌いだ。君の女嫌いと一緒でね」

文子ももう、諦めたのかさっきまで言葉一つ一つに込められていた棘が鳴りを潜めた丁寧で優しい口調だ。

文子
「だから、あの子を守ってやってほしいんだ」

雄也
「……。知ってるとお思いですが、俺女嫌いなんですが?なんで積極的に関わらないといけないんですか?てか、そもそもなぜ俺なんですか?」

文子
「当然の質問だよ。それは君が女嫌いだからだよ」

雄也
「………言ってる意味が分かりませが?」 

文子
「君は花蓮のことを変な目で見ないだろ?なかには花蓮の事を卑下た目で見るやからが多くてね」 

雄也
「まぁー、確かに襲おうとは思いませんね」

文子
「君は特に襲えない事情があるものね?」

雄也
「そこまで知ってるんですか…情報源は爺ですか?」

文子
「ふふ、どうだろうね?話を戻すわよ。だからそんなやからから守るためにも……ね?」

雄也
「俺の名前を使おうってんですか?」

文子
「そうそう!話が早いじゃない」

雄也
「…それには結論が出ています。はっきり言って嫌です」

文子
「それは…なぜなの?今のあなたなら分かるでしょ?利害は一致しているのよ?」

少し文子の感情に怒りが現れた。

雄也
「確かに逆の立場なら俺も強く勧めていたですね。しかし、理屈ではどうしようはもないときもあるんです」

それを諭すように語る雄也。その態度が気にいらなかった文子は怒鳴りつける。

文子
「確かにあなた達の感情はよく分からないわ。あなたの方が私よりも花蓮の気持ちを理解できる事も。それでも、それでも!花蓮が大切なの!」

ここまで感情を出した文子に雄也は驚く。

雄也
「…そこまで言うなら分かりました。婚約は学園卒業までに破棄してもらせるなら俺の名前くらい貸しますよ」

キーンコーンカーンコーン

完全下校のチャイムだ。時計を見ると7時を回っていた。

雄也
「ちょうどいい時間ですね。ではこの手帳返しときます」

文子
「あ、ありがとう。でも、いいの?これを奪い返したらさっきまでの話はなしで強引に婚約を進めるけど」

雄也
「内容は保存しているので、それにいつまでもそんな物騒なのは持っていたくありません」

文子は呆気にとられた表情を見せる

文子
「ふふふ。そうねそうだったわね」

なにがそんなにおかしいのか?

雄也
「この話は柊花蓮にもするんですか?」

文子
「そうね、婚約同士のときは何かと演技をするかもしれないから話すわ。何か不都合でも?」

雄也
「いや、ない。むしろ気を使わなくてすむからそれでいい。柊花蓮への説明は任せていいんだよな?」

文子
「あなた猫被りだものね。ええ。任せて」

雄也
「フン、それじゃ」

鼻で軽く笑い飛ばし入り口へ歩いていく。

若干入り口のドアノブをひねる事に躊躇したがすぐに退室していった雄也。



下駄箱から玄関へ靴を履き替えながら思う。

自分はなんで何な事を承諾してしまったのか。今思えばやり方はいくらでもあった。

別に婚約したからっていつもと同じ態度を取ればいいだけだし、時期を見計らって解消する事もできただろう。

面倒事に巻き込まれることは疲れるからいやだ。

しかし、思い出す。

「花蓮が大切なの!」

あの時言った言葉それは心の悲鳴だった。この言葉は文子の本心なのだと。

それに思い返してみれば今までの会話全てが柊花蓮のためにあることしかこの女は言っていないことに今更ながら気づいた。

もちろんそれだけじゃないだろう。そんなことは分かっている。これからさらなる面倒事に巻き込まらることも分かっていた。

でも、これがこの話の核心部分だと柊文子の眼は雄弁に物語っていた。

そうだ、単純に負けたのだ。思いの強さに。

あの手帳は返してしまった。もう一度婚約の話を持ち出されたらもう対処はできない。

でも、雄也には確信があった。「あの女は約束を守るだろうと」

雄也
「は、この俺が女を信じる日が来るなんてな……」

どこか諦めの半ばヤケクソみたいな雰囲気をかもし出している雄也だったが、


その表情はどこか晴れやかだった…


大輝
「主人。どうでしたか?首尾の方は?」

柊家の執事兼秘書の竹林大輝が雄也が出ていったすぐ後に入室してくる。

文子
「ええ、まずまずね。全てが予定通りよ」

大輝
「それはよろしゅうございました」

そう、全てが予定通り。学年が上がりクラスが同じになるのも、二人でクラス委員になる事も、二人で閉じ込められるのも、全ては文子の計算通りに動いていた。

計算外といえば思った以上に彼が優しかった事だろう。

まさか、花蓮の手帳を返すとは思わなかった。いや、返して貰おうとはしていたが彼から返してきたのが以外だった。

そのことがおかしくてついあの時は笑ってしまった。

大輝
「しかし、主人も人が悪い。手帳の内容を本当に保存されているという演技するとは。あれは笑いました」

そう、文子は本当は保存もバックアップもされていないことを知っていた上で演技していた。

騙されたふりをしていた。なんでそんなことを知っているかって?それは、ひ、み、つ。
ヒントを出すなら監視カメラかな♪

大輝
「彼なら大丈夫でしょうか?」

文子
「そうね、これからどうなるかわからないけど…」

一度区切り

理事長室にある窓までどうする。その先にいるのは雄也…

文子
「期待してるわ」



           次に続く


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