魔術学院の二重奏者

田村タム助

趣味

「えっとですね……急で私もよく分からないんですけど」
教室内は予想外の来客でざわついていた。
「先程も自己紹介しましたが、改めて。
急遽このクラスで1年間講義を受けることになりました三上ホムラです。これからよろしくお願いします」
「まあ、そういうことです。皆さん、仲良くしてくださいね」
そういうことって言われても……
そんな僕の気持ちをよそに、クラスのよくおしゃべりする女子がとても楽しそうに質問していた。
「せんせー、仲良くするのはいいですけど、仲良くしすぎるのはどうでしょうか?」
「えっと……つまり?」
「たとえば、公衆の面前で急にナンパしたりとか!」
全員の視線が僕に向く。
三上さんの視線は特に痛い。
「だ、だからそんなつもりは無かったって言ったじゃん!」
「じゃあどういうつもりなのさ?」
「そ、それは……」
女子のニヤニヤが加速する。
「ほらほら、素直に言っちゃいなよ。一目惚れしましたー、ってさ!」
「だから違うって!」
「じゃあホムラちゃんの事見て見た目に関して何も感じなかったって誓える?」
こ、この人、強敵だ!今朝の三下くんなんて足下にも及ばないほどの!
「何も思わなかったわけじゃないよ、だけど僕が言ったのは魔力のことだよ!」
「魔、力?」
三上さんを含めクラス全体がポカンとしている。
「そうだよ、魔力だよ」
それでもここで引く訳には行かないらしい女子が食い下がってくる。
「そ、そんな言い訳が通ると思ってるの?なら具体的にどう綺麗なのか言ってみなよ!」
「いいの?僕に魔力を語らせて」
「いいよ、やれるもんならやってみてよ」
あくまで僕がハッタリをかましてると思ったようだ。なら、いいだろう。存分に聞かせてあげるよ。魔力の良さビューティオブマナを!
「一切濁りの無いオレンジの魔力が一切の滞りなく流れている様はまるでギリシャ神話のプレゲトンを彷彿とさせ──」
その話は1時間を超え、黒鉄ソウトの武勇伝の一つとして永遠に残ることになった。
「──ということなんだけど、ってあれ?おーい、みんなそんなに疲れた様子でどうしたんだい?」
「あー、うん。ソウトくんの魔力愛も分かったし、口説いたわけじゃないってのも本当だったのね。ああ、失敗した。あんなに煽らなかったらよかった……」
なんでだろう、クラスの殆どがとてもぐったりしている。
「えっと、私はどこに座ればいいんでしょうか?」
三上さんは僕を除くと唯一何事もないようにしていた。心なしか少し嬉しそうにもみえる。きのせいかな?
空いている席は後ろから2番目の右端。つまり僕の隣だった。
「じゃあソウト君の隣に座ってください。これから1年間はこのメンバーでやっていくので、くれぐれも喧嘩はしないこと、いいですね?」
はーい、と子供のような気の抜けた返事。寝不足なのかな?
「これからよろしくね、三上さん」
「こ、こちらこそよろしく。それと、三上さんじゃなくてホムラでいいわよ」
彼女の顔は少し赤くなっている。さっき褒めまくったから照れているのかもしれない。
「じゃあ僕のこともソウトでいいよ。よろしく、ホムラ」
スっと手を差し出す。どれだけ時代が変わろうと握手の文化は重宝されている。
「そう。よろしく、そ、ソウト」
差し出された手を躊躇いがちに握るホムラの眼差しは、初対面の変な男子を見る目ではなく、懐かしいものを見るような目に変化していた。

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