魔術学院の二重奏者

田村タム助

転入生

魔術学院。ここに、『彼』がいるという情報を仕入れた。
「ようやく会えるのですね……」
茶髪の娘は誰もいない部屋で1人ポツリとこぼした。
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2限目は新人教員の紹介、学年主任や各担当教員からの諸注意と、特に面白いことも無く淡々と進んでいった。
そのまま時間が流れ、ついに待望の新入生紹介の時が来た。
「各担任から話は聞いてるかもしれないが、今年は転入生がいる。中々の才能の持ち主だからな、貴様らも負けないように精進するように。それじゃあ入ってきてくれ」
「本日からお世話になる三上みかみホムラです。よろしくお願いします」
壇上に上がってきた少女はどこか夢の中の少女に似ていて、そしてとても……
「綺麗だ……」
気がついたら口が勝手に呟いていた。
呟きが聞こえてしまったのだろう、ホムラのクールな相貌が崩れ頬が紅く染まっていく。
「な、なな……!」
「おい、黒鉄。私の話の途中で初対面の女を口説くとは、なかなかいい度胸をしている」
「い、いえ、すみません。そんなつもりは無かったのですが……」
本当にそのつもりがないと伝わったらしく、先生は舌打ちだけしてスルーしてくれた。
「まあいい。話を戻すぞ。今年から貴様らには座学と実技に加え対人戦の講義も受けてもらう。対人戦は座学と実技よりも成績やランクにおける評価割合が高い」
ランク。魔術教育機関や魔術機関に属する魔術師につけられる階級で、基本的にFからSまであり、特に目立った功績を挙げた者にはSSランクといった評価が与えられる。
「つまりだ。頭が悪かろうと、魔術の行使が下手だろうと、他者に勝てばランクは上がり、逆に他者に敗北すればランクは下がる。格下だと思ってた相手がいつ格上になるかわからないということだ。そこをきちんと理解していろ。私からは以上だ」

集会が終わり教室へ帰る道中。
「いやー、急に『綺麗だ……』とか言い出して驚いたよー。女に興味無さそうな感じ出てたけどやっぱソウトも男だったんだなー」
「だから違うって……ニヤニヤしてないで、ちゃんと前見て歩かないと」
「前見て歩かないとどうなるんだ?ラノベよろしく女子と衝突してしまってラッキースケベ!ってしまうのか?そりゃ大変だこのまま横向いて歩いていよう」
陽気な性格っていうか、頭のいいバカって言うか。
すごく楽しそうに話す彼を見るとこんなこと言いたくなくなってしまう。でも、現実は非情なんだよ真壁くん。
「前を見て歩かないと阿部あべくんにぶつかっちゃうよ」
「うぉっとすみません」
遅かったみたいだ。もう彼はホモ疑惑のある阿部ゲイルくんにぶつかってしまった。
「ああ、大丈夫だよ。ところで君、今日の放課後あいてるかな?」
「ひっ……あ、あいてますけど、どうかしましたか?」
こんなに怯えた真壁くんは珍しいんじゃないだろうか。
「いやね、凄く……」
「凄く……?」
「いい男だなって思って、ね」
「ごめんなさい他を当たってくださいぃ!」
あー、走ってっちゃった。
多分阿部くんスマイルがとても怖かったのだろう。
「三上ホムラさん、か……」
美しい容姿に秘めた美しい色彩の膨大な魔力。
その魔力の流れはとても綺麗で、一切の淀みがなかった。
「(あの夢の子と似てる気がする……考えすぎかな?)」

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