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いずれ地に咲く

作者 ピヨピヨ

花の話 十話

「俺に話とはなんだろうか?」

フリージアとカルミアが去って行った後、私は彼にそう言った。
別に怒っているわけじゃない、何せ彼はもうしゃべれる時間限られている。
そんなギリギリの状況の中、なぜ恋人ではなく俺を呼び、話をしようとしたのか。
その理由がなんとなく知りたかった。

「フリージアには聞かれたくなくてね……でもとても大切な話なんだ…とても…。」
「……。」

私がベッド脇にある椅子に座ると、彼は思い詰めたような声をまるで絞り出すように、話し始める。
大体察しはついている、自分がどのように殺されたいか、殺される時は痛いのか…痛くないのか、死んだらどこに行くのか、大体その辺だろう。
くどいようだが、人と違い精霊や妖精には死と言う概念がない。
なので初めから天国地獄などと言う考えもない。
もちろん天界には神様がいるというのは知っているだろうが、ほとんどのやつはそこに行くことがない。
死と言う概念がない分、彼らはそれが怖くて仕方ないのだ。
強いて言えば人より死が怖いと言える。
私も死がどのようなものかと聞かれたら返答に困るようなものだし、知っていることもかなり少ない。
同胞に会っていれば答えられるのかもしれないが、あいにくそういう仲間もいない。

それに職業柄あまり考えないようにしている。
だが答えられることには応えようと思う。
それが礼儀だ。

「正直に答えてくれるかい…何も嘘をつかず……真実だけを教えてくれると…誓ってくれる?」
「ああ、答えられることには答えよう。」

私がそう言うと彼は安心したようにふうとため息をつく、私と言えばこれだけ前置きが長いと、とても酷な質問をされるのではと身を固めていた。
そして彼が言い放った言葉は1つ。

「……美人は好きかい?」





「………………………………は?」

美人?

「嫌いではないが…。」
「そうか…まぁわかるよ、彼女とても美人だからね、さすがに僕も…いつ見ても惚れ惚れするようなとても美しい女性だなと思うよ、それにただ美しいだけじゃないんだよ…いつも僕のこのボロボロの体を拭いてくれたり、おいしい朝食を作ってくれたり…心もとても美しい女性なんだ……それにね彼女あーゆー風に大人っぽく見えるけど、実はとても可愛らしい面があってね、ゲホ、僕はほんとに彼女に出会えてほんとに幸せだし、ゴホッだからこそ心配なんだけど。」

ものすごい勢いでしゃべるな…
でもやはりあまり喋れないようで、最後の方なんか少し咳き込んでいた。
とゆうかこれは一体何の話なんだ?
美人がどうのこうの…
おいしいご飯?かわいらしい面?

「だから元は僕も行くつもりだったんだけど…歩けなくなっちゃってね…だから彼女1人でいかせたんだけど、よく考えたら君って男じゃないか……もちろん君みたいのは見境がないわけじゃないっていうの知ってるよ、でもやっぱり男じゃないか、それに結構君って顔整ってるし……だから…その…」

おい
なんだか話が見えてきたぞ。
すごくどうでもいい話が見えてきたぞ。

ウィリは、少し間をおいてから何かを決心し俺にこう言った。

「彼女に手出してないよね?」
「んな訳ないだろ。」

なぜ私が依頼人に手を出さねばならないのか、むしろそう見られていたことに私が少し怒りを覚えた位だ。
それになんだ、それは呼び止めてまで私に話す話なのか?
全く、リア充とはよくわからん。

「と言う事はまさか……あの女の子が「だからどうしてそうなるんだ。」」

というかそれ、フリージアにも同じようなこと言われたぞ。
そんなに私が少女主義に見えるのか…?
泣くぞ。

「……なら、あの子は一体何なんだい?」
「ただの人間だ、俺の家に花を売りに来た子供。親に捨てられたらしい。」
「そう、なんだ…。」

一悶着終えたところで、またこれは疲れたようにベッドに沈む、朝に取り替えてもらった包帯はすでにしみ出してきた体液よって少し黄ばんでいた。

「戦争が起こってから…この辺もだいぶ変わっちゃったね…きっとその子がいた村も男の人が徴兵されていって…きっとひどく荒れていたんじゃないかな……ルージア国もとてもひどい有様だったよ……。もうかれこれ300年ぐらい前のことだけど、終わったのはつい最近なんだよね…。」
「…。」

なるほど、昔から人とあまり関わって来なかったから知らなかったな。
戦争は昔からちょくちょくあったが、300年続く大規模な戦争は大国レベルだ。
まぁ、そんなことを知らずに生きてきた私にとっては、正直どうでもいいことだ。

「もしかしたら…その子の親もその子のためを思って……手放したのかもしれないね…ゴホっ」
「そうだといいな。」
「僕らにもっ、あんな子供がいたら、ケホッいいな、ゴホッほんと…」
「…大丈夫か?やはりあまり喋らないほうが…」

私がそう言うと彼はすまないねと力なく言って、ベットに深く沈んだ。
しばらく咳が続いていたので、落ちつくのを待ってる間、私はベットの傍にある写真立てを見つけた。
黒髪の褐色肌の青年が明るい金髪の少女に後ろから抱きしめられ(というか締め付けが強く苦しんでいるようにも見える)花畑で笑っている。
おそらくこの金髪の少女がフリージアだろう、であればこの黒髪の青年こそが彼、ということになる。
あまり人と接しない私にも、彼と彼女との雰囲気からとても良いものを感じた。
彼らの未来の末が見えたような、きっと彼らは幸せに生きられるだろうと思うような、そんな幸福感が写真から溢れ出ていた。

「フリージアの花ことばを知っているかい?」
 
不意に彼の落ち着いた声が聞こえ、私は目線を彼に戻すと、彼は薄い青鋼色の瞳を写真に向けそして目を細めた。

「あどけなさ、純潔、親愛の情というんだよ……彼女にぴったりだね………。僕は彼女を悲しませたくないんだ、僕らは会えてとても幸せだった、でも僕の病気が進むにつれて彼女は悲しむようになっていた……僕は彼女とあまり話さなくなった、意図的に、僕への愛情減らして、僕が死んでも、生きられるように……。」
「……。」
「ずるいよね、僕らあんなに愛し合っていたのに…今さら中途半端だよね…でもわからないんだ、死ぬ間際に恋人にどうしたらいいか……何を話せばいいのか、何を言い残せばいいのか、わからないんだ…。」

彼は目元の包帯をかすかに濡らしたのがわかる、少し経って嗚咽が聞こえた。
息を少し乱すような小さな嗚咽が部屋を満たす。
まるで彼のドロドロになった様々な気持ちが海のように満たしていくように…
私は何を言っていいかわからず、ただ黙っていた。
ただ、なんとなくどこか懐かしい気持ちになった。






「突然泣いちゃってごめんね、やっぱりこの年になるといろいろ涙ぼろくなっちゃって…。」
「大丈夫だ、気にしてない。」

本当に慣れていることだ。
死に慣れてない精霊達はよく泣く。
残された者のことを思い泣くのは当然のことだ。

「ふふ…僕、決めたよ、やっぱりフリーとちゃんと話す…最後は男として、かっこよくお別れしたいし、けじめはきちんとつけないと……。」
「そうか…。」

そう私が落ち着いて言うと、ウィリも目をかすかに歪ませて微笑んだ。

「フリーとはいっぱいいろんな国へ行ったよ…医学の国バルセア、黄金の国ジパング、竜の渓谷ルージアとか…こほッ…人間にばれないようにしていくのが少し大変だったけど…。」

世界の大きさがどれほどのものなのかわからないが… 2人は長い時間をかけて長い距離を旅していたことはわかる。
実際に今回の旅も彼女はかなり手慣れていたように見えた。
彼らは信用しあっているのだろう、でなければ旅と言うのはできない。
それくらい、彼らが愛し合っていると言う事でもある。

「それまではどうやって国に入ってたんだ?」
「ふふ…入る位なら荷物のチェックで大丈夫だし…それに僕なんかは耳を隠していけば後は…人と見分けが、つかないしね…。」

男性型のエルフは羽が生えないと言うのを聞いている…フリージアは羽を見事に隠しているが、ウィリはそれができないらしい。
全くそこまでしてなぜ人の国に入りたいか…
人なんて煩わしいだけで…いつも残酷だ。
一緒にいるだけでいつも虫酸が走る。
ふとカルミアの顔が頭をよぎる。
…まぁ、あいつは別として…

「君は…楽そうでいいね、ほとんど人と同じだし、どこにいったって…馴染めそうだ。まるで人が…ッ。」

そこでウィリは詰まらせたように、激しく咳き込む。
ベッドを軋ませながら、悶え始める彼におもわず私は椅子から立ち上がり、ベッドに身を乗り出す。

「お、おい、やっぱり喋るのはもうやめておけ、本当に喋れなくなるぞ!」
「…ッガ…、ゴホッガッ…そう、だね…ッもう、喋るのは…できなさそう。」

そう、まるで息を吸うたびに咳き込む彼は、苦しいのか私の服を引っ掴む、そのままヒュー、ヒュー、と喉から変な音を立てながら、青鋼の瞳を私に向ける。

白い少女を思い出した。
いつか殺した、殺めた、弔った。
あの少女。
あの目と同じだ。
なんで、そんな目で私を見るんだ…。

「僕を、殺してくれないか?今、ここで。」
「………ッ」

嫌だ、殺したくない。
大体残されたフリージアはどうするんだ?
さよならを言うんじゃなかったのか?

「殺して、今、フリーがいないすきに…苦しむ、姿を、見られる前っ、にさ。」
「もしかして、初めからそのつもりで呼んだのか?」

そう私が言い終わる間にも、彼は苦しそうに悶える。
私の服を掴む指がどろりと崩れた。
悶えた時の反応により、取れた包帯からはクズクズになった体があった、
彼の体を見て私はゾッとした。
酷い有様だ、この状態で喋っていたのかと思うと、とてもじゃないが信じられない。
彼は身体中に走る肉が腐りそして落ちていく痛みに、耐えながら両手で私のフードを引っ掴む。

目で訴える。
苦しいほどの痛みから救ってくれ。
早く殺して楽にしてくれと…

お願いだからそんな目で私を見ないでくれ!

言葉ともつかないような、部屋中を震わすほどの悲鳴が耳を襲う。
思わず彼の手を振りほどき、後ずさる。

彼はグズグズに体を崩しながら、それでも私に懇願する。
言葉にならない声で。
私の混乱する頭は一周回って冷静になっていた。
後で殺すも、今殺すも、結局同じじゃないか。
そんな考えさえ頭に浮かんだ。
すっと懐に入っていた銃を静かに掴む。
手に馴染む感触は、私に落ち着きと本来の自身の仕事を思い出してくれる。

私は死神。
それ以上でもそれ以下でもない。

ゆっくり銃を取り出す。
銃口の先は、分かり切っている。
あとは引き金を引くだけ。
なのに、今日に限って手が強く震える、その時だ。

「…ごめん…ね、フリー」

彼がかすかにそう言った気がした。
私の銃口が光った瞬間に。

ベシャ

黒く血ともつかないようなものが、飛び散る。
そしてゆっくりと広がっていく。
反動で落ちたベッド脇に置いてあった写真は床に落ち、ガラスは割れる。
幸せそうな男女は、広がっていく黒に飲まれていった。

突然と静寂になった家の中、外の音がやけに鮮明に聞こえる。

ああ、どこかで強い風が吹いたなと、私は静かに理解した。

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