少女と異世界。

時雨

4.そこは、真っ白な世界だった。

てっきり電気は通っていないものだと思っていたんだけど、少女が下矢印ボタンを押すと、すぐに扉は開いた。

「うっ…!」

暗闇に慣れてしまった目にはエレベーター内の照明は眩しすぎた。

「何やってるの?さぁさぁ、早くお乗りなさいな」

いつのまにかエレベーターに乗り込んでいた少女が急かすように僕を手招く。

「あ、あぁ」

呼ばれるがままエレベーターに乗り込む。

扉が閉まると、下降を始めた。

「なぁ、異世界ってもしかして地下にあるのか?」

少女は首を横に降る。

「言ったでしょ?異世界はここの世界とは別の世界なの」

「別の世界……」

少女が言ったことの意味があまりわからないため、言葉を反覆してしまう。

「そう、別の世界なのよ」

会話はそこで終わってしまった。

程なくしてエレベーターは止まった。
しかし、扉は開かない。

「あれ、扉が開かないぞ?」

少女を見ると、開かないことが正しいと言うかのように普通にしている。

今度は上昇を始めた。

「ん?登ってるけど、これで良いのか?」

少女の反応を見るけど、変わらず普通にしている。

それから何度も、下降、上昇を繰り返した。

うん?これってあれか?都市伝説のやつじゃないか?

「なぁ、これって僕知ってる気がするんだけどさ、これで本当に行けるの?」

少女は少しめんどくさそうに視線をこちらに向けた。

「あー、あれね、確かにエレベーターって共通点はあるけれど、そもそもできる場所っていうのは限られてるのよ。しかも、それには条件があって、必ず同行者```が居ないといけないの。」

「へー、つまりは世間でやってたやつはデタラメだったってことなのか?」

「まぁ、場所と条件さえ合ってれば行けるんだから、完全にデタラメ、とは言えないかもね」

しばらくして、エレベーターは止まった。

「お、着いたのか?」

「まだよ、まぁ、ここまでくればあと少しね」

そう言うと、少女は最上階のボタンを押した。

因みに現在の階数の表示は出ていないため、今どこにいるかは分からない。

……

やがて、エレベーターの上昇が終わると、少女はこちらへ振り向いた。

「さぁ、準備はできたわよ」

「え、今までのは全部準備段階だったのか?」

「そう、今までのは準備段階。今からが本番」

そう言うと、少女は僕に向かって左手を差し出した。

「じゃあまず、手を繋ぎます」

…異性と手を繋ぐのなんていつ振りだろうか。緊張してしまう。

「え、えっと、こう、ですか?」

少女の左手を右手で握る。

「うん、それじゃあ、今から言うことは絶対に守ってね」

少女の顔つきが真剣になった。

「わかった」

「第一に、私が良いと言うまで、私の手を絶対に離さないこと。第二に、気を失わないように頑張ること。以上」

ん?気を失わないように頑張ること?え、何、今から何が始まるんだ……。急に不安になってきた。

まぁ、今まで気を失ったことなんてないし、大丈夫だとは思うんだけれど、せめて何が起こるかこさえて欲しい。
「今から何が……ッ!?」

何が起こるか聞こうとした、その時だった。

エレベーターの照明が落ち、真っ暗になった。

「なっ、なんだ!?」

続いて襲う浮遊感。内臓がフワッとするような感覚。
……落下だ。

「うっ……!!落ちてんのか!これ!」

やばいやばいやばい!めっちゃ怖い!なんだこれ!死ぬ……!?

「くっ…!あっ…!?なん、だ?」

視界の下の方で何かが光ったような気がした。

「さぁ!しっかりと私の手を握っていてね?」

落ちる恐怖から逃れるように、右手にある少女の手の感覚を強く意識した。ぎゅっと握ることで、しっかりと握っていることを確認する。

正直、喋る余裕もないけれど、さっきの光が気になり下を見ると、やっぱり光はあった。まるで、トンネルの出口のような……。

遥か下にあった光はどんどんと大きく、近づいてくる。

やがて光は視界全てを覆った。

「くっ…まぶし……」

目をつぶっているはずなのに、まだ眩しい。

しばらくすると光は弱まって来た。

恐る恐る目を開けると、そこは、真っ白な世界だった。

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