ノーヘブン

暇人001

#6 探索と発見

 紅炎竜レッドドラゴン討伐クエストまで後2日と迫った。今日この日までミカドが何をしていたかと言うと──

「ふむふむ……この辺りはモンスターが一体も出ていないな……」

 このように、国の一歩外の風景を観察していたのである。

「んー。表面から見て居ないように見えるだけで本当は沢山のモンスターが潜んでいるかもしれない……しかし1人で森に入って探るのは少し危険な気がする……あっ!創造魔法クリエイト、《探索サーチ》これでどうだろう……」

『ピピッ 《探索サーチ》の製作を確認、使用可能範囲は使用者を中心に半径3キロ以内です。また対象物は赤い点によって印されます』

 創造魔法クリエイトを使用した直後機械音のような音が聞こえ、そのご音声案内のようなアナウンスが脳内で再生された。

「い、今のナニ……? ま、まぁとりあえず使ってみよう……《探索サーチ》モンスター」

 そう唱えた瞬間、目の前に半透明のガラスのようなタブレットほどの大きさのプレートが出現し、今ミカドが立っている場所を中心に円が書かれておりその中に4個ほどの赤い点が印をされていた。

「おぉ!コレは成功でいいのかな?説明された通りだとこの赤い点がモンスターってことか…… 4体か、今の俺に倒せる保証はどこにも無いが……」

 ミカドの生まれ育った環境か元々の性分なのか、悪事を見逃すことは悪であると言う考え方を持っているため勝つという確証が無いにも関わらず、闘いを挑みに森の奥へと入って行ってしまった。

「右に2体……左にも2体……合わせて4体。
探索サーチ》で把握した数と同じだな」

 ミカドの左右には狼っぽい見た目をしたモンスターが2体ずついた。

「まずは左から──っ!?」

 しっかりと大地を踏み込む。そこから一気に加速してモンスターに飛び掛ろうとした瞬間。
 今まで体感したことのない速さを肌で感じた。その速さは目の前の視界が瞬きをする毎に変わる程だった。

 ミカドの体が止まった頃には狼たちの姿は無く、飛んできた方を振り向くと森に無造作に生えていた木を3本ほど薙ぎ倒していたのだった。

「え……」

 驚く。当然驚く。何に驚いたか、それはとてつもない速さで移動したことでもあり、木々にぶつかったにも関わらず傷1つ無い事でもあった。

「何も痛くない…… ああッッ!せっかく買った鎧が……」

 驚く事なかれ、オリハルコンという高い強度を誇る鉱石で作られた鎧も3本の木に高速で衝突して仕舞えば破損して当然だ。というか、壊れないほうが逆におかしいくらいの勢いでぶつかっている。

「はぁ〜…… また買うしか──ってそう言えば…… 創造魔法クリエイト修復リペア》」

『《修復リペア》の作製を確認。命を持たない物質全ての不良や傷を治す」

「よし……《修復リペア》」

 漆黒の鎧を脱ぎ、地べたに置くとミカドは魔法を唱えた。その瞬間、漆黒の鎧は神秘的な光に包まれる。
 数秒後ボロボロに破損した鎧は新品同様の美しさを取り戻した。

「おぉ!! コレはすごい……」

 己が作った魔法に感心しているミカドに2つの影が近づく。

「グルゥ……」
「ガルゥ……」

 二頭の狼はミカドを睨みつけ唸りを上げている。

「まじか……1度に2体を相手するのはマズイ……」

 ミカドは初めてココ異世界に来た時に対峙したモンスターとの戦闘を念頭に置きながらどう戦闘しようかと考えていた。

「だけど、アレだけ身体能力が上がっていたのなら、上手く立ち回れるなら、俺に勝機があるかもしれない」

 そう呟き覚悟を決める。狼がじわりじわりと距離を詰めてくる。

 二頭の狼との距離が5メートル程まで近づいたところで狼たちはピタリと足を止めてミカドをじっと睨みつける。

「グルゥ……」
 その鳴き声が上がった瞬間、一頭の狼がミカドの喉元を食い千切らんと、飛びかかる。

 大きく口を開け、高く跳んだその身体。着地する時には右半身と左半身がパックリと分かれていた。

 ミカドの類まれな剣才、そして神話とも言われて来た刀。この2つを持ってすれば狼の両断など容易いものだった。

「す、すごい……全ての動きがスローに見える……」

 神から授かった圧倒的身体能力ステータスの向上により、一度集中すれば獣の動きなど止まって見える程だ。

 自分がいまどれ程までに強くなっているのか、その片鱗を理解したミカドは残る一頭に向かって斬りかかる。

 鳴き声をあげる暇も与えない速さの斬撃。
 ミカドが狼の身体を通り過ぎたのと時を同じくして狼の胴体と頭は離れたのだった。

「コレなら後の2体もいけそうだ……」

 そう言い残しミカドは残り2体のモンスターの命を容易く狩取った。
 そして気づく、自分の身体能力ステータスが先の戦闘によって更なる高みへ上昇した事に。

創造魔法クリエイト《オープンステータス》」

『ピピッ 《オープンステータス》の作製に失敗しました。既存の魔法は作ることはできません』

「創造魔法……あくまでオリジナルの魔法でないと作れないということか」

 ミカドは計4頭の狼の命を短時間で狩取り、国へ帰ったのだった。
 そして、国に帰ったミカドは衝撃的な光景を目の当たりにするのだった。


◇◇◇


シンシェル国


「やめてくださいっ!誰か助けてっ……!」

「うるせぇっ!とっとと付いて来やがれ!」
「グヘヘ こりゃいい女が手に入ったな」
「さて、可愛がってやるか」

 今、ミカドの目には3人の男が1人の女性を強引に引き連れ路地裏に向かっていく光景が写っていた。

 もちろんこの光景を見ているのはミカドだけでは無い、他にも見ている人はいるがその殆どは見て見ぬ振りをしているか、急に用事を思い出したかのようにその場を立ち去る者ばかりだった。

「どうして誰も止めないんだ……」

 ミカドは女性を助けようと一歩を踏み出す。その瞬間、後ろから腕を掴まれる。

「悪い事は言わねぇ、命が惜しいならアイツらには関わるな」

「何故ですか、何故助けようとしないんですか!」

「俺だってな、助けられるものなら助けてやりてぇよ!だがな、アイツらはBランク冒険者達だ、俺らみたいな一般人が立ち向かっても敵う相手じゃねぇのさ。わかったら──」

 男性の言葉を遮るように無言で掴まれた腕を振りほどく。

「おい、止まれ」

 ミカドの放ったその言葉で場は静まり返る。3人の冒険者はこちらを振り向き半笑いで話しかけてきた。

「はぁ〜?なに?ボウズも混じりたいってか?」
「ボウズは家に帰ってママのおっぱいでも吸ってろやぁ!」
「おいガキ、その歳でまだ死にたくは無いだろ?いま謝ったら許してやるよ」


「おいっ!兄ちゃんなにやってんだよ!早く謝れっ!」

「貴方はあの女性を救いたいんですよね?」

「なんだこんな時に!さっきも言った通り俺らじゃ敵わねぇんだよ!」

「わかりました。ここで待っていてください。必ず救い出します」

 そんな会話をしていると冒険者達は少しずつ此方に近づいてきてこう言った。

「謝罪が聞こえねぇな?あん?」

「謝るのはお前達の方だ、その女性に謝罪して解放しろそうしたら許してやる」

「あん!?テメェいまどういう立場にいるのかわかってんのか!?」

 冒険者の1人が腰に携えた剣を引き抜きミカドの身体を両断する勢いで振り下ろした。

 パチッ

 ミカドはその剣を、右手の人差し指と親指で容易く掴んだ。
 そしてミカドはこう言った。

「こういう立場だ」

 それは言葉ではなく、目に見えない圧力と愕然とした力量の差によって冒険者達を含む周囲の人々全てに伝達した。

 動物とは生存本能というものを備えている。それは自分の命に危険が迫った時にそれから逃れるために設けられた装置のようなものだ。

 だがこの生存本能も完璧に作られたものではない。ある一定の条件を満たせば本来の防衛と言う働きとは逆の働きをする事がある。

 それは、絶対的な死を悟ってしまった時だ。

「死ねやぁっ!!」

 掴まれたままの剣を手放して、腰あたりに隠し持っていたのであろう短剣を手に取りミカドの額目掛けて跳びかかる。

「は、離せぇっ!いてぇ、いでぇぇ、だすげで……」

 ミカドは、掴んでいた剣を素早く離し、その手で男の頭を掴みギチギチと言う生々しい音を立てながら無慈悲な顔をして冒険者を見つめていた。

「謝れ」

「わ、わかっだ。わがっだから……離し……て」

 その言葉を聞くなりミカドは力を込めていた右手を脱力し男を解放した。

「「「す、すいませんでしたっ!!」」」

 男たちは女性に謝罪すると逃げるようにその場を立ち去った。

「あ、あの……」

 はだけた服を整えながら女性はミカドに声をかける。

「お怪我はありませんか?」

 先程までの非情な雰囲気とは一転して爽やかさと優しさを兼ね備えた声でミカドは言葉を返した。

「あ……はぁぃ……」

 女性は顔を赤く染めて無事であることをミカドに伝えた。

「そうですか、それは良かったです!それでは俺はここで失礼します」

「あ、あぁの!お名前を教えてくれませんか?」

「ミカドと申します」

「ミカドさんですね!この度の件心より感謝申し上げます。この事は父にも伝えさせていただきます」

 女性は手を前でクロスさせ上品な礼をすると、微笑ましい笑顔をミカドに見せた。

「あの、貴方の名前は──」

 ミカドが女性に声をかけようとした時、十数人の男たちが声を大にしてこちらの方へ走ってきた。

「「「「お嬢様っ!!」」」」

 その声は明らかに今目の前にいる女性にかけられているものとしか思えなかった。だが、目の前の女性はそんな事は気にもかけず名乗り始めた。

「私の名前は、アリサ・エルナンド・バミロニアと申します」

 アリサの自己紹介が終わるのと時を同じく、駆けつけた男性たちがミカドに切っ先を向けながら恐喝とも捉えられるほどの注意を促す。

「貴様っ!お嬢様から離れろっ!さもなくば──」

 その言動をアリサは手で抑えて口を開く。

「この方は私を救ってくださった命の恩人です。無礼な行為は慎みなさい」

「な、なんとっ!申し訳ありませんっ!!」

 切っ先を向けた男は剣を下ろし、ミカドに謝罪をした。


「いえいえ、大丈夫ですよ。それよりも貴方達はこの方の護衛か何かですか?」

「そうだとも!我々はユークリア・エルナンド・バミロニア侯爵様の息女アリサ様の親衛隊である!」

「侯爵!?それって貴族って事ですよね?」

「うむ、その通りだ」

「アリサ様は貴族の娘さんだったんですか……」

「アリサ様じゃ無くて、アリサとお呼びください」

 親衛隊の後ろからアリサの声が聞こえてきた。

「なりませぬっ!いくら命の恩人であろうお方でも、市民にそのような権利はございません。君もわかったらコレを受け取って立ち去りなさい」

 男性は腰から少し膨れ上がった革袋を取り出してミカドに押しつけるように渡した。

「なんですかコレは?」

「謝礼金だ、それなりの額はある」

 その言葉を聞くなり、つい先程まで知らぬふりをしていた周囲の人たちの目が一点に集中したのがわかった。

 人間は醜い生き物だ、己に利益があることには目を光らせるがそうでない時には目を閉ざし耳すらも閉ざしてしまうのだ。

「いえ、このようなものは受け取れません。俺は当然の事をしたまでですから」

「なっ。今なんと申した」

「ですから、受け取れないと──」

「侮辱しているのかっ!侯爵家の金は受け取れないと、そういう事を言っているのかっ!」

 男性は声を荒げながらそう言った。

「やめなさいロベルト、ミカド様はそんな事一言もおっしゃってませんわ」

「失礼しました……」

 男性ロベルトはアリサに向かって謝罪をする。

貴方ロベルトは謝るお方を間違えています、貴方が謝るべきはそこに居られるミカド様でしょう?」

「そ、その通りです……」

「大丈夫ですよ、無礼な事を言った自覚はありませんが、そう捉えられるような事を言った俺にも非はありますので。それではココで失礼します」

 立ち去るミカドを呼び止める様に、アリサは口を開く。

「ミカド様、お待ちください。少し無礼な質問になってしまいますが、ミカド様は見た目からして冒険者様でいらっしゃいますよね?今夜宿泊するアテはあるのでしょうか?」

 アテはあるが、好きこのんでボロ屋ラザーに宿泊したいとは思わない。

「今夜の宿はまだ未定です。それがどうかなさいましたか?」

 もしかすれば良質な睡眠を取ることができる宿を教えてくれるかもしれない。淡い期待を持ちながらミカドはそう答えた。

「でした、私の屋敷来ませんか?そこで改めてお礼をさせてください」

「いいんですか!?」

 宿とかそう言うレベルじゃなかった、貴族の屋敷に泊まれるなんて、幸運としか言いようがない。

「えぇ、もちろんです。あなた方親衛隊も文句ありませんよね?」

 親衛隊は無言でコクリと頷いた。

「ロベルト、馬車を用意してくれませんか?」

「はっ。直ちに」

 程なくして馬車が到着した。馬車は、黒を基調として左右の扉部分には青い薔薇の様な紋章が彫刻されていた。

「さぁ、どうぞお入りください」

 アリサはミカドを見ながらそういう。

「え、良いんですか?」

「もちろんです」

 アリサに勧められるままに馬車にのり備え付けられた長椅子に座る。

 馬車はアリサとミカドが乗車したのを確認するなりすぐに動き出した。
 馬車に揺られること10分──

「「・・・」」

 男女が個室で2人っきり、ミカドは生前恋愛経験というものがなく、好意を抱いた女性もいなかったため今この状況は非常に新鮮なモノに感じられたのと同時に変な緊張感によって口を閉ざすしか無かった。

 対面して座っているアリサも同様で下さを向き頰を赤く染めながらひたすら沈黙を守っていた。

「「あ、あのぉ──」」

 2人が同じタイミングで勇気を絞り同じ言葉を発した。

「あっ、すいません。なんでしょうか?」

「あ、い、いえ。ミカド様のお話を聞かせてください」

「そ、そうですか。では言わせてもらいます」

「はいっ!」

 これ程まで発言することを心から望まれたことがあっただろうか?そう思う程にアリサの目は輝いていた。

「どうして親衛隊達を引き連れずに1人で街を歩かれていたのですか?」

「そ、それは……」

「それは?」

「1人で街を歩いて民の皆様は何をしているのかをこの目で見たかったからです」

「なるほど、そういうことでしたか。それでアリサ様も何か言いたいことがあったようですが?」

「ですから、アリサ様ではなくアリサと呼んでください!」

 アリサは少しキレ気味でそう言った。

「ア、アリサ……は何を言おうとしてたんですか?」

「んー。なんだか、違和感がありますね。お互い敬語は使わないことにしませんか?」

 ミカドはその言葉にコクリと頷き返事をした。

「それで、アリサは何を言おうとしてたんだ?」

「うん、こっちの方がしっくりくる。これから公の場以外ではこの話し方で行きましょう」

 アリサはどこか満足気にそう言った。

「それで、話ってのは?」

「ミカドは何処の出身の人なの?」

 少し間を置き考え込むミカド。
 正直に言うべきかそれとも──

「実は、つい最近までの記憶しかないんだ。生まれた時の記憶もないし何処で育ったかもわからない」

 今はまだ真実を話す時期ではない。

「そうなの……話したくないことを聞いてしまってごめんなさいね……」

「あぁ、いやいや気にしてないから大丈夫だよ」

 嘘をついているのに謝れるのはあまり、良い気分ではない。

「でも──」

「お嬢様、屋敷に着きました」

 馬車の外からロベルトの声が聞こえて来た。

「降りましょうか」

「そ、そうね」

 閉鎖された空間馬車から外へ出たミカドの目に飛び込んで来たのは、中世ヨーロッパの巨大なお屋敷を彷彿とさせる豪邸だった。

「こ、ここがアリサの屋敷……?」

「そうよ?」

 それがどうかした?と言わんばかりの顔で涼し気に答えた。

「マジかよ……」

 声が漏れてしまうほどの豪邸の両開きの扉は開いており、その中央には如何にも品の中そうな衣を身にまとい、両サイドには屈強な戦士が配置されている。

 馬車から降りたアリサとミカドそれから親衛隊達は豪邸の玄関の前まで歩いた。

「お父上、ただいま帰りました」

「無事でよがっだぁぁ……」

 先程まで威厳の塊の様だって人物が急に泣き崩れ感情を露わにした。

「えぇ……」

 ミカドも内心どころか声に出すほどドン引き状態だ。

「お父様、こちらにいるミカド様が私を助けてくださったの」

「なっ。厄介ごとに巻き込まれたのかい?無事だったかい?」

 過保護すぎるだろ……アリサは見た感じ俺と殆ど同じ年齢に見えるぞ……

「心配しすぎです。ですが、ミカド様が居なければ私は今頃大変・・なコトになっていたのは間違いありません」

 その言葉を聞くなり父親の目の色が変わった。

「おい、ロベルト貴様らは一体何のために雇われているのだ。私の娘を護衛するためだろう?今後はより一層注意を払って護衛するように」

「はっ!気を引き締めて警護に当たらさせて頂きます」

「ミカドくんと言ったかな?立ち話もなんだ、中へ入ってくれ」

「し、失礼します……」

 言われるがまま屋敷の中へと入って行く。

 ミカドが通された部屋は応接室と呼ばれる部屋で長い大理石を天板にした豪華な机とそれを挟む様に置かれたフカフカなソファが置かれていた。

 父親に対面する様にミカドは座り何故だかアリサもミカド側のソファに腰をかけた。
 そして、ミカドはこれまでの経緯を事細かく説明した──



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