ノーヘブン

暇人001

#11 力の証明

 開かれた門の奥には人影が1つと
 直径50メートルほどで設計された土俵のようなものがあった。

「なんだか面倒ごとになってしまったみたいだけど、とりあえずやるしかない……よな」

 ミカドは独り言を呟き土俵に向かって歩み出す。

 一歩また一歩と歩みを進めるごとにだんだんと土俵と人影に近づいて行く。
 そしてミカドはゆっくりとした足運びで土俵の上に立つ。

「よろしくお願いします」

 ミカドが先に挨拶をする。

「おう、よろしく。俺の名前はレヴェルだ。
ミカドっつたか?まぁ死なねぇ程度にはしてやるつもりだから安心しな」

「あはは……」

「ほんじゃいくぜ」

「ちょっと待って下さい。これって武器を使ってもいいんですか?」

「ん?いいんじゃねぇのか?俺は使わないがな」

「わかりました、少し時間を下さい」

 ミカドはそういうとレヴェルの返事を聞くこともなく、腰に携えた刀を土俵外へと置いた。

「ほう。そんな不利になるような事をして勝てるほど俺はヤワじゃないぜ?」

「いいんです。武器を持たない相手に武器を使うのは武人の恥ですから」

 その透き通るまでの純粋な言葉と声はレヴェルの第六感を鋭敏にさせる。

「なるほどな……お前も相当の鍛錬を積んできているみたいだな」

「人前で話せるほどの鍛錬は積んでおりません。長々と話をしてしまい申し訳無い、始めましょうか」

「フン……」

 レヴェルが右手を上げるとゴォンという低い鐘の音が響く。

 その鐘と同時に足を動かしたのはレヴェル。
 レスリング選手の様に重心を低く構えて尚且つトップスピードでミカドとの距離を詰める。

「貰った。〈杼掌底ひしょうてい〉」

 レヴェルの手のひらに黄色いオーラが纏わりつく。
 その手はミカドのアゴめがけて一直線に突き上げあげられた。

 パァン

 武人が素人の打撃を軽々と捌くような動作でいとも容易くミカドはレヴェルの攻撃を捌く。

「なにっ!?」

「その技は見え覚えがあります。俺には通じません」

 (まぁ、お爺ちゃんから食らいまくって見切れるようになっただけなんだけどね……)



「ならば……」

 レヴェルの両拳に眩しいほどの黄色いオーラが灯る。
 肩幅よりも両足を開脚し腰の高さが膝の高さと同じになるまで低くし、背筋をピンとして両腕を目一杯引き、拳を放つ。

 その様はまるで空手の正拳突きを両腕で行なっているかのようだった。

「今度は、正拳突きかっ……しかし何故両腕を引くんだ……それに距離を取っているのにどうしてやめないんだ?」

 ミカドは正拳突きの特性を知っているため構えの動作に入ったのと同時に距離を取っていた。

 それでもなお、正拳突きの構えを崩さない。

 レヴェルは鋭い眼光でミカドをロックオンするかのように睨みつける。


「〈王打掌撃〉ッッ!!」

 莫大なオーラの奔流、それと共にレヴェルは姿を消す──いや、正確には超高速移動を可能にし一瞬にしてミカドの背後に回ったのだ。

 大きなスキと大きなタメを作り放ったレヴェルのその一撃はミカドの背中を捉えた。

 ミカドの背中は形を変えてあらぬ方向へと曲がり吐血と共に死を迎える──はずだった。

「なん……だと?」

 レヴェルの目の前にはミカドの姿は無く、放たれた拳は空を貫くだけであった。

「なかなか、鋭い攻撃ですね。だけどそれじゃあまだ遅い」

 その声が聞こえたのはレヴェルの背後だった。

「なにっ!?」

 レヴェルは慌てて距離を取る。

「貴様っ!どうやって俺の背後を取った!?」

 血走った目をし声を荒げミカドを問い詰める。

「貴方より速く移動した。ただそれだけです」

「そんな事が出来るわけがないだろうっ! 俺の俊敏性はトップクラスのSSだぞ!?」

「SSですか…… 俺はそれ以上の俊敏性を持っている。とだけ答えてさせていただきます」

「SS以上だと……ありえん……」

「それではそろそろ決着をつけさせて貰いますね」

 その言葉を放った刹那、レヴェルは勿論観客席で見ていたエルファンス達の視界からも忽然と姿を消した。

「終わりです」

 ミカドの無慈悲なその声と共にレヴェルの首元には斬り付けるかのように平手が添えられていた。

 トンっ

 そんな軽い音と共にレヴェルは意識を手放し全身を地面に預けた。


「勝負あったな」

 エルファンスがそう呟く。その言葉の数秒後にようやく鐘が鳴り響いた。






「あ、ありえん……あのレヴェルが一撃で落ちるなど……」

 ベルシアが肩を落とす。

 観戦していたエルファンス達は当然の結果だど言わんばかりに顔色1つ変えずに階段を降りてきた。

「お疲れさん」

 エルファンスがミカドに声をかける。

「ありがとうございます。かなり手加減しましたがもしかすると怪我を負っているかも知れません、回復魔法をかけてやってくれませんか?」

「なに、心配することはない。後の処理は全てギルドがやってくれる」

 そしてその言葉通り、土俵の上には既にレヴェルの姿は無かった。


「あ、あの……ミカド様、ベルシアが応接室で待機しておりますのでお手数ですがそちらの方へ移動していただいてもよろしいでしょうか……?」

 レリフィアがそうミカドに言う。その口調は戦闘が始まる前とは全く異なっていた。

 











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