(囲碁)読書部、はじめました!

巫夏希

第一話 ①

「私の名前は押井美保。ま、気軽に美保先輩と呼んでよ。二年一組ね」
「俺の名前は根本修司。根本先輩と呼んでくれ。……ちなみに三年三組だ」
「あれ? 二人だけなんですか、この部活って。あ、僕の名前は田口啓介です。一年四組です」
「この部活は十名居るけど、兼部オッケーだし、そもそも幽霊部員が八割を占めているからねえ」
「要するに物好きしか集まらない部活、ってことだ。たまにやってはくるけどね」
「……あれ、もしかして場所間違えた説?」
「いやいや! そんなこと言わないで! ってかあなたたちももっと何か言うことあるでしょう!? この部活の良いところとか良いところとか良いところとか!」
「と、言われましても」
「大会とか特に無いから部活時間中に試験勉強が出来ることぐらい?」
「そんなことを言うと思ったので私、さっそく準備してきましたよっ!」

 如月先生はそう言うと、あるチラシを取り出した。
 それをじろじろと見始める学生たち。

「囲碁選手権大会新人戦……?」
「六月に開催……? 二ヶ月後、よね。これ」
「正解! 囲碁選手権大会に私たち読書部が参加することになりましたっ! ってかそういうことにしましたっ!」

 読書部。
 部活名はそういうことになっているけれど、実際は読書だけではなく、百人一首や将棋、囲碁など、先生の担当教科が国語だからか、様々なボードゲームを嗜んでいる。
 そして、なんとなくうまく合致したのが、囲碁だった。
 囲碁のルールは単純で、簡単に言ってしまえば陣取り合戦だ。最後に取った陣地の多い方が勝ち。こんなにシンプルなボードゲームはあまり無い。しかし囲碁の決着はそれ故に案外時間がかかってしまう。非常に難しいものなのだ。

「……で、誰が参加するわけ? まともに強いのって、それこそ部長ぐらいのもんじゃん」

 そう言ったのは美保だった。
 しかし、それを否定するように、首を何度も横に振る如月先生。

「そんなことは無いわよっ! 何せ、これは『部活動』で応募出来るからね。しかも二名から応募可能。最悪、仮入部がゼロでもなんとかなるわ」
「それを仮入部員がいる前で言う話かね……。まあ、幽霊部員が多いから致し方ない話ではあるけれど」
「……ま、別に良いじゃないっ。ところで、今日は何をするのかな? するのかなっ? 五目並べをしているみたいだけれど、どっちが強いの?」
「つーか、聞かなくても分かる話でしょ。部長に敵う相手なんて居ないって。まいっちだってそれも分かってるっしょ」
「それもそうだけれど……。実際、私は囲碁の段を持っているわけじゃないし、唯一持っている美術の金田先生も十五級だからね……。でもまあ、参加賞で二十五級は貰えるし、それは就職や進学の時に役立つからおすすめだよ」
「……就職に使えるの?」
「漢検や英検みたいなものよっ。TOEICのスコアにも同じことが言えるかな」
「TOEICね……。まあ、参加賞でも級が貰えるなら、参加しても良いかな。囲碁は今のところ、少し面白いし」
「でしょでしょっ! だったらやってみましょっ!」

 ぴょんぴょんと跳ねながら彼女は言う。こう見ると小動物のそれに見えてもおかしくないぐらいだし、そりゃ学生も彼女をそのように扱う(あくまで敬意を持って)に違いなかった。


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