少女と異世界。

時雨

12.ついに僕の主人公としての役目が…

「す、凄い!本当に倒して来たんですね!しかもこんなにも大きなジャイアントボアを一撃で黒焦げにしてしまうなんて!」

そう言ってフィーユをベタ褒めしているのは、先程達成報告をした受付の人だ。

「まぁ、こんなのどうってことないわよ」

フィーユもそんなことを言いながらも自慢げに視線をこちらによこして来る。

まぁ、僕はと言うとその横に並んでいるのだけれど、受付の人には見えていないのか、それともフィーユしか見えていないのか、会話の蚊帳の外である。

「はい、こちらが今回のクエストの報酬金ですね!」

見ると、金貨2枚が渡されている。こちらの世界の相場とかは知らないけど、おそらく高額な報酬なのだろう。

「ありがと、あ、それとギルドカードの更新もさせてもらえる?」

ん?更新?

「はい!こちらへどうぞ!」

何故だろう、さっきから受付の人もキラキラしているような。

……


「凄いです!フィーユさんのランクが5に上がってますよ!」

「まぁ、当然ね!」

ランクか…確か10段階あるんだっけ?

「あ、あと僕のもお願いします」

「あ、はい、分かりました」

あれ、なんかフィーユの時と反応が全然違う…。
そもそもランクが上がったからといって何が変わるのだろうか。なんだよ、どうせ1ですよ。

「はい、チナツさん、ギルドカードの更新が終わりましたよ」

どうも、といって受け取ると、左上の数字に変化はなく、1のままだったけど…。

空欄だったはずの場所に一つ、何か書いてあった。

「こ、これって…なんて書いてあるんだ?」

そういってフィーユに見せると、少し考えてるそぶりをしてから答えた。

「えーと、そうね[フルアボイド]って読むのよ」

「ふるあぼいど?どんな意味なんだ?」

「そうね、千夏にわかる言葉で言うなら"全回避"と言ったところね」

全回避…なんだか凄そうなんだけど!

「え、え?じゃあスキル獲得って事でいいのか?」

「まぁ、そこにそう書いてあるんだからそうなんじゃないの?」

「おぉ、ついに僕の主人公としての役目が…」

「何をぶつぶつ言ってるの?まぁ、良かったじゃない、まだどんなものかは分からないけれどね」

そうだ、スキルの名前からするに、回避するスキルという事なんだけど、フィーユが言うには"全回避"って感じらしいし……。

「そ、それでさ、スキルってどうやって使うんだ?」

「え?スキル名言ったら発動するとかじゃない?」

え、そんな簡単?

「まぁ、簡単に越したことはないか…。」

「そうそう、簡単なのよ。さて、今日はもう宿に戻って休みましょうか」

何だろう、凄い気になる。ていうか、普通最初に獲得するならもっと攻撃出来そうなスキルが良かったな…。

なんて、考え事をしてるうちに宿に着いた。

「あぁ、疲れた…。僕はもう寝たいところなんだけれど、フィーユはどうするんだ?」

「私も寝るわよ。疲れたし」

外はいつのまにか日が傾いていて、もう薄暗くなってきている。

「はぁ、思えば今日1日でいろんなことがあったなぁ…。空から落ちるわ、イノシシに吹っ飛ばされるわで……」

そして、スキルも獲得したわけだ。

「明日もクエストやるし、そろそろ寝たら?」

「はいはい、言われなくても寝るよ」

それから僕は5分もしないうちに寝てしまった。自分が思ってた以上に身体が疲れていたみたいだ。




千夏が寝た宿の部屋。一人こっそり作業に入る。ベットの上には円形の陣が描かれた布が敷かれている。

ふふふ、さて、これからどうしましょうかね。千夏も寝たことだし、ちょっと他の世界````でも見に行きましょうかね…。

まぁ、それほど長く出かける気は無いけど…。
状況次第じゃ帰るまでに時間かかりそうだし、一応置き手紙でもしておこうかな。

じゃあね、千夏。しばらく会えなくなるけど、しっかりやっていくのよ?





ここは…どこだ……?
夢でも見ているのだろうか…?

白いもやがかかって、周りがよく見えない中、わけもなくただひたすらに歩き続ける。
何故だか歩かなければならないような気がして。

不意に靄の奥に強い光が差し込んだ。

人影が見える。光のせいか真っ黒になっているが、なぜか口だけは鮮明に見えている。

何か叫んでいるのだろうか。しきりに口が動いているが、なにも聞こえない。

しかし、最後に見えた口の動きは何となくわかったような気がした。

さようなら

そう言ったような気がした。









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