銀河大戦〜やる気なしの主人公が無双します〜
不吉な予兆
第1話《旅立ち》
想えばあれは10年前、父に連れられて見に行ったのが初めてだった。僕の目の前に広がる広大な大地に開いた大きな口からは、無数の巨大な艦が宇宙へと飛び立っていった。
 父はこの艦隊を総括する司令官として働いている。そんな父の背中がこれまで以上に大きく感じ、子供ながら、そんな父を誇りに思った。
 いつか父のような立派な軍人になると。
 巨大な艦は宇宙へ進む。愛する人を守るため、己の信念を貫くため、個々の色んな思いが詰まった巨大な艦が艦隊を組んで宇宙へ進んで行く。
僕らの生活を脅かす悪い奴等を倒しに…
 それ以来、父は帰ってこなかった。母と共に見送ったその後ろ姿が最後となった。
――――――――――――――――――――――――
連邦領辺境星系第3惑星ウェルヘイム
「おぉ〜い待てよっ!ちょ置いてくなってイヴァン!」
「遅いぞクロイツ!早くしろ。誰のせいでこんな時間になってると思ってるんだ⁈さすがに初日に遅刻は洒落にならんぞ。今回配属される艦の艦長は堅物らしいからな…。死にたくなければ急げ!」
「わかったから、もう少しペースダウンしてぇ〜…」
そのころ、連邦辺境星系防衛艦隊 特型駆逐艦ヨーク艦内では、定期演習のため乗組員たちが忙しなく動き回っていた。
「ペルダン艦長報告します!本日付で本艦配属予定の士官、クロイツ少尉とイヴァン少尉が未だ乗艦されておりません。出航予定時間10分前になっております!如何いたしますか」
「カステン先任軍曹、慌てるな。もう少し待ってやろう。あと5分で来なければハッチを閉め、出航に取りかかれ。新任とはいえ彼らも軍人だ、遅刻などするはずがない。それに今回この艦の副官になる奴は、先の大戦の英雄殿の息子だそうだ。そんな奴が寝坊など腑抜けた理由で遅刻などしないだろう。それなりの理由があるはずだ。今暫く待とうではないか」
5分後 特型駆逐艦ヨーク艦橋内
「ハァ…ハァ…ハァ…。ふぅ〜なんとか間に合ったぁ〜」
「ボソボソ(バカ!そんなだらしない事するな。艦長の目の前だぞ)」
「いや、だって走ったから息切れの一つぐらいするさ…」
「おい…聞いてるか?聞こえてるのかそこの2人!!」
「「っ!?」」
「まずは着任の挨拶から先だろうが!貴様ら礼儀も知らんのか!!」
「し、失礼しました!本日付で本艦砲雷長に着任しますイヴァン・ゲルトナー少尉であります」
「同じく本日付で本艦の副官として着任しますクロイツ・アルティザン少尉です。よろしく」
「うむ。ギリギリで滑り込んできたくせに、約1名口の利き方がなってない奴がいるな。(…まさか、この腑抜けた奴が英雄の息子か?)それで、ギリギリになった訳を聞こうか。クロイツ少尉?」
(ギクッ)
「えぇーと、私がですか?その…ここに来る途中お婆さんが道に迷っていまして、2人で道案内していたところこのような事になりました。はい」
「つくならもっとマシな嘘をつけ!なんだその髪は。寝癖が付いたままではないか。軍人たる者、身嗜みと行動には気をつけろと習わなかったのか!」
「いや、その…寝坊したくてしたわけではなく…何というかその…」
「したくてする寝坊があってたまるか!罰として1週間艦内全部の便所掃除を命じる。連帯責任として、クロイツ、イヴァン両名で行うように。異論はないな?」
「はっ!クロイツと2人謹んでお受けいたします」
「えぇ〜…1週間ですかぁ?もう少し短k」
「クロイツ少尉が不満だそうだな。ならクロイツ少尉だけ俺の部屋掃除も追加しておこう」
(げっ!)
「艦長、それはないですよ!内容に不満ではなく期間の長さについてですね…」
「なんだ、もっと長い期間が良いのか?それでも別に構わんが。ならいっそのこと1ヶ月にでも…」
「艦長!先のご命令謹んでお受けいたします」
「フフッ最初からそう申しておけば良かったものを。この罰で自分の愚かさを反省するんだな」
「…ゴホン。この件はもう良い。そこの2人、急ぎ持ち場に付け!これより訓練のため、出航する」
「進路、小惑星帯第7訓練宙域。機関部エンジン点火!只今より訓練を開始する。訓練だからと気を抜くなよ!総員配置につけ!」
出発前のゴタゴタにより出航がわずかながら遅れてしまった。ギリギリ乗艦したせいでペルダン艦長にこってり搾られた2人は、早々に持ち場に着き自らの職務を遂行しているはずだったが…アイツだけは該当しなかった。
「そろそろ惑星の重力圏を抜けるな。クロイツ少尉、次の進路と到着予想時刻は」
「ふぁぁあ…え?何か言いましたか?艦長」
「何をアクビしとるか!訓練だからと気を抜くなと先も言っただろ!もう一度言う、次の進路と到着予定時刻を報告せよクロイツ少尉!」
「すいません。えぇーと、次の進路はと…120.256919です。到着予定時刻は1030となります」
「よし。少尉、訓練だからと気を抜くな。その行動が戦場では命取りになることを心せよ」
「精進します。艦長」
「少尉、これより30分毎に現状を報告せよ」
「はっ!」
(いやぁ、参った参った。もう少し柔らかい艦長なら良かったものの。こうも堅物となると気が滅入りそうだ。なんとか上手くサボるようにしないと身が持ちそうにないな…。あっ!誰か紅茶でも入れてくれないかな。あと本が欲しい。働きたくはないけど、退屈なのも嫌なんだよね〜。あぁ〜家に帰りたい。)
  兎も角、艦長に言われた30分毎の報告はしっかりとこなして、演習予定宙域に到着した。そこには大小様々な艦艇が群れをなして待っていた。
  その中で一際目立つ大きな艦が辺境星系防衛艦隊旗艦ワリャーグである。
その巨艦には1発で小惑星を吹き飛ばすことが出来そうな主砲が船体中央部に配置しており、ネズミ1匹足りとも寄せ付けないであろうと思われる副砲が、船体をびっしりと覆い尽くしていた。
この巨艦が辺境星系を守る最後の砦であり、辺境星系に住む人々の心の拠り所でもあった。
「うわぁ〜いっぱいおりますねぇ。圧巻ですよ」
「まぁ、今回は過去最大級の大規模演習だからな。驚くのも無理はない」
「艦長、たしか今回の演習では、政府のお偉いさんが旗艦に乗艦なさって終始観覧されるそうですね」
「ん?なんだ少尉知ってたのか」
「そりゃあ、演習の台本ぐらい読みますよ。艦長、人を無知な奴だと勝手に思い込まないでください」
「そうか。それは済まなかった。しかし、演習要綱を読んでおきながらあの出だしか。貴様には気合が足りないようだ」
(あちゃーまたしゃくに触ったかな…?これ謝っとく?いっとく?)
「いえ、少し気が緩んでいただけで、艦長のおかげで今はしっかりと引き締めております!」
「その言葉しかと聞いたからな。終始真面目に勤めよ」
演習開始時間が刻々と迫っているなか、国境線の近くでは不審な船団が連邦領内に向かっていた。
「…奴等、この特殊偽装船団には気付いていないようだな。中尉」
「はっ!閣下のご指示通り、連邦の輸送船団を極秘裏に拿捕し改造を加えたこの特殊偽装船団が、計画を無事に成し遂げることでしょう」
「まぁ、アイツらは呑気に定期演習を行うみたいだしな。それに、連邦内部に送り込んだ工作員からの情報によれば、今回の演習では連邦政府のお偉いさんも乗艦してるらしい。我らの偉大なる帝国としては、この機会を逃すわけにはいかないな」
「仰る通りでございます。シュトルフ閣下」
「さてと、平和ボケした奴等に目にもの見せてやるか」
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