少女と異世界。

時雨

3.ラムネ、そんなに好きだったの?

午後七時二十分。

僕と少女は親に見つからないように家を出た。

外はもう真っ暗だった。

「それで?異世界に行くって言ったって、どこに行けば良いのさ」

「こっち、付いてきて」

あいかわらず人気のない通りを僕と少女は歩いて行く。

「なぁ、そうえばだけどさ、なんであんな喧嘩してたんだ?」

「向こうから声をかけて来たのよ、お嬢ちゃん一人?ここらは人が少ないし危ないよってね」

声真似が妙に似ているのが面白い。

「うわ、典型的な怪しい奴のセリフだな」

嫌なことを思い出して怒っているのか、少しムッとした表情になっている。

「そんで私は、心配要らないって返して行こうとしたんだけど、あいつ、急に私の腕を掴んで来て、お兄さん達が送って言ってあげるよ、って……今思い出すだけでも腹が立つわね」

やっぱり怒ってた。

「そ、そうか、それは災難だったな…」

「そんで私が断って、掴んで来た手を剥がそうとしたら、いいから大人しく付いて来い、とか言って強引に連れていかれそうになったから、投げてやったの」

……は? 投げた?

「え、投げたって何を……?」

「決まってるじゃない、その男を、よ」

えぇ……。

「あぁ、だから僕が見たとき、一人は倒れてたのか」

なるほど、そこからあのガタイのいい兄ちゃんが出て来たってわけか。

「まぁ、そこからはあなたも見ていた通りよ」

ふんっ!って、そっぽを向いてしまった。
これは、何か話題を変えなくては……。

「あ、そ、そうだお腹すいてないか?僕、夜ご飯まだ食べてないんだよ、どっか寄っていこう!」

お腹が空いているのは本当だけど、目的は美味しいものを食べて機嫌を直してもらおうって作戦だ。

「そうね、そうえば私もお腹すいてるかも。近くに何かある?」

と言うことで、近くのコンビニに寄ることに。






「こ、これは…!」

ん? どうしたのだろう、お菓子コーナーの前で何かを見て固まっている。

「なぁ、どうしたんだよ、何食べるか決まったのか?」

少女が振り向くと、手にはラムネが握られていた。おまけにおもちゃが付いてる。

「なんだ、ただのラムネじゃん。そんな驚くことな……」

睨まれた。少女とは思えない鋭さで。

「買って」

「はい」

カゴにはラムネが一つ追加された。

まぁ、そこからは適当におにぎりとか飲み物をとって、レジにて会計して、コンビニを出た。

「ラムネ、そんなに好きだったの?」

前を歩く少女に声をかける

「そ、そう、ラムネが好きなの。か、勘違いしないでよね、おもちゃが欲しくてラムネを買ったわけじゃないからね?
そうよ、ラムネが好きだから買ったわけであってそこにたまたま、偶然にも、おまけに、おもちゃが付いていただけなんだから!」

「そ、そうか」

おもちゃが欲しいならそう言ってくれればいいのに。
難しいお年頃というやつなのかな?

道中、おにぎりを食べながら、その異世界?に向かっていた。

「それで、異世界にはどうやっていくんだよ?」

「まぁ、付いて来なさいって」

うーむ、勿体ぶられてしまった。



………

しばらく歩いて行くと、

とあるビルの前で、少女は立ち止まった。

「ここがいいかしらね、入りましょ」

ビルはいかにも古い感じで、人気もない。
電気も付いていないので、真っ暗だった。

少女は当たり前のようにエントランスの扉を開けると、慣れた足取りで奥へと進んで行く。

僕も少女の後を追うように進んで行く。

少女は立ち止まり、振り向いた。
(正直、真っ暗で何も見えないぐらいだけど、足音で何となくそんな気がした)

「ここよ」

少女はそういうと、下矢印のボタンを押した。
エレベーターだった。

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