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どストライクの君へこの愛をあげる

艫火

1日目:春より夏より冬より秋だろ


目覚まし時計をセットしないのはいつもの事だと言い聞かせて焼けたトーストを口に放り込む。

まさかの入学式での大遅刻。

遊夜はぼーっと居間の時計を眺めながらいびきが聞こえてくる母の寝室に目を向けた。

静かにドアを開けると化粧を落としたところで限界だったのか手にはコットンが握られていた。

遊夜はコットンを手から取り腰までかかっていた布団を肩まで掛けてあげるとそのまま静かに部屋を出た。



「おいカス」

「姉ちゃんに向かってカスはねぇだろ」

「またぐーたら寝てたのか」

「……バイトいってくるわ」

「せめて顔洗ってけよ汚ぇな」



炸裂する弟の悪口に笑顔で答える遊夜。

それを相変わらず冷たい目で睨みつけると雅はさっさと階段を登って部屋へと入って行った。

連れないねぇー…。

歯を磨こうと遊夜は洗面台へ行くが先にトーストを食べたことを思い出してしばらく思考が止まった。















「おっはー」

「ゆーちゃーん!遅いー!」

「いや、30分前だぞ」

「はーやーくぅー!」

「もう出来上がってんの?この人」



遊夜がさっさと制服に着替えると酔っぱらっているであろう男の人がちょいちょいと手招きしてきた。

それを軽くスルーしてさっさと厨房に入ると大きな声で遊夜は挨拶をした。

同時にあちこちこら聞こえる挨拶の声に注文の声を脳に焼き付けるとポケットに閉まってあったバンダナを頭に巻いた。

ギュッ!とこみかみを強く圧迫する感覚にスイッチが入ったのか並んだオーダーを流し目で見ると人の合間をすり抜けた。



「5番テーブル作ります!盛り付けよろしくお願いします!」

「8番テーブルは残り3品だ!そのままそこに居んなら引き継げ!」

「はい!」

「入学おめっとさん!これでお前を正式に雇える…うぅ…長かった…」

「店長、肉焦げるんでちゃんとして下さい」



嬉しそうに喋る店長の手が止まると遊夜は肘で脇腹をどついた。

未成年だから、と昼の時間しか雇えなかったが高校生にもなり働ける時間が大幅に延び、遊夜も店長も万々歳だった。

こき使えるぞー!と笑う店長に「それが本音か」とつい小さくだが突っ込んでしまった。

それからはフル稼働で働いた。



「なんで居酒屋なんかなー」

「何がっすか?」

「いや、ゆーちゃんなんでここにしたの?」

「ああ、店長のおっさんとうちの母さん同級生なんすよ、しかも店長うちの母さんに惚れてたらしくて」

「おお!なにそれちょーおもしれぇ!!…ってまさか店長ずっと独身なのって…」

「……まだ…惚れてたり…じゃないっすかねぇ…」

「うおおおお!やべぇー!店長けなげぇぇぇ!」



1つ上の先輩とまかないを食べながら休憩していると何故がそんな会話になり口が開いた。

言ったらダメなやつだったかな、と口の軽い先輩を見て遊夜は不安になったが休憩が終わる頃にはそんなことなどすっかり忘れていた。

途中ニヤニヤと店長を見る先輩が目に入っては思い出したが。














「あざーしたー、お疲れ様ですーお先に失礼します」

「おー、明日も頼むぞー」

「へーい」



帰りにコンビニでご飯でも買ってくか、と遊夜は肩を回しながら歩道を歩いた。

21時半を指す腕時計に気付いて雅に連絡を取る。

飯のことを聞こうとしたが母さんから写真が添付されていた。

そこにはおでんを食べる母さんに雅、お店の女の子達がいた。

定休日のことなどすっかり忘れていた、と家とは逆に歩いていた足を返してコンビニを背中に歩き出した。

小さくしたうちをして少しだけ足を早める。

おでんが食べたいという気持ちは強くなり軽く吹く風さえも冷たく感じた。



「やっ…ださい!」

「は?…なに?」

「やめてください!!」



ハッキリと聞こえた声に思わず肩がビクついた。

え?なに?え?カツアゲ?

近くの公園、にしては距離があると遊夜が周りをキョロキョロしていると丁度公園近くの散歩道にうっすらと白い上着が見えた。

ゆっくり足音を立てずに街灯に近付いては会話を聞こうと耳を澄ませる。



「調子乗ってんじゃねぇよブス!!」

「何が“男待ってます”だよ!あ?だったら呼べってんだよ!」

「や!やめてください!痛いです!」



ほほーう。

典型的なものですね。

遊夜はカバンを背負い直すとポケットからスマホを取り出す。

そして軽くいじってから3人の背後に忍び寄る。

女の人は気が付いたようだが気付かないふりをしてくれたおかげで遊夜は男の間へと体を滑り込ませた。



「あ、もしもし警察ですか?なんかへんなヤロー2人が人の彼女に乱暴してるみたいなんですよ」

「っだテメェ!嘘ぶっこいてんじゃーーー」

「変わるか?」



遊夜がスマホを見せるとそこには“警察”の文字。

電話番号も間違いなく110に繋がっている。

おまけにスマホの向こうでは男の野太い声でもしもしと連呼されている。

慌てて逃げる男に死ね!と暴言を吐かれて遊夜はガキかと呆れた。



「すみません、今逃げ出して…ええ、はい、彼女も無事です、はい、ありがとうございます、はい、失礼します」

「あ、あの…」

「ん?」

「ありがとうございました」

「ああ、いいよ」

「何かお礼を…」

「え、うーん…」



遊夜は女の子を上から下まで見ると大学生かな?と勝手に解釈した。

そしてアルコール割引券と招待券の2枚を渡してこれ使ってくれたらいいよ、と笑った。

最後に気をつけて帰れよ!と女の子の肩を叩いて街灯が照らす中遊夜は走って帰った。

1人ポツンと残された女の子は渡された件2枚を大事そうに持つとほっ…と息を吐いた。



「かっこ、いい…女の人…」



ゆっくりと唇に指を持っていくと“好き”と動いた。




















「………なにこれ」

「餅だよ」

「餅しかねぇじゃん!!」

「遊夜遅かったね、何したのさー」



やだーと笑うお店の女の子達に突っ込む気もなくて遊夜は悲しくおでんの味が染み付いた餅を胃に流し込んだ。

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