魔女がいない森と落としモノ

Vib

シナリオ・ティ・ファーレ





 むかし、むかし。太古ともいえるほど、むかし。

 この世界では異端審問会────通称;魔女狩りなるものが横行していた。その当時の魔女の定義はひどく曖昧なものであったが、魔女の疑いをかけられた者はそれが疑惑の域を出ずとも、魔法使いの手によって否応無しに処刑され闇に葬られていった。
 運良く魔女狩りから逃れられることの出来た彼等彼女等は、森の深く奥深く、最深部に身を隠し人間との繋がりを完全に絶った。

 それから幾許か年月を重ねたある日。
 突如とつじょとして魔物、と呼ばれる異形の存在が現れるようになった。
 魔女が逃げ込んだ森から涌きでるかのように姿を見せる魔物は、神出鬼没に現れては人間のみを殺していく。家畜には手を出さず、作物は荒らさず、人間だけに牙を剥き襲いかかって往く。
 標的をたったひとつに絞った魔物はその対象を駆逐し喰らい続けた。その様はまるで、かつての虐殺を彷彿ほうふつさせるものであり……まさに立場の逆転と云わざるを得ない惨状を目の当たりにした人々は、茫然と呟いた。

 ────これは魔女の呪いであり、いつかの報復なのだと。

 煉獄から遣わされた血を渇望する獣の如く、くれないの道を敷いて行く魔物を討伐する傍ら、恐怖におののいた人々はとある掟を確立させた。その内容を簡潔に述べるならば、魔女には
 木々が鬱蒼うっそうと生い茂り、魔物が跋扈ばっこする森の最深部には魔女がいるとされ、その森々は識別の意を兼ねて名前を与えられたのち危険指定区域に分類。深部は侵入・接近禁止となった。




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 それからどれだけの刻が過ぎただろうか。
 気付けば数ある危険指定区域の森のうちのひとつに、ある奇妙な噂が纏わり付いていた。

 ────『いまはあの森に魔女などいない』。

 魔女がいないとささやかれるその森の名は、ブランシェ。古い歴史書には、たしかにブランシェの森にも魔女がいたと記述されているのだが。















 いまもなお、ブランシェの森では魔物の出現が確認されているにもかかわらず────もう長いこと、かの森の魔女の姿は確認されていないのだという。



コメント

  • みきトラ

    1話読みました
    なかなか面白そうですね!
    次の話も楽しみにしてます。

    1
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