魔術学院の二重奏者

田村タム助

逆流

名前も話し方も、何もかも変わっていたけれどやはり彼は彼のままだった。魔力を視る確かな眼と、よく見える故の重度の魔力フェチ。
彼の根幹の部分は何も変わっていなかった。ああ。貴方を愛してる。私を愛して。もっと愛したいころしたいもっと側にいたいころしたいもっと貴方の愛が欲しいころしたいもっと貴方が欲しいころしたいもっと殺したいころしたい
「もう少し待っいてくださいね、先輩♡」
─────────────────────
「おい、どうかしたか?」
2限と3限の間の10分休み。
「いや、なんだか寒気が……」
「大丈夫か?熱は?」
「心配してくれてありがとう、でも大丈夫だよ。だからちょっと離れて」
彼は慌てて離れる。
「あ、悪い」
そこで顔を赤くしないで欲しいな……
「2人とも、仲がいいのね」
ホムラがえらくほほえましげにしている。
「あ、紹介するね。この自称イケメンは真壁バーバリアンくん。イギリスと日本のハーフだって」
「挨拶が遅れたな、よろしく」
「あ、どうも」
「いやー。にしても綺麗な髪してるよねー、ホムラちゃんって。赤い髪、、、なんて日本じゃ珍しいんじゃないの?」
「確かにね。日本はだいたい黒か茶色だから日本人じゃないのかと思ったけど、そうでもないのかな?」
「ああ。それはね、うちの父は日本人なんだけど母が外国生まれなのよ。だからじゃないかな」
なるほど。
「おい、グラウンドの方見ろ!」
クラスがにわかに騒がしくなる。
「どういうこと!?なんでムツミが二人いるの!?」
「私が2人?何言ってるの、みんな?」
窓から外を見ると、ムツミ(さっきソウトに詰め寄ってた人)がグラウンドを突っ切り走ってきていた。とても焦ったような顔をしている。
「(まさか…)」
「あ、気づいちゃいました?セ・ン・パ・イ♡」
「君なのか?逆流リバーサル
「はぁい、先輩の頼れる後輩、逆流ですよ?」
ムツミの姿がぼやけ、次の瞬間見知らぬ茶髪の少女に変わる。
「せ、先輩?この子、今年の一年次とかなのか?」
また騒がしくなるクラスを余所にソウトと少女は話を進める。
「久しぶりだね、逆流。もう8年ぶりとかじゃないか?」
「もー、違いますよ先輩。8年と3ヶ月17日ぶりですよぅ」
「相変わらず細かいね。それで」
ソウトの声が1トーン下がる。
「僕になんの用かな、僕の前に顔を出すなと言った気がするんだけど」
「それでも私は貴方を愛してるんです。だったら少しくらい言いつけを破ってでも愛してもらいたいのが普通ではありませんか?」
二人の間に火花が散る。というより、ソウトが1方的に敵意を向けている。
そんな空気を読むことが出来ないのか、はたまた読んであえて行動したのか。クラス一のチャラ男と言われる男がが少女、もとい逆流に声をかけた。
「ねーねー、君かわいいね?何歳?どこ生まれ?」
しかし、逆流は一切反応を示さない。それどころかずっとソウトに好意を飛ばしている。
これまで声をかけた女子に無視されたことがなかったのであろうチャラ男のプライドはズタズタだ。
「おい、無視かよ。俺が声掛けてんだからちっとは反応しろよ。おい、聞いてんのか!」
「五月蝿い羽虫が飛んでますね」
次の瞬間、チャラ男が消えた。いや、視認できない速度で教室の端まで吹き飛ばされたのだ。
「治癒魔術が使える人はその人の手当を!急いで!」
次いで教室はパニックに陥った。
教室の外に逃げようとする人、チャラ男の手当をしようとする人、怖気付いて立ち竦む人。
「《炎よ ここに現われ 》……」
「ダメだ!彼女に魔術を打ち込まないで!」
「何言ってやがんだ!お前の知り合いかもしれねぇが、こちとらダチを殺されかけたんだ!庇うならお前ごと同じ目に遭わせてやる!」
違う、そうじゃない。
「やめろ、死ぬぞ!」
ソウトの剣幕に教室が静まる。
「僕は彼女を知ってる。彼女の固有術式オリジナルも、彼女の目的も」
逆流に向き直す。
「どうせ僕を殺しに来たんだろう?」
「違いますよぅ、あいしに来たんですよぅ。さあ先輩、あいしあいましょう♡」

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