魔術学院の二重奏者

田村タム助

副担任

「転入生の話の前に、遅くなりましたが副担任の先生の紹介です」
先生の言葉と同時に扉が開き、全員の注目が集まる。
「紹介される。2年次4h副担任は私だ」
「そ、その声は……」
後ろで束ねられた長い黒髪に気の強そうな瞳、どことなく誰かに似ているような風貌の……
「2年次4h副担任兼学年主任の野瀬ハルナだ。今年1年で貴様らを二流までは叩き上げてやろう。そうだな、学年末までには全員少なくともBには上がってもらう!」
「そんな無茶なー!」
誰か、いや、後ろの真壁くんが叫ぶ。
そこでふと、ハルナ先生が優しい表情になる
「無茶ではないさ。私が教師としてつく以上は、ツーランクアップは確実だ。だから安心しろ、な?」
珍しい表情を間近で見てしまった最前列の生徒達は何も言えず、呆然としている。
「へー、あんな顔もできんじゃん」
「まあ、そういう事だ、覚悟しておけよ?
それでは、質問等があれば受け付けるが?」
「せんせー!野瀬ってことは、アキにゃ……アキナ先生とは姉妹かなにかですか?」
「そうだ。私が姉、こいつが妹だ」
「こいつなんて言わないでよ、お姉ちゃん!」
姉妹で教室を持つなんてあるものなのか。驚いた。
「お姉さんの方が胸は小さいんだな…」
ボソッと何を呟いているんだか。すぐ前の僕にもギリギリ聞こえる声だったから大丈夫だとは思うけど、聞こえてたらどうなることか……
「おい真壁、貴様今なんと言った?もう一度行ってみろ」
「「(聞こえてたーー!)」」
「(ど、どうするのさ真壁くん。僕は知らないよ)」
「(う、裏切りやがった!どうするもこうするもねぇよ!全力でごまかす!)」
そこで起立し、いつものニヤニヤが消える。
まただ。本当の真壁くんはどっちなのだろう?
「申し訳ありません、先生。お二人がよく似ていらっしゃるので、どちらかきちんと見分けるために 相違点を挙げていました」
「ふむ。ではそれを言ってみろ」
「はい。それではまず、眼鏡をかけているか否か。髪型、全身の筋肉の密度、……」
と言った具合にペラペラと二人の相違点を挙げていく。よくそんなに見つけられるな、とクラス全体が感心するほど大量に。
そして
「そして最後に、近接戦闘時に上半身の可動域が広がる、『スマートな胸周り』でs」
その時、僕の頭上を一陣の風が駆けた。
1拍遅れて何かがぶつかる音と上から降ってくる謎の白い粉、真壁くんの悲鳴。
そこで僕は現状を理解した。
「あれが、先生の『無拍子』…」
「ほう、私が何をしたか分かったのか。1人だけか?わかった者がいれば挙手しろ。正解すれば成績アップのチャンスだぞ?」
手を挙げたのは僕だけ。
「そうか。それでは黒鉄答えてみろ」
「先生が行ったのは、瞬間的な身体強化を使い、一瞬でトップスピードに乗ってチョークを投げただけ、ですね?」
先生は少し驚いた顔をしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「正解だ、黒鉄。貴様はなかなか筋がいい。徹底的に鍛えてやるから覚悟しておけ」
「は、はい」
嫌だなぁ、絶対にしんどいなんて言葉じゃ生ぬるいくらいの特訓だよ…。
「それと、後で話がある。放課後に私の研究室に来い」
「は、はい……」
「ではこれから新学期における諸注意をアキナの方からしてもらう。しっかりと聞いておけ。あとになって聞いてなかったは通用しないからな」
アキナ先生の話はなかなか長かった。そして救いの終了のチャイム。
「では、次の時間は第1多目的ホールで行う。絶対に遅れたりするなよ」
怖いなぁ……はぁ…。
そういえば結局転入生の話聞けてないし。

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