女嫌いと男嫌いの勘違い青春

あさにゃん

13.走り出す雄也

ーーービューん

花蓮
「草彅くーん」

花蓮
(本当に飛び降りた!)

花蓮
「ちょっと大丈夫なの?…草彅君!」

しかし、返事は返ってこない。

花蓮は雄也が飛び降りた窓から少し身を乗り出し、下を覗き込んでいる。

しかし、辺りは暗く、上から覗き込んだだけでは、よく分からない。

花蓮
「ちょっと!目の前で自殺なんて笑えないわよ!」

窓のふちを強く握り精一杯の声で叫ぶさけ 



4階から飛び降りた雄也は地面に横たわっていた。近くには先程、木に投げ入れた合板状の机が転がっている。

雄也
「思った以上にバランス、とれなかったな」

右肩を抑えながら独り喋る雄也。

花蓮
「ちょっと!目の前で自殺なんて笑えないわよ!」

上から柊花蓮の声が聞こえる。

雄也
「俺だってまだ死にたくないねーよ」

普段の強気な態度(本人は自覚してないが)から想像できない弱々しい声で独り愚痴る。

なんとか体を起こし必死に立ち上がろうとする雄也は、立ち上がろうとしたところで自分の体で異常が起きていることを感じた。

雄也
(って!…これは肩やってるなー)

地面に手をついた時に急激な痛みがはしったのだった。

飛び降りたときに肩を強打したことは考えるまでもない。

そして、雄也はこの痛みの正体を知っていた。

それは『脱臼』だ。

雄也
(脱臼なんていつぶりだろうな…)

木に背中を預け遠い昔の事を思い出す雄也。

人気が全く感じられない道場らしき場所に…そこに、幼い雄也が仰向けに寝転がり激しく息を切らす姿がある。その、雄也のすぐ横で腕を組み仁王立ちで佇んでいるかなり険しい顔つきの初老。

熱気で畳から湯気のような陽炎かげろうとセミの鳴き声で、幻想的ともいえる風景だ、

雄也は昔からそれも小学校にあがるまえから色々の事を祖父に教えられていた。

文学 日本史礼 儀作法など、この社会いや草彅家に必要な事を様々学んできた。

その中には武術なども含まれていた。世界に六十以上あると言われる武術を雄也は散々叩き込まれていたのだ。

そして当然スポーツでもなんでも怪我が付きものである。

それ故に昔から怪我が絶えなかった雄也は怪我の処置をある程度自分でできるようになった。

雄也
「やるか…」

雄也はかなり覚悟を決めたような声で気合のようなものをいれて、

左手で抑えていた右肩を強く握り直し…

雄也
「…っ!」

一気に険しい顔つきになる雄也。

雄也
「ハァーハァー」

息もだいぶ上がっているようだ。

雄也
(久々だと痛いな)

雄也がやったことはいたって簡単。

脱臼とはざっくりと言うと骨が外れたに過ぎない。だから痛い。

なら、治すのは簡単だ。外れてしまった骨をもとの場所に戻せばいい。

言ってることは簡単だ。しかし、いざそれを実行できるからとうと、そうではない。

外れたにときに痛みが生じれば、元に戻すときも痛みが生じる。それに怪我に慣れていないものだとパニックになり自分では治すことができない。

しかし雄也は分かっていた。

どのみち、外れている状態でも治すときでも痛いんだ。なら痛みは短い方がいいだろう

と。

別に変なことは言っていない(あくまで雄也は)。それに、雄也だけではなく、ボクシングや柔道、レスリングなど格闘スポーツなどをやっているプロは、脱臼をした場合自分で即座に治すことがある。

という話も少なくはない。 

つまり『肉を切らせて骨を経つ』作戦だ。

しかし、久しぶりということもあり随分と時間がかかってしまった。

こんな所で時間をくっているわけには行かない。

雄也
(鍛え直さないとな…)

まだ痛む右肩をさすりながら体にムチを入れなんとか立ち上がる雄也。

花蓮
「ちょっと!聞こえないの!ねー!」

うるさい。さっきから上でとてもうるさい。

脱臼で苦しんでいるときも空気を読まず大声で叫んでいた花蓮に雄也は八つ当たりにも近い怒りを覚えた。

こっちはこっちで大変なんだよ。人の気も知る由もないくせに。…よし!ここはひとつ嫌味を言っとくか。

雄也
「おーい!こっちは大丈夫だ!今からその部屋の扉の前に移動する!」

少し声を張り自分の無事を伝える。

花蓮
「!無事なのよね!」

それに、より一層今までより声が大きくなり返事返す。

雄也
(ここからだ…)

花蓮
「まったく!無茶なこ…」

雄也
「だから俺が行くまで漏らすんじゃねーぞー」

花蓮
「なっ!」

ふふふ、あの驚きよう…ふふふ

今の雄也を傍から見ていれば、とてつもなく小さい男にしか見えないだろう。

……………
………


雄也
(まぁー…ホントに漏らされるのはアイツの対面的にも社会的にもマズいからな。急ぐか)

しかし、そうではない。雄也は口ではなんと言おうとも、決して困っている人を見捨てないような性格をしている。

全く…男のツンデレって誰得だよって話だよな…

そして、学園の敷地内を走り出す雄也。

その背中には烈火の如く柊花蓮の罵倒にも似た声が浴びせられていたが雄也は気にすることもなく走る続ける。

しかし、

まだ知らなかった。

雄也がとったこの行動が、

今後雄也の学園生活に大きな支障をもたらす選択だったことを

…まだ知らなかった。



            次に続く

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