魔術学院の二重奏者

田村タム助

君が為の殺意

「さあ、今日も勝負してもらいますよ!■■■!」
「えー、またー?」
彼は気怠そうに応え、しかし愉しそうに笑い起き上がる。
「いいよ。今日こそ勝てるといいねぇ」
「今日こそ勝ってみせるのですよ!」
2人が向かう先は施設にある第2実戦場。何も無いただの広い部屋だが、壁や床には対魔術や耐衝撃用の障壁が張られている。
「カウントは3からいきますよ」
「おっけー」
「3」
「2」
「「1」」
ゼロ。
先手必勝。全力で走り込みながら自分の1m前方に虚像を生み出す。
罠にかかった彼は近づいてきた虚像に拳を突き出し、空振ってバランスを崩した。そこにそっと触れてすぐに勝負は着いた。
──そう思われた。
「おしいねぇ。虚像を防御だけじゃなくて攻撃に使う作戦は良かった。でもね」
後ろから羽交い締めにしてナイフを首筋に当てる。
「虚像を作るっていう手を見たからねー、俺も使ってみたくなっちゃってさ」
敵わない、この時改めて思い知った。
彼の名は神の子アダム。いや、本名は別にあるのだろうが、私はこの名前しか知らない。
彼はとても強大で、いつも愉しそうだった。

ある時彼は力の大部分を失った。
それまでの愉しそうな表情は減り、代わりに辛そうな表情が目立ってきた。失った力の分を埋めるようにしていた努力、その必死さを私は醜いとすら思っていた。
しかし、努力する彼を見ているうちに放っておけなくなり、その気持ちはいつの間にか愛に変化していた。そして最初に感じた嫌悪は彼から力を奪った、彼の姿をした何者か、いや、悪魔に移っていった。

彼が見せる辛そうな顔を見る度、何とかしたいという気持ちが募っていく。しかし私はこれまで壊すこと、殺すことばかり習ってきたせいでこんな時どうすればいいのかわからなかった。
悩みに悩んだ末、私は彼を殺すことで辛い思いをしないといけない世界から解放するという結論に至った。
その結論に至った次の日、彼は施設を飛び出した。
ある1人の少女を連れて。

「あーあ。殺したら救えると思っていたのですけれど……」
彼のあの顔。そこに以前のような辛い表情はなかった。
「もう、殺さなくていいんですね……」
そう呟く逆流リバーサルの顔には少し寂しさが滲んでいたが、綺麗な笑顔が浮かんでいた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品