少女と異世界。

時雨

1.出会いは突然に。

 僕の名前は玖珂 千夏くが ちなつ17歳 男子。
いたって普通の、どこにでもいるような高校生。

ただ、この普通の日常を、僕は少し退屈に思っていた。

「はぁ、なんか起きねぇかなぁ……」
そんなことを思いながら帰路についていた。

ん?あんな所に人集りひとだか が?
いつも人通りの少ない道なのに……何かあったに違いない。そう思って僕も混ざって何なのか見てみた。

「ん〜、見えない……」
 
何とか人混みを割って入っていき、最前列へと出ることができた。

そこには、一人の倒れた男と、もう一人のガタイの良い男、それに対峙しているのは……一人の少女だった。

「おーおー、嬢ちゃん、やってくれたなぁ!そこの兄ちゃんは俺の連れなんだわ」

ガタイの良い男が少女に怒鳴り散らしている。これは……やばいのでは?
てか、誰か助けろよ!何でみんな見てるばっかで何もしないんだ……。

「先に突っかかって来たのはそっちでしょ?そうやって人に迷惑かけてなにが楽しいのかしらね」

うわぁ、そんなこと言って大丈夫かよ……。

男の顔が更に強張り、一歩前に出る。

「おい、調子に乗るなよ?俺だって大人だからなぁ、優しくしてるうちに言うことを聞きな」

「誰があんたの言うことなんかっ!?」

少女が話している途中で、突然、倒れていた男が起き上がり、少女を押し倒した。

ろくに受け身も取れずに倒れたせいで頭を強く打ったようだった。

少女はピクリとも動かない。

「はっ!油断したな!おらぁ!」

そんな少女に、男は容赦なく殴りかかる。

パシッ

気付いたら、僕は男の腕を掴んでいた。

「あ?誰だてめぇ?邪魔するんじゃねぇよ!」

やばい、やってしまった。何で出て来たんだよ……僕。

「あ、いや、えっと、その、暴力はいけないなぁ、なんて思いまして……あはは……」

とりあえず時間を稼ぐために話をしようとしたけれど、やっぱりそんなのは無駄だったようで……。

いきなり殴りかかって来た。

「あっぶ!?」

しかし、パンチで伸びきった男の腕を掴むと、とりあえず少女から離そうと、そのまま引っ張って後方へ投げた。

そこには、偶然ガタイの良い男がいた。というか、そこに投げたんだけど。

「おわ!?っとと、あぶねぇ…って!?すまん兄ちゃん!」

兄貴かよ!兄弟揃ってなにやってんだよ!

ガタイの良い男は腹を抑えていた。

「てめぇ、後で覚えとけよぉ?っくぅ…ててて」

どうやら僕の投げた男がどこかにクリーンヒットしたらしい。

「ごめん!兄ちゃん!ごめんって!」

今度は兄弟喧嘩とは、仲のいいことだ。
……ってそうじゃない、今のうちに逃げなきゃ!

僕はとりあえず少女を担いでその場を離れた。
兄弟は喧嘩に夢中で、気付かれずに済んだようだった。

てか、どうしよう、この子。側から見たらただの誘拐犯じゃないか!?

やばい、誰かに見つかったら、人生が終わってしまう。

いや、さっきのこと説明すればいいんだけど、いや、なんかあたふたしちゃって余計怪しまれかねないしなぁ……。

近くの公園……はダメだ、絶対誰かいる。

しかし、ここからそう遠くない場所と、この子を寝かせても大丈夫な場所って言ったら……。

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