僕らのダンジョンアタカッーズ!

石神もんすとろ

ようこそ!ファンタジア学園へ!~特待生は注目の的でした 4~

「着いたぞ。ここだ」

ルートヴァルツ先輩の後を着いていった僕達が連れてこられたのは、ファンタジア学園に5つある塔の内の1つ、その最上階だった。丁度目の前には、いかにも偉い人が居そうな部屋の扉があり、その上には『学園長室』とアーテリアの文字で書いてある。

「ここに学園長が居られる。最初に言っておくが、粗相の内容にな……」

僕らはそう言われてルートヴァルツ先輩にギロリと睨まれる。……こ、怖い。あまりの眼力に生唾を呑み込んでしまう。逆にレティアは僕の袖に隠れながらも、フーッと威嚇している。何というか本当に小動物だよね君は。

「……ふんっ」

ルートヴァルツ先輩は僕達の様子を見て、取り敢えず大丈夫だと判断したのだろうか、扉を三回ノックする。

『何用かね?』

扉の先から声が聞こえる。扉越しだというのに身体の芯に響く重い声が。これだけでこの扉の先にいる人物がただ者ではない事がよく分かる。
ん?レティアが服を摘まんできた。つい彼女の方を見ると、険しい顔に冷や汗が流れている。まさかレティアも緊張するほどとは。 
ルートヴァルツ先輩も扉の前にも関わらず身体を更にしゃんっとしている。

「ーー失礼致します!風紀委員副委員長ルートヴァルツ・ノイトフリーク、例の特待生をつれて参りました!」
『おお、そうか。入りなさい』
「はっ!」

目の前の扉が一人でに開いていく。何らかの魔法か仕掛けによるものだろうけど、こういった演出はより一層緊張感が増していく。
扉が開ききり、部屋へと入っていく。如何にも書斎といった様相の部屋に、何かの記念トロフィーのような黄金のカップやメダルが壁に飾られている。そして真ん中にはデスク、しかしそこには誰もいない。声の主を探そうと部屋を見渡すと、窓の側に立ち、外を見ている人物がいた。

「来たかね」

扉の前で聞いた声。どうやらこの人がこのファンタジア学園の学園長のようだ。
男性が此方へ振り向く。その素顔は皺が蓄えられ、眼鏡をかけた老いた男性。しかし、長身で服ごしからでも分かる程の筋肉質な身体はとても老いを感じられない。

「すまなかったね、ノイトフリーク君。本来なら教師を迎えに向かわせるべきだったろうに」
「いえっ!教諭方にはこの後の入学式の準備がありますゆえ!我々としても学園長の手伝いが出来るのは恐悦至極であります!」
「そうかね?そういってもらうと助かるよ。……さて、そこにいるのが例の少年か。で、隣にいるのは?」

学園長が此方へ目を向ける。というよりもレティアの方へ目を向けている。

「失礼ながら、この者は特待生と行動を共にしていた人物です。何か情報の補足に役立つと思い此方につれて参りました。不要でしたら直ちに追い出しますが」
「いやいや、一向に構わんよ。たしかに彼だけでは心細いだろうからね。友人であるというのなら知る権利もあるだろう」
「恐縮です!」

学園長が再び此方に目を向ける。今度はザッと見る感じとは違い、じっくりと此方を観察するかのような目だ。

「自己紹介がおくれたね。
私はアインザッツ・オルデンツ・グラウム。このファンタジア学園の長を務めている。さて今一度君たちの名を聞かせてはくれんかね?」
「はっ、はい!シンドウ クニハルです!シンドウが名字でクニハルが名前です!」
「レティア・チェ・ネッレヴッルだ!宜しくな!」
「ちょっと、レティア……!」
「貴様……!学園長へ向かってそのような口の聞き方を……! 」
「ホホッ、構わんよ。元気のある何よりの証拠だからね」

レティアの口答えを笑って許す学園長。さっきの威風堂々とした感じとは違い、優しいお爺さんのような雰囲気が出て来て少し安心する。

「さてルートヴァルツ君。彼をここまで連れてきてくれてご苦労だったね。改めて礼を言おう。有り難う」
「勿体なきお言葉です!」
「うむ。さぁ、もう君も行きなさい。まだ準備があるのだろう?後は私の仕事だ」
「はっ!失礼致します!」

そういってルートヴァルツ先輩は踵を返し部屋から出ていってしまった。残ったのは僕ら三人。……気まずいなぁ。

「さて、クニハル君だったね?」
「はっ、はい!」
「ホッホ、そう身構えなくていいよ。何もとって食おうとするわけじゃないんだから」
「じいちゃんクニハル食べるのか!?」

レティアがそうはさせまいと僕の腕にをギュッと抱きついてくる。いやいやそんなわけないからね?

「いいや、私はベジタリアンだからね。この年で肉はねぇ」

学園長!?そういう事を聞いてるんじゃないと思いますよ!?

「というかベジタリアンでその筋肉ですか……」
「ん?ホッホッホッ。私も昔は冒険者として名を轟かせていたからね。所謂昔とった杵柄というやつだよ」
「はぁ……」
「じいちゃんは超絶凄い冒険者だったのか?」
「さてねぇ。私はあまりの世間の評価は気にしない質だからね。ただここで学園長をやっていられるということはそれなりに周囲の評価は高いのだろうね」
「ということは超絶凄いんだな!」
「ホッホッホッホ。君も中々面白いね。ネッレう“づっ……レティア君」

……噛んでるし言い直したよ。ああ、レティアが凄い複雑そうな顔をしている。
何というか第一印象とは結構違うな。もっとこう厳格なイメージがあったから、以外とフレンドリーで少し驚いてる。これならそこまで緊張することもーー

「緊張は解れたかね?では本題に入ろう」

ーーう”っ!急に学園長の目が鋭くなった。まるで心臓を鷲掴みにでもされたような言い知れぬ緊張が僕の身体を駆け巡る。隣のレティアも腕を掴む力が心なしか強くなっている気がする。

「シンドウ クニハル君。先ずは質問をしたい。いいかね?」
「……はい」

この状況でNOと言えるものか。もし言えるやつがいたら見てみたい。それほどまでに目の前の人物の放つ威圧感は凄まじい。

「結構。ではクニハル君。君は、『何処の出身かね』?」
「ーーーーっ!?」
「……?クニハル?」

ーー面を食らった。嫌な汗が止まらない。僕にとってその質問は大きな意味を持つ。だって言えるわけがないだろう?異世界からやって来ましたなんて、荒唐無稽にすぎる。馬鹿にしてるのかと思われるのがオチだ。
いや、もしかしてこの人は知っているのではないか?僕の身に起きた事を。もしそうだとしたら今ここで、すべての事情を説明するべきだ。そうすれば何かこの現状に対する解決の糸口を見つけることもできるかもしれない。
ならばここは!

「その質問に応じることは出来ません(僕は実は異世界から来たんです)」
「何?」

ーーんなっ!?こ、これってあの時と同じ!?まさかまだ制約が働いているのか!!
いや当然か!まだ正確には入学したわけじゃないから制約が解けてない!くそっ、これじゃあ説明の仕様がない!

「クニハル……?どうしたんだ?クニハル?」
「……っああ。ごめんレティア」

どうやら自然と顔が強張っていたらしい。レティアに要らぬ心配をさせてしまった。
しかしどうする?学園長がさっきから此方を見たまま何の反応も見せない。不信感をもたせてしまったか?

「……ふむ、言えないか。なら仕方ないか!」

えぇぇぇ……。警戒していた僕の心配はどこ吹く風。あっさりと学園長は納得していたようだった。

「あの、そんな簡単でいいんですか?怪しいとは?」
「思うよ?勿論だとも。見たところジャッポン人のように見えるが、所々に違いあるしね。となれば何かしら人には言えない秘密があるのだろう?」

というよりかは言いたくても言えないんですけどね……。しかし、ジャッポン人?僕がそう見えるということはこの世界における日本人のようなものなのか?ニュアンスからみてもジャパンと日本が関係しているのは間違いないし。

「冒険者を生業とするものは数多くいるが、その中には脛に傷を抱えているものたちも少なからずいるからね」
「超絶痛そう……」
「レティア?脛に傷っていうのはね、後ろめたい事がある人っていう意味だよ?」
「じゃあ、クニハルも脛に傷があるのか?」
「いやそういうわけじゃないんだけど……うん。言いたくても言えないんだ。ゴメンね?」

本当なら包み隠さず言わなきゃいけないことなんだろうけど、こればっかりは正直どうしようもない。入学すれば制約が解けるそうだけど、実の所これが何処まで本当なのか分からない。いや、きっと僕は君に本当の事をいうのが怖いんだろうね。君の事だから、きっと真実を知っても変わらず接してくれるだろう。でも一抹の不安が僕の心を後一歩の所で押し込む。もしかしたら君に不気味に思われらかもしれない、どうしようってそんな不安が出てくる。それが怖い。ああもう、この世界に来てから僕は自分の嫌な所ばかり再認識するなぁ。
ーーと、僕が心の中で葛藤してると学園長が再び会話を繋げてくる。

「冒険者学園に来るものの中にもそういった過去に何かしらの問題を持つ者も多いのだよ。しかしだ、それが人々の冒険を阻む理由にはならない。どんな過去があれ、理由があれ、我がファンタジアは正面から受け入れる。……勿論学園で問題は起こしちゃダメだがね?」

なるほど。流石は大陸で一、ニを争うと呼ばれているだけの事はある。懐の大きさも一級品の学園ということか。

「大分逸れたが、話を戻すとしよう。クニハル君、君は特待生だ。この意味を理解しているかね?」
「いえ……全く分かりません」
「ふむ、ではレティア君。君はどうだね」
「私も知らない!」
「うんうん。元気があって大変よろしい」


「では説明するとしよう。特待生は簡単にいうなら、冒険者としての将来が約束されている者たちの事だ」

……えっ!?

「もっと言うならばレベル、ステータス、スキルの成長性が高いもの達の事を言う。つまり将来必ず一流の冒険者として世界に名を轟かす事が出来る存在ということだ」
「つまりクニハルは超絶凄い冒険者になれるのか!?」
「そういうことになるね」
「ちょっちょっ、ちょっと待ってください!」

頭の中がこんがらがってきている。僕が将来成抜群の冒険者?いやいやそんなわけない。グリーンウルフに殺されかけて、ピグラットを討伐するのに手間をかけるような僕が?あり得ないって。いやそもそもこの案内状はあの声の主が用意したものだ!僕が特待生なのはこれがあるからであって、僕自信の適正によるものじゃない!

「因みに特待生かどうかの判別は案内状を見たときに見ることが出来てね。『貴方は映えある我がファンタジア学園の特待生としての御入学が決定しております』と書かれていればその者は特待生としての才能があるということになる」

うぇぇ~……。あるんですけど、その一文。え?うそ?ということは僕ってホントに特待生なの?うぅぅ嬉しいのか悲しいのかよくわからない気分だ。

「事実、どの学園でも特待生として学園を卒業したものは例外なく皆が皆、その名前を世界中に轟かせている。
緋の闘争レッド・クリーク』リアンヌ・フル・クランク、
死聖女ジ・エンド』メリッサ・レイ、
海帝ポシードン』ソレイル・アルバトロス、
鉄剣要塞ソーディアン・ソーディアン』ハイドレク・ジキスムント。
どれもこれも皆、冒険者の中では知らぬ者のいないビッグネームだ」

誰一人として知らないんですけど……。というか二つ名がどれも物騒ですね。

「あ、今シショーの名前出た」
「嘘ぉぉ!?」
「なんと!誰の事かね!?」
「リアンヌ」

よりによって一番危なそうな二つ名の人来た!というよりもそんな凄い人の弟子だったのかレティアは。どうりで強いわけだ。

「なんと……。よもや『緋の闘争レッド・クリーク』に弟子がいたとは。やはり師のような冒険者を目指しているのかね?」
「うん!シショーみたいな超絶強い冒険者を目指してるぞ!」
「素晴らしい!夢を持つのはいいことだ!夢はその人個人の原動力となるからね。冒険者を目指すのであれば最も重要なものだ」

夢は原動力か。耳の痛い話だな。というかまた話が変な方向に飛んでいってるよ。この人結構おしゃべり好きなのだろうなぁ。でも今は自重してもらわないと。

「……あのー?また話がずれてますよ?」

正直レティアの件は僕も気になるけどここは早く話を先に進めないとだから、それに後で聞こうと思えば聞けるだろうし。

「おお、済まないね。歳を取るとどうにも話が脇に逸れてしまう。ああ~何処まで話したかな?」
「取り敢えず特待生の利点について教えて欲しいです」
「うむ、そうだね。では先ず特待生の利点だが二つある。一つは学費の免除、そしてもう一つは支給品の受け取りだ」

学費の免除、これは嬉しい。正直その辺りをどうしようかと思っていたところだからこの利点は有難い。でも二つ目は一体?

「支給品というのは?」
「君が欲しいものを出来る範囲で、学園が用意するというものだよ。例えばダンジョンアタックの際にポーションのような必須の道具が底を尽いていた場合、学園側が無償で用意しようと言うものだ」
「要するにダンジョンを攻略するときの最低限のアイテムを保証してくれるということですね?」
「左様。しかし、こちらはあくまでも最低限。基本的には君個人が用意するに越した事はないよ。冒険者は基本、自分の足で稼ぐのが当然だからね。あまり頼られ過ぎるとこちらの評価が下がるだろうから、注意するといい」
「成る程分かりました」

事実上、学費免除だけが利点として見た方がいいな。それでもいざというときの予防線が張れたのは大きいけど。

「では次は特待生としての義務についてだ」
「義務……ですか?」
「そうだ。当然特待生としては成績が常にそれ相応であると言うことを我々に示す必要がある。だから君には特待生としての義務を設ける」
「具体的には?」
「先ず成績上位30名にのうちの一人に必ず入ること。そして半月に一回、必ずダンジョンアタックに成功することだ」

ダンジョンアタックに?

「ダンジョンについてはここの授業でいやという程学ぶだろうからここでの説明は割愛する。さて、次はーーむ?」

突然学園長室の扉がノックされる。そして外から学園長を呼ぶ声が聞こえてくる。

『学園長!そろそろ入学式の時間です!準備をなさってください』
「おお!いかんいかん!もうこんな時間ではないか!いつの間にか色々と話し込んでいたね」
「あの、特待生についての説明は?」
「ある程度は話しているから安心したまえ。何かわからない事があるならばまた私に聞きに来なさい」
「はぁ、分かりました」

なんとなく大雑把にしか説明を受けてないような気もするが、この後入学式がある以上ここで学園長を引き留める訳にはいかないしな。

「では僕達は先に行ってます色々と有り難う御座いました。レティア」
「おー!ありがとなじっちゃん」
「もう!レティア」
「ホッホッホ!元気な挨拶大変結構!だが待ちなさい。クニハル君にはまだやってもらう事がある」

はい?

「あの、やってもらう事とは?」

「何、入学式の際に生徒代表として挨拶をしてもらいたい」
「あ、成る程」







……………え?




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