僕らのダンジョンアタカッーズ!

石神もんすとろ

ようこそ!ファンタジア学園へ!~特待生は注目の的でした 5~

ザワザワ…………ザワザワ…………

ざわざわと喧騒する広々とした体育館。その一角にバスター、ロデル、ミファーの三人組に加えて、レティアが彼らの隣を陣取り座っていた。

「…………(ムッスゥ~」
「ね、ねえレティアちゃん?急に戻ってきたと思ったらどうしたの?」
「ずっとムスッとしてんぞ。あれか?トイレか?」
「デリカシー無さすぎだろお前は。クニハルが一緒にいないってことはあれだろ。途中でコイツだけここに放り出されたとかだろ」
「そういや確かにクニハル居ねぇな……。おいチビッ子、クニハルどこ行った?」
「ん」
「「「んん?」」」

レティアはバスターの返答にぶっきらぼうに指を指すだけで返す。その方向は式典の壇上だった。

「えと、つまり?」
「出てくるのか!?アイツ!」
「ん!(コクリ」
「特待生だもんなぁ……。そりゃ代表として挨拶くらいするわなぁ……」

三人がそれぞれの反応を示すなか、ロデルの呟きに耳を傾ける者がいた。

(特待生……?)

クニハルがルシィクの店で、そしてマーヴェラス号のアイス屋で出会った金髪の少女が特待生の言葉をその耳でしかと受け止めていた。
少女はその事について聞こうと初対面の相手にも関わらず、ロデルに話しかけようとする。しかしその前にーー


『ーー静粛に!ただいまより、第100回ファンタジア学園入学式を執り行う!一同起立!』

ーーファンタジア学園の入学式が始まるのであった。




とうとう始まってしまったぁぁぁぁぁぁ…………。
というか代表挨拶ってなんだよぉ!話が急過ぎる!そういうのって前もって連絡とかするもんだよね!あるいはカンペを事前に用意してくれるとか!
……あ、でも特待生ってこと事態学園側もついさっき知ったばかりなんだよな。あ“ぁ“ぁ“ぁぁぁぁぁ!でもそれならそれで代表挨拶を後日やってもらうとか色々方法があるだろう!何も考えてないよ!というか頭真っ白で何も思い付かない!そもそも人前でスピーチなんて、中学の時に授業で1分間自己紹介をするやつ位しかやったことないよ!それだけでも十分恥ずかしいのに、今度は全校生徒、教師の前でスピーチなんて小市民の僕には難易度が高すぎる!……でもだからってここまで来て断る訳にもいかないし、せめてレティアが側にいてくれたら幾分ましなのに。
でもレティアあの後、学園長を呼びに来た人に強制的に連れてかれちゃったからなぁ。うぁぁ~……!たった一人で難局を乗り越えなきゃいけないのかぁ~……!心細い……。

「ホッホッホッホ。悩んでおるね、若者や」

僕がうんうん唸ってると後ろから諸悪のこんg……じゃなかった、アインザッツ学園長が話しかけてきた。

「今何か失礼な事を考えなかった?」
「イエソンナコトアリマセン」

なんて勘のいいお爺さんなんだ……。それで一体何のようなんだろうか。

「何、特に用はないのだがね。この後私も一応挨拶をするからね。それでも見て、どういう事を話すか考えてみなさい」

表情に出てしまっていたのかナチュラルに心を読まれる。それに考えて見ろって何を喋ればいいのかすら分からない現状なのに無茶がすぎる。

「ですが……」
「不安かね?ならば軽くアドバイスをあげよう。ーー適当になりなさい」

……て、適当?一体どういうーー

『ーー続きまして学園長挨拶!アインザッツ学園長、よろしくお願いいたします!』

その声と共に学園長がステージへと向かう。まだ言葉の真意について聞いていないのに。

「あ、あの「適当になりなさい」ーーえ?」

「他人に、友人に、恋人に、自分に、適当になりなさい。

そしてーーその心には信念を込めなさい」

「…………」

……信念を……込める……。

「不安になるのは決して悪いことではない。何故か?それは自分の心が正直な証拠だ。だからこそ適当になりなさい。こういう時こそ気楽にやるべきだよ、若者よ」

そういって学園長は壇上へと上がる。全生徒が学園長の登場に固唾を呑み込む。


『新入生諸君、先ずは入学おめでとう。さて、本来ならここで長い長い退屈な話をせねばならないのだろうが、正直皆ここまでの長旅で疲れていることだろう。故に私からは一つ。一つだけ、諸君には言わねばならない事がある。それはーー』


アインザッツ学園長が一拍おいて放つ一言はーー


『ーー君達には何もないということだ』


ーー衝撃的なものだった。


『あらゆる物を手に入れるための富はない。

 ーーあらゆる人種の人々の耳に届くような名声もない。

 ーー あらゆる障害困難を乗り越えるための力もない。

ーーそれが今の君達だ』

まるでいや、正しく暴言だ。教師としての言葉を明らかに間違えている。だけど学園長は一切表情を変えず淡々と言葉を綴る。僕達は無力であると。

『君達の中には少々厄介なモンスターを討伐した者もいるだろう。同年代と比べてレベルの高い者もいるやも知れん。あるいは既にダンジョンに潜った者もいるかな?』

『だがそれは、この場所では何の自慢にもならん!』

学園長の声に力が宿る。この一言で生徒たちの何人かは背筋をピンッと伸ばしている。

『君達のそのささやかな冒険は、君達にとっては偉大でも、我々から見れば些事だ。冒険者は常に己の限界を超え、冒険し続ける。それが己の命を対価にしていてもだ。何故か?決まっている、そこに「夢」があるからだ』

『「冒険」とは夢だ!そして夢とは決して尽きることがない!成し遂げさえすれば莫大な富を、永遠の名声を、圧倒的な力も手に入れる事が出来る!だからこそ人は「冒険」をするのだ。夢を叶えるために!』

『そのために必要な事は数多くある。剣を鍛えるもよし、魔法を極めるもよし、サバイバル技術を高めるもよし。ではそれらをどうやって身に付けるか?学ぶことだ、常に』

『この世は学ぶことが多い。剣の達人から剣の扱いを学ぶ事があれば、野生動物からはサバイバルの知識を汲み取ることできる。ーーそしてこのファンタジア学園は君達が学ぶために必要な事をほぼ全てを兼ね備えていると自負している。故に学びなさい、このファンタジア学園を卒業する頃には君達が「何もない愚者」から、「冒険者」になっている事を祈る。少し長くなったが、私からは以上だ』

パチパチ……パチパチ……

パチパチパチパチパチパチ……

疎らな拍手が徐々に重なっていく。激励にしてはなんとも過激すぎる気もするけど、取り敢えず学園長のスピーチは自分にはとても真似できないとということがわかった。

『学園長有り難う御座いました。続きまして新入生代表挨拶に移ります』

ーーほぁぁぁぁっ!!??き、来た……!もう出番が来てしまった!どうしよどうしよどうしよう……!何て言えばいいんだろう……。学園長のスピーチは僕には真似できないし!

「落ち着きなさい。ホレ深呼吸」

いつの間にか戻って来ていた学園長が僕の肩を優しく叩いてくれる。
深呼吸?深呼吸。すぅ~……はぁ~……すぅ~……はぁ~……。うん、取り敢えず落ち着いた気がする。まだドキドキしてるけど……。

「落ち着いたかね?」
「は、はい。なんとか……」
「ならば、よし。では行ってきなさい。そして言って来なさい、自分が言いたいことを包み隠さずね」

『新入生代表並び、特別待遇生徒、前へ』

「さ、呼ばれたぞ。行きなさい」
「は、はい……」

不安と緊張がまた少しづつ、顔を除かせてくる。今すぐにでも誰かに変わってもらいたいし、この場から逃げたい。でも、やれるだけやってみないと、何のためにここに来たかも分からない。
僕は覚悟……はまだ決まったわけじゃないけど、足を壇上へと一歩ずつ向かわせた。




ザワザワ…………ザワザワ……

ーー今特待生つったのか!?
ーー凄いホントにいるんだ!
ーーどんな人だろう?かっこいいかな!?

「周りが一気に騒がしくなったな」
「無理もないわよ特待生なんて、ほとんどが生きた伝説よ?世界中の冒険者が憧れる英雄達のほとんどが特待生として選ばれた存在だって話だし」
「つってもクニハルがそんな凄い奴には見えなかったけどよぉ。いや弱いとかじゃなくて、こう平凡過ぎる感じがするっていうか「クニハルは強いぞ!」ーーうぉ!?」


バスターの発言に異を唱えるレティア。

「クニハルは強くて優しいんだぞ!頭もいいし、とにかく超絶凄いんだぞ!」
「わかったわかったから落ち着けよ……」

 レティアがバスターに詰め寄ろうとするところをロデルが制止する。

「けどまぁ、いづれにせよ特待生に選ばれるだけの何か素養は持ち合わせているんだろ」
「別にいいじゃねえかなんでもさ!アイツが特待生だからって何か変わんのか?少なくとも俺はいつも通り接するぞ」
「……そうよね。クニハル君も変に気を使われない方がいいだろうし。あ、クニハル君が出てきた」

ーーあれが特待生?
ーーえー何か普通じゃない?ブサイクじゃないないけど格好よくもないしさ。
ーーあんま強そうには見えないな。

「好き勝手言ってんな」
「ほっときなさいよ」
「クニハル!おーモガァ……!」
「叫ぼうとするなよ!」

レティアの常識外れの行動をロデルが再び止める。
すると別方向から今度は驚愕の声が出てくる。

「なぁっ!?」ガタッ
「うわっ、なに!?」
「あ、いえその……すみません……」

金髪の女性が立ち上がったかと思うと、今度は顔を赤くしておずおずと座り込む。

「なんなんだ?」
「いいから、ほっときなさいよ」

『それでは新入生代表挨拶。シンドウ クニハル!』




『それでは新入生代表挨拶。シンドウ クニハル!』

ーーとうとう始まった!うわぁ……みんな凄い見てる……特待生のオプションのせいで期待しているのかもしれないけど、僕自身そこまで強くもなければ、凄くもないのに……。
いやそうだ、僕は凄くない。レティアがいなかったら魔物を倒すことすら出来なかったんだ。だったらそんな自分を伝えればいいんだ。

『し、シンドウ クニハルです。クニハルが名前で、シンドウが名字です。えとえと、何から話せばいいのか分からないけど取り敢えず……、僕は皆さんが思っている程凄い人間ではありません』

ザワ……ザワ……

『レベルだって低いし、戦えるスキルだってないし、サバイバルの知識も聞きかじったもので……かなり拙いです。それに最近までまともに魔物と戦う事すら無いような平和ボケした毎日を送って来てて、何で特待生になったのかも不思議に思っている位です。そんな時、この学園に半ば無理矢理入学されたときは流石に自分には無理だとおもったけど……えと、なんていうのかな……』

言葉がつまる。緊張をがぶり返してきた。深呼吸深呼吸。すぅ~……はぁ~……。よし。

『僕には夢らしい夢がありません。だから、学園長の言う冒険は夢だって言葉も、実はピンと来ないところがあります。でも、夢を持っている人なら知っています』

思い出すのは小さな命の恩人の事。その恩人から教わったこと。

『その人は僕とは違って様々な物を持っています。レベル、技術、スキル、アイテム、本当に色々と。そして僕とは違って、冒険者になって夢を叶えるために日々の努力を怠らないような人です。だからかな……』

つい先日の事なのにまるで遠い昔の思い出のように感じる。

『その人の夢が叶ってほしいなって思います』

『あ~……えと、つまり何が言いたいかと言うと、皆さんにも夢があるのならきっとここでなら叶えることが出来ると思います。根拠も何もないけれど、なんとなくそんな気がするんです』

『えと、なんだか曖昧な事ばかりだった気もするけどとにかく僕が言いたいのはその、特待生とかそういうのどうだっていいのでお互い頑張りましょう!……ということです』

『…………えと、以上です』

パチパチパチパチパチパチ

疎らな拍手が辺りを埋め尽くす。正直な所自分でも後半何言ってるのか分からなかった。でも上手く伝わったのかな。

『有り難う御座いましたそれでは続きましてーー』




「何か曖昧なスピーチだったね」
「仕方ないでしょう!?」

戻って来るなり学園長がいきなりぶっちゃけてくる。仕方ないんだ。何をどう伝えればいいのかよく解んないし、恥ずかしくて言葉ががたどたどしくなるし、もう二度とやんない。


「だがまあ、伝えたい事はなんとなく私にも伝わった。その心に信念があった証拠だ」

学園長……。やっぱり学園の長として勤めているだけあって経験が違う。僕もああいうスピーチが出来たらなぁ。

「それに私のスピーチも殆どその場で考えたアドリブだしね!ぶっちゃけ中身スッカスカ!」
「適当ですね」
「適当だからね」
 

ーーこの人は本当に学園長なんだろうか。
僕は甚だ疑問に思った。





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