ノーヘブン

暇人001

#10 不穏な空気

 レッド・ドラゴンを討伐したミカドら一行はギルドの受付窓口に目を輝かせながらたむろしていた。

「レッド・ドラゴン討伐クエストを請け負った皆様は左の扉から別室へどうぞ」

 レフィリアが窓口からそう指示する。

 その指示に従うように一同は足並みをそろえ別室へ向かう。


 通されたのはレッド・ドラゴン討伐のクエストを受けるときに入った部屋だった。


 その部屋にはギルドマスターであるベルシアが1人掛けの椅子に座っており、それに対面するように長椅子が置かれてその間には仕切りの様に長机が置かれていた。

 当然設けられた椅子だけではクエストに行った全員が座ることは不可能。

「まぁ、座ってくれ」

 ベルシアがそう言う。

 しかし、誰も座ろうとしない。
 唯一冒険者達が取った動きは、ミカドが椅子に座りやすいように道を開けたことだろうか。

「座っていいんですか?」

 無言の圧力──とはかけ離れた何か。
 言葉を有さずに伝わる何かがそこにはあった。

 ミカドが椅子に腰をかけると、続いてエルファンス、ヴァンド、ヒョードの三人が無言で座った。
 その行動に是非を問う者は1人もいなかった。


「まずは無事帰還おめでとう。そしてクエストの完遂ご苦労であった」

 ベルシアの言葉に皆が無言で頷く。

「さっそく報酬の話に入るが、Aランク冒険者達の諸君君たちの報酬は一人頭金貨50枚だ。そしてSランクの二人には白金貨3枚をそれぞれに渡す。最後にエルファンス君には白金貨5枚を渡し残りの白金貨は手数料としてこちらが頂いておく。異論はないね?」

 ベルシアのその発言は、その場にいた全ての冒険者の逆鱗を逆撫でする発言だった。

「まて」

 最速でそういったのはヒョード。

「どうかしたかね?」

「ミカド君の報酬が正当に払われていない」

「はははっ!面白い冗談を言うじゃないか。先の戦いでミカド君は貢献したのかね?」

 ベルシアがどうしてそのような横暴な態度を取ったのか。
 それは少し時を遡る──

◇◇◇◇◇

 事はある日のギルドで起こった

「冒険者登録ですね、ではステータスを確認させていただきます」

「はい、よろしくお願いします」

「《オープンステータス/2st第2位階魔法》」

 しばしの沈黙が漂う。

「ギルドに来るまでどのような経験をお積みになられてきましたか?」

 レフィリアが冒険者になろうとしている青年にそう訊く。

「いえ、特に何もしておりません。どうかしましたか?」

「そうですか……ではご実家が貴族だったり戦士の家系の産まれですか?」

「いえ、ただの村人ですよ?」

「なるほど……おかしいですねぇ」

 レフィリアが石版を青年に開示する。
 そこには驚異的なステータスが記されていた。




ジル・ババラ

攻撃:EX
防御:EX
俊敏:EX
魔力:EX

スキル

不明





「な、何ですかこのステータス……」

「失礼ですが一度ギルドの者とお手合わせして頂けますか?」

「わかりました」

 そして、青年がギルド専属の戦士と手合わせしたところ10秒も持たずして青年は戦士に敗れたのである。
 
 今回手合わせをした戦士はおおよそBランク冒険者と同等レベルのステータスしか持ち合わせておらず、そのような者に瞬殺されると言うことは、青年はその戦士よりも圧倒的に弱いという事である。

 この件についてギルドで話し合った結果、《オープンステータス2st第2位階魔法》に何らかの不祥事が発生し正しい数値を出す事が出来ない状態になっていると言う結論が出たために、ミカドのステータスも間違った物としてギルドマスターは対応する事に決めたのだ。

◇◇◇◇◇

──故にこのような発言をしてしまうのである。

が一体どのような活躍をしたのだ?何も活躍せずに戦場を必死に逃げ回っていたのであろう?そのような者に出す報酬など、一銅貨も無い」


「なんだとっ!?」

 そう声をあげたのはヴァンドだった。

「どうしたんだね二人揃って。私が言うことが何か間違っているのかね?」

 その言葉に口を開いたのはエルファンスだった。
 エルファンスはゆっくりと呼吸をしそしてゆっくりと口を開けてこう言った。


「断じて違う。ミカドがいなければクエストの完遂はおろか生きて帰る事もままなら無かっただろう。それ以上彼を侮辱する言葉を発するのなら、このギルドをやめさせてもらう。当然今回の報酬はいらん。そもそも今回の報酬を受け取る権利はミカドにしか無い。それほどに彼の活躍は大きかった」

 いつもは声を荒げているエルファンス、今回は冷静に淡々と言葉を紡いだ。

 そのいつもとは違うエルファンスの対応に圧倒されるベルシア。

「それが真実かどうか分からぬ状況ではなんとも返事することはできんな」

 あくまでミカドのステータスは誤ったものであると言う姿勢を崩さないベルシア。

「ならばギルド専属戦士の中でも指折りのヤツと手合わせさせると良い。そうすれば彼の実力が嫌でもわかるだろう?」

「よかろう。君がそこまで言うのだ試す価値はあるという訳だな。早速手配する、5分ほど待ってもらいたい」

 ベルシアのその言葉に無言で頷くエルファンス。
 ベルシアはそれを確認するなり早々に部屋から出ていった。


「ちょ……」

 ミカドが『ちょっと待って』と言おうとした瞬間、個室の扉が開きそこにはレフィリアが冷たい眼差しでミカドを見ながら口を開く。

「ミカド様、ただ今準備を整えておりますので実戦場まで来てください」

「実戦場?」

「場所でしたら案内します。私についてきてください」

「あ、はい……」

 ミカドを止める声も応援する声も聞こえない。聞こえるのはミカドを追うように鳴る大勢の足音だけだった。


 個室を出て左へ行き、20メートルほど続く廊下を一番奥まで進み受付窓口などがある一般の冒険者がたむろするフロアに辿り着くと、出入り口とは反対方向に備え付けられている大きな扉の前でレリフィアは歩みを止める。

「ここから先が実戦場となります。ご本人以外のお方の立ち入りはご遠慮願います」

 無機質な声でそう言う。

「了解した。では二階で見学させてもらうことにする。問題はないな?」

 エルファンスがそう尋ねるとレリフィアは無言で一礼した。


「じゃあ、俺らは二階で見てるからな。あ、やりすぎには注意しろよ?」

 エルファンスはそう言うと取り巻きの冒険者を引き連れいそいそと右へ進み階段を駆け上がって行った。

「今日であなたのメッキ・・・も剥がれ落ちますね」

「メッキ……ですか」

「えぇ。なんたって今回あなたの相手をされるお方は冒険者組合協会の中では屈指の実力保持者レヴ──」

 レリフィアが名前を言おうとしたのと同じタイミングで扉の向こう側から3回ノックされる音が聞こえてきた。


「準備できたようです。それでは健闘を祈ります」

 レリフィアがその場を離れると見計らっていたかのように扉が自動で開いた。






 

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